2017年 春期 応用情報技術者試験 問10

サービスマネジメントにおけるマネジメントプロセスとサービスデスクの運用に関する次の記述を読んで、設問1〜4に答えよ。

K社は、5年前に関西で創業した流通業の会社で、国内に本社と8か所の支店をもっている。K社の情報システム部は、受注機能と配送管理機能を備えた流通業務システムを開発し、流通業務サービスとして社内に提供している。K社の社員は、1人に1台与えられたPCを使って流通業務サービスを利用している。

【サービスデスクの運用】

流通業務サービスの提供に当たって、情報システム部に所属する、本サービスに精通した4人のメンバから成るサービスデスクを組織し、利用者からのインシデントの解決依頼やサービス要求を受け付けた。K社では、ITサービスに対する計画外の中断やITサービスの品質の低下をインシデントと定義している。一つ以上のインシデントの根本原因をaと呼び、"根本原因が特定されているか、若しくは回避策によってサービスへの影響を低減又は除去する方法があるa"をbと呼んでいる。

サービスデスクのメンバは、依頼内容や対応状況を、表計算ソフトを使って一つのインシデント管理ファイルに記録していた。インシデント管理ファイルはファイルサーバにあって、メンバ全員で利用されていた。インシデント管理ファイルに更新要求がある場合、表計算ソフトはファイルに対して排他ロックを施すアクセス制御を行って、整合性を確保している。

一つのインシデントに対するサービスデスクの対応が1回で終わらずに、利用者が再度サービスデスクに問い合わせる場合がある。メンバが個別に問合せに対応していたので、最初に対応したメンバ名や日時を利用者がサービスデスクに伝える必要があり、利用者から"組織として対応してほしい"との要求があった。

【マネジメントプロセス及びツールの整備】

利用者からの要求を受けて、ITサービスマネージャである情報システム部のA氏は"インシデント及びサービス要求管理プロセス"の整備と、プロセスを支援するツールの整備を行った。

整備された、インシデントに関する対応手順を表1に示す。

表1 インシデントに関する対応手順
手順内容
記録・利用者からインシデントを受け付け、インシデント管理ファイルに記録する。
・インシデントにはユニークなインシデント番号を割り当て、利用者に案内する。
優先度の割当て・業務の重要性に合わせてインシデント対応の優先度を割り当てる。
分類・インシデントの内容を決められたカテゴリに分ける。
記録の更新・インシデントの内容、割り当てた優先度、及び分類したカテゴリの内容でインシデント管理ファイルを更新する。
段階的取扱い・サービスデスクのメンバだけで解決できないインシデントは、決められた専門部署に調査を依頼する。
解決・対処手順書1)又は専門部署からの調査の回答を基に、解決の対処を行う。
・利用者が対処すべき作業がある場合は、利用者に作業を依頼する。
終了・インシデントが解決したことを利用者に確認する。
・回答内容などの記録を更新し、終了する。
注1) 対処手順書は、インシデントに対応して実施すべき解決処理の詳細が記載されている手順書のこと。対処手順書にはサービスへの影響を低減又は除去する方法を特定した場合に、対応手順が記載される。

インシデント管理ファイルを用いたサービスデスク業務の運用には、次のような不都合があった。

・誰がいつファイルを更新したかの履歴管理ができない。

・メンバが誤ってファイルを削除してしまった場合、直近のバックアップからデータを復元する作業を行う必要があり、バックアップ時点以降の情報が失われる。

また、表計算ソフトのアクセス制御方式の制約から、①サービスデスク業務に支障を来す事象が発生していたので、RDBMSを用いてインシデント管理を運用するように変更した。

【インシデント事例】

K社では、セキュリティパッチ(以下、パッチという)をPCに展開する場合、自動で行う設定にしていた。ある日、"業務時間中にPCでパッチが自動的に展開された。パッチの展開が完了するまでは、PCの応答が遅くなり業務に支障がある。"といったインシデントが多くの利用者に発生した。対応を行ったサービスデスクのメンバは、インシデント管理担当として、本インシデントに対して②ある作業を実施することによって、インシデントを速やかに解決し、業務を再開させた。

また、別の利用者から"OSアップデートの終了後、流通業務サービスの一部の入力画面が正常に利用できない。"とのクレームを受けた。情報システム部で問題管理を担当しているZ氏が、OSアップデートに関するインシデントの根本原因を究明することになった。当該PCの設定を調べたところ、パッチだけでなく、OSアップデートがOSメーカから配信されたとき、自動的にこれを展開する設定となっていた。

そこで、直ちにこの設定を止めることとした。

さらに、Z氏が過去1年間に発生したOSアップデートに関わるインシデントの状況を調査したところ、流通業務サービスの一部の機能が正常に利用できない事象が数回あったことを確認できた。そこで、OSメーカからOSアップデートが配信されたときは、利用者のPCに展開する前に、情報システム部で③ある作業を実施することをルールとして定めた。

問題管理担当の業務として、このように日頃から、発生するインシデントの内容や状況を把握してインシデントのc分析を行い、インシデントの発生を事前予防的に防止する活動が必要となる。

【マネジメントプロセスの改善】

サービスデスクへの問合せには、流通業務サービスに関するものだけでなく、PCに関するものもあった。しかし、PCのハードウェア障害については、情報システム部のPC担当要員が対応する規定となっており、サービスデスクは対応していなかった。そのため、PCのハードウェア障害でサービスデスクに問い合わせた利用者は、PC担当要員に連絡し直す必要があった。利用者からは、"内容に応じて連絡先を選別しなければならないのは大変なので改善してほしい。"と情報システム部に要望が挙がった。

そこでA氏は、窓口を一本化し、利用者からの全てのインシデントをサービスデスクで受け付ける提案を情報システム部長に行った。提案の内容は、"サービスデスクは、流通業務サービスに関するインシデントについてはサービスデスク内部で対応し、サービスデスクのメンバでは解決できないPCのハードウェア障害に関するインシデントについては、サービスデスクで受け付けた後、dを行う。"といったものである。この提案は情報システム部長によって承認され、利用者に通知された後、実施されている。

また、情報システム部長は、管理項目を設けてサービスマネジメントの活動を管理するようA氏に指示した。A氏は、"インシデント及びサービス要求管理プロセス"のCSF(重要成功要因)として"インシデントをできるだけ迅速に解決し、業務への影響を最小限にする。"を挙げ、④このCSFに対応したKPI(重要業績評価指標)を設定して活動を管理することにした。

出典:平成29年度 春期 応用情報技術者試験 午後 問10