応用情報技術者試験 過去問 2025年(令和7年) 春期 午後 問10

容量・能力管理に関するシステム

A 社は製造業を営む企業で、本社に併設する製造部配下の工場と営業部配下の 2 か所の営業所をもつ。A 社の業績は好調であり、3 年後の売上は、現在より 2 割の増加を見込んでいる。A 社情報システム部には、システムの開発と保守を担当する開発課とシステムの運用を担当する運用課がある。運用課の責任者は C 課長である。C 課長の下で D 君は、数名の運用担当者で構成された運用チームのリーダーとして、容量・能力(以下、キャパシティという)管理を含め、運用業務を行っている。

サービスの概要

情報システム部は、製造部に生産管理サービスを、営業部に販売管理サービスを、提供している。生産管理サービスは生産管理システムによって、販売管理サービスは販売管理システムによって実現されている。生産管理サービス及び販売管理サービス(以下、両サービスという)の提供時間帯は、A 社の営業時間帯と同じ 8 時〜18 時である。製造部及び営業部は、情報システム部との間で両サービスに関する SLA に合意している。SLA では、サービスレベル目標値の一つとして、オンライン処理の応答時間を"入力されたトランザクション要求の 95%を 3 秒以内に応答すること"と定めている。

運用課は、オンプレミス環境のサーバ 1 台で、生産管理システム及び販売管理システム(以下、両システムという)を運用している。両システムの概要を表 1 に示す。

表 1 両システムの概要
システム名称 システムの概要
生産管理システム
  • 生産計画の立案、進捗管理、在庫管理、品質管理などをサポートする。
  • 生産実績情報は、工場内の自動化されたシステムを通じてオンラインで生産管理システムに反映され、集計・管理が行われる。
販売管理システム
  • 営業部は、本社及び営業所の端末を用いて、販売管理システムに注文情報をオンラインで入力する。
  • 前日の注文情報を対象にして販売分析バッチ処理(以下、H バッチという)を当日の昼休み(12 時〜13 時の時間帯)に実行する。H バッチの処理結果は、翌日の生産計画に反映する必要があるので、当日の 13 時 30 分までに生産管理システムに送信している。

1) H バッチの処理結果は、生産管理システムの生産計画案作成バッチ処理(以下、P バッチという)の入力情報となる。P バッチでは、翌日の生産計画案を作成する。製造部では、生産計画案に基づいて翌日の生産計画を策定している。

キャパシティ管理の概要

運用課では、次のキャパシティ管理を行っている。

  1. キャパシティ監視

    キャパシティ監視として、オンライン処理については、サーバの CPU 使用率、トランザクション要求件数及び応答時間を監視している。バッチ処理については、サーバの CPU 使用率、ストレージの使用率及び処理の終了状態を監視している。これらの監視でイベントを検知した場合には、運用チーム宛てにメッセージが出力される。イベントには三つのイベントタイプがあり、出力メッセージには、そのうち一つを設定する。イベントタイプの概要とイベント監視例を表 2 に示す。

    表 2 イベントタイプの概要とイベント監視例
    イベントタイプ イベントタイプの概要とイベント監視例
    例外
    • サーバやサービスに障害が発生したことを示す。"例外"のイベント監視例には、サーバのダウンやサービスレベル目標値の未達などがある。
    • 運用チームは、"例外"のイベントをインシデントとして扱い、情報システム部が規定したインシデント管理手順を開始する。
    警告
    • "例外"のイベントタイプには該当しないが異常が発生したことを示す。"警告"のイベント監視例には、リソース使用率のしきい値超えなどがある。
    • 運用チームは、あらかじめ決められた対応を行う。
    情報
    • サーバの状態、オンライン処理やバッチ処理の状態などを示す。"情報"のイベント監視例には、バッチ処理の開始や正常終了などがある。
    • 運用チームに、即時に要求される対応はない。
  2. キャパシティ計画

    両サービスは、サービス開始から 7 年が経過している。サービス開始当初から、運用課では、次の手順でキャパシティ計画を策定している。

    • 製造部と営業部から両サービスに対する将来の利用計画を入手し、両サービスの利用者数、トランザクション要求件数、ストレージ使用量などを需要予測として求め、オンライン処理とバッチ処理のリソースの使用量を見積もる。
    • 見積もった使用量とサービスレベル目標値を基に、毎年、今後 3 年間を見通したサービスコンポーネントのキャパシティを計画する。必要に応じて、キャパシティを増強するための方式を計画する。

    なお、本年のキャパシティ計画で"3 年後に現在より 2 割の売上の増加"の見込みから求められる需要予測に対して、2 年後にはキャパシティが不足することが判明した。現在使用しているサーバ機器などのハードウェアは、既に販売中止となっていてキャパシティの増強ができないので、両システムのシステム更改を検討している。

生産管理サービスで発生したインシデント

ある日、販売管理サービスの H バッチの正常終了時刻が 13 時 15 分となり、この影響で 13 時 05 分から 10 分間、生産管理サービスの応答時間が遅延するインシデントが発生した。インシデントの発生状況を表 3 に示す。

表 3 インシデントの発生状況
時刻 状況
12 時 00 分 H バッチが予定どおり処理を開始した。
12 時 40 分 運用チームが、ストレージ使用率のしきい値超えを示す""のイベント監視のメッセージ(以下、S メッセージという)の出力を認識した。
運用チームが H バッチを手動で中断し、臨時のストレージ使用量の割当で処理1)を実施した。
H バッチを再開した。
12 時 50 分 運用チームが、再び S メッセージの出力を認識した。
運用チームが H バッチを再度手動で中断し、臨時のストレージ使用量の割当で処理を実施した。
H バッチを再開した。
13 時 00 分 生産実績情報に関するオンライン処理のトランザクション要求件数の増加と H バッチとが重なったことから CPU が高負荷状態となる事象が発生した。
13 時 05 分 CPU の高負荷状態が続いたことによって生産管理サービスの応答時間の遅延が発生した。"例外"のイベント監視のメッセージが出力された。
13 時 10 分 H バッチの開発担当者を含む関係者が招集され、インシデント解決チームを編成して対策の検討を開始した。
13 時 15 分 H バッチが正常終了し、インシデント解決チームが対策を実施する前に生産管理サービスの応答時間の遅延は解消した。

1) 販売管理システムで不要となったデータを削除して H バッチのストレージ使用量の割当てを増加する処理である。その処理で使用するツールは、S メッセージが出力された際に運用課が使用するツールとして開発課が提供したものである。

その後、今回のインシデント対応についての振返り会議が開催された。その内容は次のとおりであった。

  • H バッチのストレージ使用量が増加した原因は、前日の注文データに大口顧客からの一括注文が含まれていたことである。
  • インシデント対応としては、両サービスの応答時間の遅延を発生させないために、リソース使用率の状況を注視しながら、H バッチのデータ量を操作することになる。
  • この対応を行うと、H バッチの正常終了時刻が 13 時 30 分以降となる場合があるので、その場合に備えて①翌日の工場での製造に支障が生じないように、運用課が場を設定して製造部と営業部とともに協議を行う必要がある。

振返り会議の内容を受けて、C 課長は、今後、H バッチの処理中に S メッセージが複数回出力されるというイベントを規定した上で、②このイベントに適切なイベントタイプを設定することにした。

C 課長は、今回のキャパシティ不足の事象に対して、早急に根本的な対策が必要と考えた。そこで、C 課長は、D 君に、システム更改の検討を急ぐよう指示した。

クラウドサービスの調査

D 君は、システム更改の検討の中で、クラウドサービスについて調査した。クラウドサービスは、利用者のリソースの使用量に応じて柔軟にリソースを追加・削除できる。なお、両システムのミドルウェアの仕様に関する指定があることから、IaaS 型のクラウドサービスの採用が適していることを確認した。

D 君は、複数のクラウド事業者にヒアリングし、F 社のクラウドサービス(以下、F クラウドという)を候補として選定した。F クラウドの概要は次のとおりである。

  • F クラウドでは、サーバとストレージのリソースは、利用者の要求に応じて動的に割り当てること(以下、リソースオンデマンドという)ができる。
  • F クラウドには、キャパシティに応じて F1 から F5 までの契約モデルがあり、クラウド利用料が異なる。
  • F 社からは、リソースオンデマンド用の管理ツールとその利用権限が利用者に与えられる。管理ツールを利用すると即時に契約モデルのキャパシティを超えてリソースが増強され、リソース増強に見合ったクラウド利用料が加算される。増強されたリソースが不要になれば、管理ツールを利用して元のキャパシティに戻すことができる。

D 君は、C 課長に F クラウドについて説明した。その時の C 課長と D 君の会話を次に示す。

C 課長: H バッチのストレージ使用量の増加に起因する正常終了時刻の遅延を発生させないようにするには、F クラウドではどのような対応となりますか。

D 君: 運用チームがaした時点でリソースオンデマンド用の管理ツールを使って、ストレージの容量を増強します。

C 課長: 了解しました。ただし、③H バッチが正常終了した時点で実施すべきことがあるので留意してください。

C 課長は、F クラウドの導入を決定し、これによって現状のキャパシティに関する問題点を解決できると考えた。また、今月の経営会議で新製品の販売を早期化することが決定され、販売管理サービスの需要増加が見込まれた。そこで、C 課長は F クラウドの契約モデルについて適切に決定していくプロセスが必要と考え、D 君に対して、"契約モデルを決定していく前提となるので、事業環境の変化を踏まえ、bを見直すこと。その上で、F クラウドの特性も踏まえつつ、両サービスの新たなcを策定すること。"と指示した。

出典:令和7年度 春期 応用情報技術者試験 午後 問10