2011年 秋期 応用情報技術者試験 問3
EA (Enterprise Architecture)
全国の5か所に工場をもつ機械部品の製造業X社は、同種の機械部品を製造する旧Y社と旧Z社が半年前に合併して設立された。
旧Y社と旧Z社では、業務の進め方や使用する帳票が異なっており、合併までの限られた期間内に、これらの統一を行うことが困難であった。情報システムについても、統合できておらず、合併前の情報システムに必要最低限のシステム間連携を行って使用している。これによって、効率よくIT投資ができない、全社横断での情報活用ができない、顧客への即日納期回答ができないなどといったことが問題になっている。
これを解決するために、情報システム部門のD課長は部下のE君に、EAの考え方を用いて、情報システムの全体最適化を検討するよう指示した。
[EAの策定手順]
E君は、全体最適化の検討を、次のEAの策定手順で行うことにした。
手順1 EA策定の目的と対象範囲の明確化:CIOと情報システム部長(以下、部長という)にヒアリングを行い、EA策定の目的と対象範囲を明確にする。
手順2 現状(AsIs)モデルの分析:現状の業務と情報システムの分析を行い、現状の業務と情報システムの問題を明確にする。
手順3 理想(ToBe)モデルの策定:業務と情報システムの問題を解決し、全社レベルの業務と情報システムのあるべき姿を策定する。
手順4 次期(Target)モデルの設計:理想(ToBe)モデルと現状(AsIs)モデルを対比させ、現実的な業務改革の方針と次期情報システムの導入目標を決める。
[EAのアウトプット]
E君は、手順2~4で、EAの四つの体系ごとに、次のアウトプットを作成することにした。
(1) 業務体系(BA:Business Architecture)
業務内容と業務フローを分析するために、業務機能の構造を階層的に分析して業務と情報システムの対象範囲を明確化するaと、データを処理する組織、
場所、順序を明確化する業務流れ図(WFA:Work Flow Architecture)を作成する。
(2) データ体系(DA:Data Architecture)
各部門・工場で扱う情報の内容、情報間の関連性を分析するために、情報間の構造を明確化した情報体系整理図を部門・工場ごとに作成する。また、情報システムの実装を意識し、エンティティ間の関連を示したbを作成する。
(3) 適用処理体系(AA:Application Architecture)
業務処理に用いられている情報システムの形態を分析するために、情報システム間でやり取りされる情報の種類及び方向を図式化したcと、情報システムに実装する機能の構成を明確にした情報システム機能構成図を作成する。
(4) 技術体系(TA:Technology Architecture)
情報システムを構成している技術的構成要素を分析するために、ソフトウェア構成図、ハードウェア構成図、及びdを作成する。
[D課長のレビュー結果]
E君は、〔EAの策定手順〕、〔EAのアウトプット〕で検討した結果を、D課長にレビューしてもらった。D課長から〔EAのアウトプット〕について、①このようなデータ体系の分析では全社レベルの全体最適を検討することが困難であるとの指摘を受けた。
E君は、D課長の指摘事項を反映し、X社のEA策定に向けた作業を開始した。
[問題についてのヒアリング]
E君は、手順1として、CIOと部長にX社の情報システムの抱える問題についてヒアリングを行った。
CIO:当社では、合併前の情報システムを利用し続けているので、旧Y社の営業部門と旧Z社の営業部門からの報告がバラバラであり、売れ筋商品や売上の状況を全社横断的に把握し、素早い経営判断をすることが困難になっている。この問題を解決するために、情報システムの統合を行い、経営判断に必要な情報を各易に把握できるようにしたい。
部長:現在は、類似機能をもつ営業システムと工場システムが複数存在しているので、運用の対象となるサーバ台数が多く、運用面やコスト面で大きな負担となっている。②サーバの運用に掛かる社内要員を削減し、コストを削減したい。
[現状(AsIs)モデルの分析]
E君は、業務上の問題を引き起こす原因を明確にするために、手順2で、旧Z社の商品を旧Y社の営業部門が販売する場合の現状(AsIs)の業務流れ図(抜粋)を図1のとおり作成した。
E君が作成した図1を分析した結果、旧Z社の商品を旧Y社の営業部門が販売する場合に、③"顧客への即日納期回答ができない"原因が情報システムにあることが分かった。その後、E君はEAのその他のアウトプットも作成し、X社の現状(AsIs)モデルの分析を進めた。
[理想(ToBe)モデルの策定]
E君は、手順3で、〔問題についてのヒアリング〕と〔現状(AsIs)モデルの分析〕結果を基に、④情報システムの統合に向けた理想(ToBe)モデルを策定した。