2011年 秋期 応用情報技術者試験 問10

会計パッケージの調達

外食産業のC社は,関東地方にファミリーレストランのチェーンを展開している。

C社は,月次決算導入のために,会計パッケージの更改を決定し,新会計システム導入プロジェクトを開始した。概要スケジュールは図1のとおりである。プロジェクトマネージャ(PM)には情報システム課のD氏が任命された。

D氏は,会計パッケージの調達について,複数のベンダに提案を依頼し,提案内容の評価結果を比較した上で1社に決定することにした。

なお,C社の社内規程には,調達の手続を公正・公平に進めるための条項が最近追加されている。

【契約形態の検討】

現行の会計パッケージを導入したときは,C社自らは管理責任を負わず,要件定義から本番稼働までを一括してベンダに委ねる体制とし,固定額の請負契約を結んだ。

そのプロジェクトは,ベンダがスケジュール遵守を最優先に進めたので,要件定義の際に,利用部門の経理課の担当者から,C社独自の業務手順を十分聞き取らないまま,次の導入工程に進んでしまった。その結果,本番稼働後の業務効率を低下させ,改善に想定外の費用を要した。

D氏は,今回のプロジェクトでは,①要件定義と受入・運用テストは,C社が完了を判断し,状況に応じて期間を延長するなど柔軟なスケジュールで実施する方針とした。導入工程は,ベンダに委ねる体制とし,請負契約を結ぶことにした。

【提案の依頼】

D氏は,あらかじめC社の要件に近いと思われる会計パッケージの絞つかを調査した。有力と判断した3種類のパッケージそれぞれのベンダL社・M社・N社の3社を納入候補として,要件定義から本番稼働までの概算見積を含む提案を依頼した。

提案依頼の数日後,L社から,C社固有の要件を盛り込んだ月次の管理帳票に関しての質問があった。D氏は,その回答として,経理課の内部検討資料から提示可能な部分を抜粋してL社に送付した。また,同時に,②同じ資料を他の納入候補2社にも送付した

【提案の1次評価】

C社では,過去のプロジェクトにおいて,不適切な提案評価が原因の幾つかのトラブルを経験していた。あるプロジェクトでは,提案を見積金額だけで評価した結果,業務知識が不足したベンダを選んでしまい,受入・運用テストで要件のくい違いが発覚して多大な手戻りが発生した。また,別のプロジェクトでは,PMが自分の意思を優先し,自分が強い関心をもつ一部の機能だけに注目してパッケージを選定した結果,パッケージの標準機能と要求機能とのギャップが想定以上に大きく,アドオンの開発費用が予算を大幅に超過した。このようなトラブルを避けるために,D氏は,提案内容をできるだけ客観的に評価できるように,提案評価表を作成した。提案評価表には,あらかじめ評価項目を選定し,評価項目ごとに評価の基準と重みを定めておいた。

D氏は,納入候補の3社から届いた提案書について,提案書の記載内容から判断できる範囲で1次評価を実施した。提案評価表を用いた評価の結果は表1のとおりである。

表1 提案評価表(1次評価の結果)
評価項目評価基準重みL社M社N社
提案内容評点提案内容評点提案内容評点
要求機能に対するパッケージの標準機能の合致度要求数50に対する適合数
80%以上:4,60%以上:2,60%未満:0
20適合数:4280適合数:4480適合数:3240
ベンダの業務知識高:4,中:2,低:0301200120
ベンダのプロジェクト管理能力高:4,中:2,低:020808040
見積金額
※パッケージの価格を含む要件定義から本番稼働までの概算見積り
C社予算上限5,000万円に対し,80%以下:4,100%以下:2,100%超:0304,700万603,800万1204,500万60
総合評価340280260

提案の1次評価の結果は,パッケージの標準機能の適合度が高く,業務知識も豊富なL社が最も有力であった。

【最終評価と決定】

続いてD氏は,提案内容の詳細確認と,それに基づく最終評価を実施した。

C社固有の要件を盛り込んだ月次の管理帳票について,M社及びN社の提案はいずれもアドオンで開発するという内容であった。しかし,L社の提案は,オプション帳票によって代替する案となっていた。オプション帳票に出力する月次の経営指標の算出方法は,特殊なケースが発生した場合だけ手作業による補正を行えば,指標本来の目的は満たせるという内容であった。オプション帳票の価格は50万円で,L社の見積金額に含まれている。

D氏が経理課に確認したところ,オプション帳票を採用するかどうかは,要件定義のフィット&ギャップ分析で判断したいとの回答であった。D氏は,③今の時点で導入工程部分の見積金額の明細全てを確認する必要はないと考えていた。しかし,④オプション帳票を採用しないで,代わりに,C社固有の要件を盛り込んだ月次の管理帳票をアドオンで開発する場合の金額の確認だけは必要だと考えた。L社に確認し,提案評価表を再評価したところ,アドオンで開発する場合でも総合評価の評点は変わらなかったので,正式にL社を納入者に決定した。

出典:平成23年度 秋期 応用情報技術者試験 午後 問10