2015年 春期 応用情報技術者試験 問2
ブランド戦略
X社は、冷凍食品事業メーカで、自社製品によって国民の健康に貢献するという企業理念の下で事業を進めており、来年度には創立50周年の節目を迎える。
電子レンジの普及時期に、X社は冷凍食品の売上高を大きく伸ばした実績がある。この売上拡大の時期から、子供から大人までを対象とした冷凍食品の品ぞろえを充実させ、消費者がX社の製品に抱いている好意的な製品イメージをブランドとして整備・育成することに取り組んできた。この取組み以降は、次に示すブランドの定義とブランド戦略の会社方針の下に、和食、洋食、米飯、うどんの製品群ごとにブランドを設定してきた。
・消費者に特定の製品群を識別させる製品群の名称、及び名称が付いた製品群そのものとする。 |
・食品の安全性の確保(消費者に食の安心・安全を提供する集団になる。) |
・製品開発力の強化(製品開発力を戦略的に企業のaとする。) |
・ブランドエクイティの向上(無形資産のブランド価値を高める。) |
【マーケット動向と重要課題】
冷凍食品の分野では業界トップのX社に対抗し、業界2番手のY社が販売シェアの拡大を狙って数年前から相次いで新製品を投入してきた。Y社は、製品戦略を立案するに当たり、景気低迷による消費者の家計への影響や多様な製品ニーズのb調査を行い、業界の他社製品の競合分析を行った。その上で、この調査結果・分析結果を新製品に反映させた。具体的には、大人向けに味のバリエーションを増やし、さらに、業界各社で横並びであった製品の量を減らして販売価格を下げた。X社製品は、大人向けも子供向けも同一の味と量であったことから、Y社製品が支持され、Y社は、①この製品戦略によって販売シェアを拡大させた。
一方、X社のL常務は、既存の冷凍食品に対する消費者のブランドイメージ調査で、X社のブランドに親しみを感じる、又は信頼がおけると高い評価を得ているにもかかわらず、Y社の影響で売上高が伸び悩んでいる事態に危機感を抱いた。Y社への対抗施策として、自社のブランドが高い評価を得ている強みを生かし、Y社の製品戦略に追従せず、消費者が付加価値を認める新製品によって新市場を開拓し、売上を拡大することを掲げた。
L常務は、消費者の関心が高い、健康につながる低脂質・減塩の新製品群(以下、Z製品群という)を健康志向の冷凍食品(以下、健康冷凍食品という)として売り出し、このZ製品群で新市場を開拓して売上を拡大する施策を役員会に諮り、承認を得た。
この施策を成功させるには、②消費者にZ製品群を健康冷凍食品として受け入れてもらうための新たなブランド構築が、Y社への対抗上重要になると、L常務は考えた。
L常務は、ブランド資産の整備・育成を統制・管理するブランドマネージャのM課長に、Z製品群のブランド構築案の立案を指示した。M課長はb動向の調査や他社との競合分析の経験が豊富で、L常務の信頼を得ていた。
【Z製品群のブランド構築案】
M課長は、Z製品群のブランド構築案を検討するに当たり、消費者が低脂質・減塩の味をどのように評価するかについての消費者テストを実施した。Z製品群の味の評価は、材料を隠したブラインドテストでは既存の冷凍食品よりも高い評価であったが、材料を明かした場合の消費者テストでは、低脂質・減塩の健康食品は味が落ちるという先入観から、低い評価になった。
M課長は、この味覚評価のブラインドテストの結果を重視し、健康食品に対する先入観を払拭するために、ブランド戦略の(1)ポジショニング、(2)パーソナリティ、(3)cの三つのテーマを検討することにした。
(1) ポジショニング
Z製品群を自社の冷凍食品体系のどこに位置付けるかについて、検討した。検討結果は、次の3点である。
・既存の冷凍食品よりも上位の高級ブランドとしてZ製品群を位置付ける。
・創業以来培った冷凍食品に対する高い製品開発力によって、既存の冷凍食品を超えるZ製品群の味を保証する。
・味の保証によって、消費者の低脂質・減塩による味のマイナスイメージを払拭し、新たな高付加価値をもつ健康冷凍食品としてZ製品群をアピールしていく。
この際に注意するのは、③自社の製品間の競合による既存の冷凍食品の売上減少であり、この対策はパーソナリティの検討でも併せて行う。
(2) パーソナリティ
Z製品群にどのような特色をもたせるかについて検討した。重視したのは、これまでの自社の製品群にはない健康志向の高級感を消費者に連想させる④ネーミングとパッケージであった。ネーミングは、既存の冷凍食品よりも高級な印象を連想させる"プレミアム"とする。パッケージは、消費者が一目でZ製品群と分かるように、形を従来の長方形型から八角形型とし、色を食欲アップにつながる暖色系とする。
(3) c
消費者にZ製品群が健康冷凍食品であることを、どのように認知させ、ブランドとしてどのように育てるかについて、検討した。過去に、海外ブランドの健康冷凍食品が口コミで広がりブームになったことがあったが、製品開発の継続性がなく、数年で沈静化した。
このときのブームの推進役は、ブランドに愛着をもち、製品の普及・強化につながる称賛や苦情の声を寄せる顧客(以下、ファンという)であった。M課長は、この経緯を重視し、自社の製品開発力をアピールする活動とファンづくりの活動を具体化した。
前者として、自社の伝統と歴史が醸し出す継続的な味づくりと高い品質を反映した製品であることを強調するために、Z製品群の発売時期を創立50周年となる来年度に設定することにした。
後者として、ファンは、ブランドに対し、ブランドの強化と製品そのものの強化以外に、⑤もう一つ大きな影響力があると、M課長は考えた。ファンづくりには、ロイヤルティを高める各種施策があるが、今回はWebサイトで実現できる施策を重視した。この施策の一環として、検索連動型広告を採用する。
検索連動型広告によって、消費者を健康食品の各種情報を説明するWebサイトに導く。次に、このサイトからZ製品群を紹介するWebサイトに誘導し、Z製品群の詳細情報に加えて顧客層の投稿情報を提供する。Webサイトでは、健康食品について説明する内容からは健康食品を食べたくなるように、Z製品群を説明する内容からはZ製品群を買いたくなるように、消費者に訴求し、顧客獲得につなげる。
ファンづくりは、製品を販売して終わるのではない。ファンが投稿する料理レシピや製品評価の情報から、製品を魅力あるものにしていくことが重要である。的確な製品評価に関する情報は、製品への信頼感や安心感につながり、これがブランドの普及にもつながっていく。過去のファン層の調査結果から、ファンが自らの利用経験を誰かに伝えたい、逆に誰かの利用経験を聞きたいという声に注目した。⑥この声を実現する機能を、Z製品群について紹介するWebサイトに組み込むことを、M課長は考えた。
M課長は、ブランド構築案をL常務に説明し、承認を得て、ブランド構築の活動をスタートさせた。