応用情報技術者試験 過去問 2025年(令和7年) 春期 午後 問4

ビルエネルギーマネジメントシステムの非機能要件

E社は,オフィスビルのエネルギー使用量を一元管理するビルエネルギーマネジメントシステム(以下,BEMSという)を開発・運用している企業である。首都圏を中心に複数のオフィスビルを所有しているR社に対して,オンプレミス方式のBEMS(以下,オンプレBEMSという)を運用してきた。最近,R社から"複数のオフィスビルのオンプレBEMSを統合管理したい"という要望があり,E社はクラウド方式のBEMS(以下,クラウドBEMSという)を提案することになった。

オンプレBEMSは,BEMSサーバ,BEMSクライアント及びBEMSゲートウェイで構成され,E社はこれらの設置・運用を行っている。ビル管理員はBEMSクライアント上のWebブラウザを用いてBEMSサーバにアクセスし,BEMSゲートウェイを介して照明機器や空調機器などの制御対象機器の制御や監視を行う。オンプレBEMSは複数のR社オフィスビルに導入されている。

オンプレBEMSを用いた既存システム(以下,既存システムという)の構成の一部を図1に示す。なお,図1の各R社オフィスビルでは,制御対象機器を接続するビル制御LANと,BEMSサーバやBEMSクライアントを接続するビル管理LANとが設置されており,二つのLANをBEMSゲートウェイで接続している。

オンプレBEMSの構成の一部
図1 オンプレBEMSの構成の一部

E社は,R社の各オフィスビルに設置している既存システムから,複数のオフィスビルを統合管理できるクラウドBEMSを用いた新システム(以下,新システムという)へ移行する方法を検討した。新システムでは,ビル管理員はR社運用拠点のBEMSクライアントから,E社が別途サービスを提供しているIaaS型クラウドサービス(以下,E社クラウド基盤サービスという)の仮想サーバ上に構築したBEMSサーバを操作し,ファイアウォール(以下,FWという)とBEMSゲートウェイを介して制御対象機器の制御や監視を行う。E社はBEMSサーバ,BEMSクライアント及びBEMSゲートウェイを設置・運用する。FW及びインターネット接続環境はR社が設置・運用する。

新システムの構成案の一部を図2に示す。

新システムの構成案の一部
図2 新システムの構成案の一部

品質要件の検討

E社は,図2の構成案をR社に提案した。BEMSを新たなビルに導入する場合,既存システムでは,オフィスビルごとにBEMSサーバ,BEMSクライアント及びBEMSゲートウェイをそれぞれ導入する必要があった。一方,新システムでは,FW及びインターネット接続環境をR社が設置・運用すれば,E社がR社オフィスビル側にaを設置することによってBEMSを導入できる。R社が要望した統合管理が実現でき,さらにBEMS導入が比較的容易になることから,R社は新システムへの移行検討の具体化をE社に依頼した。

E社の提案に対して,R社から次の要望が出された。

  • 既存システムでは,BEMSサーバをメンテナンスする際に実施する計画停止の頻度が高く不便だったので,新システムでは計画停止の頻度を低くしてほしい。
  • 既存システムでは,BEMSサーバのハードウェア障害の発生頻度は低いものの,障害発生時のシステム停止時間が長く不便だったので,新システムではできるだけ短くしてほしい。

E社では,R社からの要望を受けて,既存システム及び新システムの非機能要件を改めて確認し,新システムの構成案を一部見直すとともに,その優位な点を指標を用いて示すことにした。既存システム及び新システムの非機能要件の指標とその指標値の一部を表1に示す。

表1 既存システム及び新システムの非機能要件の指標とその指標値(一部)
項番 非機能要件の分類 非機能要件の指標 指標値
1 bc BEMSサーバのメンテナンスに伴う計画停止の頻度 既存システム:年4回,新システム:計画停止なし
BEMSサーバのハードウェア障害発生時の平均サービス回復時間 既存システム:48時間,新システム:15分
2 c BEMSサーバのハードウェア障害発生時の平均サービス回復時間 既存システム:48時間,新システム:15分

表1の項番1について,既存システムではBEMSサーバのメンテナンスのために計画停止が必要であった。新システムでは,E社クラウド基盤サービス上でBEMSサーバを仮想サーバとして構築できることを生かして,2台のBEMSサーバをd構成にすれば,計画停止をなくすことができる。そこで,図2の構成案に対して,E社クラウド基盤サービス上で,BEMSサーバを1台追加する。

表1の項番2について,既存システムのBEMSサーバのハードウェア障害発生時には,保守サービス会社への連絡,保守員の駆けつけ,障害箇所の確認,ハードウェア交換,バックアップからのデータ復旧,サービスの再開,という手順で回復していた。この手順のうち,BEMSサーバがオフィスビル内に設置されていることに起因して保守員の駆けつけに要する時間が長かったが,新システムではBEMSサーバが配置されるE社クラウド基盤サービスの拠点に保守員が常駐するので,保守員の駆けつけに要する時間は大幅に短縮される。加えて、仮想サーバに障害が発生したときでも速やかにサービスを再開できるように、新システムではE社クラウド基盤サービスのe機能を活用して構成する。

クラウドサービス障害発生時の新システムへの影響

新システムでは,仮想サーバで構築したBEMSサーバのハードウェア障害発生時の平均サービス回復時間について大幅に短縮できることが確認できたが,E社クラウド基盤サービスに障害が発生した場合の,新システムに対する影響について,R社から説明を求められた。E社クラウド基盤サービスでは,仮想サーバを直接利用する顧客との契約時にサービスレベル合意書(以下,SLAという)を締結しているので,当該SLAの内容を引用して,どの程度の影響が新システムに及ぶかを説明することにした。

E社クラウド基盤サービスのSLAの一部を図3に示す。

E社クラウド基盤サービスのSLAの一部
図3 E社クラウド基盤サービスのSLAの一部

E社は新システムで重要な機能を担うBEMSサーバを例として取り上げ,そこで障害が発生した場合の影響について説明する資料を,追加で作成することにした。当該資料には,図3のE社クラウド基盤サービスのSLAの内容に加えて,月間サービス稼働率を満たした場合に月間累積障害時間がg分以内になることや,①月間サービス稼働率が99.5%になった場合に減額される金額など,具体的な事例を記載することにした。また,当該資料にはBEMSサーバのハードウェア,ソフトウェア及びネットワークに発生する可能性がある障害の要因を示し,②図3のE社クラウド基盤サービスのSLAで保証されない要因について説明を加えることにした。

出典:令和7年度 春期 応用情報技術者試験 午後 問4