応用情報技術者試験 過去問 2017年(平成29年) 春期 午後 問2

経営分析とバランススコアカード

A社グループは、セルフサービス方式(以下、セルフ型という)のコーヒー店チェーンを全国展開するA社と、ファミリーレストランチェーンを展開するA社の子会社で構成される大手の外食グループである。セルフ型は、顧客回転率を上げて来客数を増やすために、店舗の立地環境が他の業種に比べて重要である。A社は、長年にわたって出店数を増加させ続けたことによって、駅前やオフィス街を中心に約900の直営コーヒー店舗を展開してきた。主な顧客は会社員や学生である。

喫茶店市場では縮小傾向が続いているが、A社は長年業界トップグループの位置を維持している。しかし、コンビニエンスストアが安価でおいしいコーヒーの販売を開始したので、対抗策として新機軸の戦略を打ち出すことにした。

[B社との比較による現状確認]

現状を確認するために、A社と同じセルフ型コーヒー店チェーンを運営するB社をベンチマークとして比較検討を行った。B社は、海外の最大手コーヒー店チェーン運営会社と日本国内において独占的にフランチャイズ契約を結び、全て直営で約600店舗を展開している。A社と出店地域は似ているが、B社はおしゃれな雰囲気や全席を禁煙とすることで、若者や女性の支持を得ている。コーヒーの単価はA社よりも5割程度高い。前年度末のA社(コーヒー店チェーン事業単体)とB社の貸借対照表、損益計算書、及び諸指標の比較を表1~4に示す。

A社の貸借対照表
表1 A社の貸借対照表
B社の貸借対照表
表2 B社の貸借対照表
A社とB社の損益計算書
表3 A社とB社の損益計算書
A社とB社の諸指標の比較表
表4 A社とB社の諸指標の比較

安全性の視点から見ると、両社とも自己資本比率、流動比率が高く、固定比率は低い。さらに、固定負債額も小さいので、短期、長期ともに問題がないといえる。

収益性の視点から見ると、両社の売上高総利益率の差が大きい。A社は、世界中の主要生産地からコーヒー豆を買い付け、直火式焙煎を大量に行う仕組みを確立している。コーヒー豆の品質管理を徹底することで、おいしいコーヒーを提供することができ、それが顧客満足の向上につながっている。しかし、このためのコストに対し、コーヒーの単価を低く設定しているので、売上高総利益率が低くなっている。

一方、B社は提携している海外のコーヒー店チェーン運営会社からコーヒー豆を安価で仕入れている。

A社は、安価な商品による売上を、出店数の多さ、人件費の低さ、顧客回転率の高さで補うことで利益を生み出すビジネスモデルであることを再認識した。しかし、A社はこれらに過剰に依存せず、新たな方法で営業利益率を向上させることが必要であると感じていた。

経営の効率性の視点から見ると、ROEで大きな差が出ている。ROEは、自己資本比率、売上高当期純利益率及びdに分解できるが、売上高当期純利益率とdはA社の方が低い。

[ロードサイド型店舗の出店検討]

A社の子会社の事業であるファミリーレストランの市場規模は、低価格競争、大量出店戦略の限界によって縮小傾向にあり、A社の子会社も売上高が減少して苦戦していた。一方、コーヒー店チェーンを運営するC社は、ロードサイド型と呼ばれる幹線道路の沿線での出店を促進し、売上を伸ばしていた。セルフ型に比べて顧客1人当たりの平均売上単価(以下、客単価という)は高く、広い空間でゆっくりとくつろげる独自のサービス形態で、特に家族連れやシルバー層に人気があった。C社は全て直営で約300店舗を展開し、売上高営業利益率は約10%であった。

A社は、C社の事例を参考にし、子会社が運営するファミリーレストランをロードサイド型のコーヒー店に業態変更する検討を始めた。ロードサイド型の出店は、商圏は広いが、潜在顧客数が駅前などのセルフ型店舗よりも少ないので、売上高と営業利益を拡大するためには客単価を上げる必要があった。そこで、一手間加えた軽食メニューを充実させることで他社との差別化を図ろうと、従来のファミリーレストランで採用していたセントラルキッチン方式から、店舗調理方式に切り替えることにした。切替後の運用コストについては、大きく増加しないことを確認済みである。

[バランススコアカード戦略マップの作成]

売上高と営業利益を拡大するために、新たな事業戦略を次のとおり策定した。

  • ファミリーレストラン事業を客単価が高いロードサイド型コーヒー店に業態変更する。
  • ゆっくりとくつろげる空間を提供する。
  • おいしいコーヒーと、店舗調理方式による一手間加えた軽食によって、顧客満足を高める。

過去に事業戦略を策定した際は、その事業戦略が書かれた資料を店舗の責任者に送付しただけだったので、店舗の従業員まで十分に浸透せず、事業戦略に基づいた現場の活動につなげることができなかった。今回は、店舗の従業員まで浸透させることが重要であると考えた。

次に、新たな事業戦略を実現する手段を可視化するために、図1に示す、子会社を含めたA社グループのバランススコアカード(以下、BSCという)戦略マップを作成した。

A社グループのBSC戦略マップ
図1 A社グループのBSC戦略マップ

BSC戦略マップを作成することで、①既にレストランの店舗を保有していること、レストラン事業で得たロードサイド型店舗の運営ノウハウがあること、実務経験がある従業員を引き続き雇用できることなど、今回の業態変更にはA社グループならではの強みがあることを確認できた。

次に、BSC戦略マップを基に全社のCSF(重要成功要因)とKPI(重要業績評価指標)を設定した。さらに、これらの②BSC戦略マップ、CSF及びKPIを基に、店舗の従業員を巻き込んだ店舗ごとのアクションプランを策定するように、全てのロードサイド型店舗の責任者に指示した。

平成29年度 春期 応用情報技術者試験 午後 問2