応用情報技術者試験 過去問 2019年(令和元年) 秋期 午後 問8

道路交通信号機の状態遷移設計

L社は道路交通信号機(以下,信号機という)のシステム開発を行っている会社である。このたび,交差点Zの信号機制御システムを受注した。

交差点Zでは東西方向の主道路と南北方向の従道路が交差しており(図1),主道路,従道路,及び主道路にかかる横断歩道の信号機をそれぞれ,主道路信号,従道路信号,及び歩行者信号という。従道路信号は主道路信号と連動して制御される。

歩行者信号の表示は"青","青点滅","赤"の3種類,主道路信号の表示は"青","黄","赤","右"の4種類である。"右"は右折だけ可能な状態であり,このときは,"赤"も同時に点灯する。

歩行者信号は,昼間は主道路信号と同期するが,夜間は常時"赤"となり,歩行者用押しボタンを押した場合(以下,ボタン押下という)だけ"青"になる。ボタン押下は各信号に通知される。ボタン押下された場合,主道路信号の"青"を短くすることで,歩行者の待ち時間を短くするよう考慮する。

L社の担当者M君は,各信号の状態遷移の仕様を表で整理した後,状態遷移図で示し,信号機の制御ソフトウェアを作成することにした。

図1 交差点Zにおける道路と信号機
図1 交差点Zにおける道路と信号機

信号機の仕様と状態遷移図

各信号は,所定の秒数を格納したタイマを使って,状態を変化させる。タイマはセットされた直後からカウントダウンして0になった時点で終了し,次の処理手順へ移行する。また,複数のタイマを同時に処理することができる。

M君は各信号の状態遷移に関する仕様を表で整理した。そして,L社内で設計レビューに臨み,そこでの指摘事項を反映させて仕様を完成させた。主道路信号(夜間)の通常時とボタン押下時の状態遷移に関する仕様を表1と表2に,歩行者信号(夜間)の状態遷移に関する仕様を表3に,それぞれ示す。

表1 主道路信号の状態遷移に関する仕様(夜間 通常時)
処理手順 遷移条件 処理前状態 処理後状態 処理内容
S1 開始 C-1 信号を赤にし,タイマ1(15秒)をセット。
S2 タイマ1終了 C-1 C-2 信号を青にし,タイマ2(60秒)をセット。
S3 タイマ2終了 C-2 C-3 信号を黄にし,タイマ3(3秒)をセット。
S4 タイマ3終了 C-3 C-4 信号を赤にし,タイマ4(1秒)をセット。
S5 タイマ4終了 C-4 C-5 信号を右にし,タイマ5(10秒)をセット。
S6 タイマ5終了 C-5 C-6 信号を黄にし,タイマ3(3秒)をセット。
S7 タイマ3終了 C-6 C-1 信号を赤にし,タイマ1(15秒)をセット。
表2 主道路信号の状態遷移に関する仕様(夜間 ボタン押下時)
処理手順 遷移条件 処理前状態 処理後状態 処理内容
P1 ボタン押下 C-1 B-1 何もしない。
P2 タイマ1終了 B-1 B-2 信号を青にし,タイマ6(10秒)をセット。
Q1 ボタン押下 C-2 B-2 タイマ6(10秒)をセット。
Q2 タイマ2とタイマ6のいずれかが終了 B-2 C-3 終了していないタイマを0にする。信号を黄にし,タイマ3(3秒)をセット。
表3 歩行者信号の状態遷移に関する仕様(夜間)
処理手順 遷移条件 処理前状態 処理後状態 処理内容
R1 開始 W-1 信号を赤にする。
R2 ボタン押下 W-1 W-2 主道路信号の状態監視を開始する。
R3 主道路信号が状態C-1に遷移 W-2 W-3 主道路信号の状態監視を終了して,タイマ7(3秒)をセット。
R4 タイマ7終了 W-3 W-4 信号を青にし,タイマ8(8秒)をセット。
R5 タイマ8終了 W-4 W-5 信号を青点滅にし,タイマ9(3秒)をセット。
R6 タイマ9終了 W-5 W-1 信号を赤にする。
注記:歩行者信号ではW-1以外の状態でボタン押下があっても処理は発生しない。

表1,表2,及び表3を基に,M君が作成した各信号の状態遷移図を図2,図3に示す。図2,図3中の(T)は表1~3の遷移条件に示されたタイマの終了を示す。

図2 主道路信号の状態遷移図(夜間)
図2 主道路信号の状態遷移図(夜間)
図3 歩行者信号の状態遷移図(夜間)
図3 歩行者信号の状態遷移図(夜間)

図2,図3から,主道路信号の状態がC-6(黄)になった直後にボタン押下があったとき,歩行者信号が最初に青になるのはd秒後であることが確認できる。

設計のレビュー

M君は当初,表3のR3の遷移条件を"主道路信号が赤"と記載していた。しかし,L社内でのレビューにおいて,その遷移条件では事故につながりかねない重大な①不具合が発生するという指摘を受け,この遷移条件を"主道路信号が状態C-1に遷移"と修正した。また,図2の処理手順P1(状態C-1から状態B-1に遷移)がなかった場合に②生じる現象についてレビューで説明を行った。

信号機の信頼性設計

信号機の制御システムの故障は,人命に関わる事故を引き起こすおそれがあり,M君には十分な信頼性設計を行うように指示があった。それを受けてM君は,信号機の信頼性設計を完成させた。その設計の中に,次の二つの仕様を含めた。

  1. 主道路信号と従道路信号の連動機構が故障した場合,主道路信号を"黄点滅"(注意して進む)に,従道路信号を"赤点滅"(一時停止し,確認後発進)にして,どちらも"青"にはしない。
  2. 歩行者用押しボタンが故障した場合,その機能を切り離した縮退運転とし,夜間でも昼間と同様に歩行者信号を主道路信号に同期させる。
出典:令和元年度 秋期 応用情報技術者試験 午後問題 問8