2016年 春期 応用情報技術者試験 問10
キャパシティ管理に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。
X社は,娯楽チケット販売業を営む会社である。2013年1月に策定した中期事業計画において,"取扱いチケットの種類の増加と新サービスの提供によって,2015年度(2015年4月1日から2016年3月31日まで)の売上を2012年度の2倍にする"という目標を立てた。中期事業計画どおりの売上の達成は不確実性を含んでいたが,事業目標の達成を見越して娯楽チケットの販売システム(以下,販売システムという)を2013年度に再構築した。
【再構築後の販売システムの概要とキャパシティ計画】
販売システムは,再構築以前からイベント会社やコンビニエンスストアの店頭,電話,インターネット(PC,スマートフォンなど)からの購入に対応していた。サービス利用者のチケットの購入手段は,利便性が高い点や購入記録が残る点からインターネットが主流であった。販売システムの再構築によって次のサービスを実現した。
・遊園地や映画のチケットを,利用する直前でも割引価格で購入できる。 ・購入したチケットをスマートフォンで電子チケットとしても受け取ることができる。 ・会員制度を新設する。会員はチケットの先行購入予約が可能になり,さらに,購入実績に応じてポイントを受け取る特典を与えられる。
再構築後の販売システムを利用する販売部のチケット担当の責任者は,会員にポイントを付与する条件(対象のチケット,顧客,購入手段,期間,時間帯など)を簡単な操作で登録できるようになった。
再構築する販売システムのキャパシティ計画を策定するに当たって,2013年4月に,サービスに対する需要となるデータ処理件数を検討した。データ処理件数は売上に連動すると想定し,2012年度の実績値と2013〜2015年度のチケット売上の計画値を基に,3年間のデータ処理件数を見積もった。これらを表1に示す。
年度 | チケット売上 | データ処理件数 | ||
---|---|---|---|---|
計画 | 実績 | 見積り | 実績 | |
2012年度 | − | 320億円 | − | 45百万件 |
2013年度 | 380億円 | − | 54百万件 | − |
2014年度 | 500億円 | − | 72百万件 | − |
2015年度 | 640億円 | − | 90百万件 | − |
次に,販売システムの再構築について,表2に示す二つの案を考えた。
構築案 | 案1 | 案2 |
---|---|---|
概要 | 一括構築:再構築前の3.5倍の処理能力 | 初回構築:再構築前の2.0倍の処理能力 追加構築:再構築前の3.5倍の処理能力 →サーバ台数の追加で,サービスを停止することなく容量・処理能力の増強が可能 |
構築費用 | 80百万円 | 初回構築:55百万円,追加構築:35百万円 |
対応期間 | 6か月 | 初回構築:6か月,追加構築:2か月 |
①案1と案2を比較検討した結果,案2を選択して初回のシステム構築を行った。
また,データ処理件数が表1の見積りどおりに増加した場合,2016年3月までに追加構築を完了する予定を立てた。
【追加構築の実施】
案2での初回構築は,2013年12月に無事完了した。2014年1月に再構築後のシステムでのサービスを開始した直後から,遊園地や映画館を利用する直前でも電子チケットを購入できるサービスが,予想以上に好評だった。それまでは単価が高いコンサートや演劇のチケットが売上の柱だったので平均販売単価は下がったが,販売件数が大きく増加したので売上が伸びた。その結果,2013年度のチケット売上は,ほぼ計画どおりであった。しかし,データ処理件数は,見積りよりも15%程度上回っていた。
1年後の2015年4月初旬に,2013年度と2014年度のチケット売上の実績及びデータ処理件数の実績を表1に加え,表3を作成した。
年度 | チケット売上 | データ処理件数 | ||
---|---|---|---|---|
計画1) | 実績2) | 見積り1) | 実績2) | |
2012年度 | − | 320億円 | − | 45百万件 |
2013年度 | 380億円 | 390億円 | 54百万件 | 62百万件 |
2014年度 | 500億円 | 510億円 | 72百万件 | 95百万件 |
2015年度 | 640億円 | − | 90百万件 | − |
注2) 実績欄の数値は,該当年度の事業終了時点でまとめられたものである。
2014年度の実績値と2012年度の実績値を比較すると,チケット売上はほぼ計画どおりの約1.6倍であったが,データ処理件数は見積りを大きく上回る約2.1倍になっていた。そのまま運用を続けていたところ,2015年5月頃から,②アプリケーションサーバのCPU使用率がしきい値を超え,警告メッセージが出るようになった。そこで,案2での追加構築を2015年8月に完了させ,その後,警告メッセージは出なくなった。
【サービス運用段階のキャパシティ管理活動】
システム部のITサービスマネージャのY君は,アプリケーションサーバの警告メッセージが出た後に販売システムを追加構築する判断をしたことを反省し,キャパシティに起因したインシデントの発生を抑制するために,キャパシティ管理活動を次のとおりに定め,実行した。
(1) 監視 キャパシティの評価指標を日常のオペレーションレベルで監視する。しきい値を超えた場合などは,システム運用監視ツールで警告メッセージを出し,a管理プロセスを通じて,適切に対処する。
(2) 分析 監視活動によって収集された情報を,モデル化などの技法を用いて分析する。将来の予測を基に,資源の増強の要否や実施時期などを検討する。さらに,③キャパシティ管理のプロセスを評価するためのKPIを設定する。
(3) チューニング 分析結果を基に,資源の割当量や利用条件の変更などの対応策を検討し,適切な状態に調整する。
(4) 実装 キャパシティ計画及びチューニング活動に基づき,変更をb管理プロセスを通じて稼働環境に展開する。
【追加構築後のキャパシティ対応】
2016年4月,X社はZ社が主催するイベントのチケット販売の独占契約を得た。これを成功させて,Z社との提携を実現すれば中長期的な売上の拡大が期待できる。Z社イベントのチケットの申込みにおいて,ピークが予想される18〜21時は,他のチケットの販売と合わせるとアプリケーションサーバのCPU使用率が一時的にしきい値を超え,応答時間が悪化することが懸念された。しかし,資源の増強を伴う変更作業は期間が必要なので,当面の間はサービスの提供内容とサービス要求の需要との釣合いを取って,インシデントの発生を防ぐことにした。そこでY君は,この需要管理の方針に基づき,対策を検討した。Z社イベントのチケットの申込みは,インターネットの会員サイト内に専用URLを設け,3日間限定で先着順に受け付ける。
再構築後の販売システムのサービス状況を調査すると,応答時間の悪化が発生したのは18〜21時の時間帯の2回だけであった。Z社イベントのチケット販売を優先するために,Z社イベントのチケットの申込量がピークになる時間帯に,インターネットでの他のチケットの申込量を減らすことができれば,サービス全体に支障が出ないと判断した。Y君は,④このための具体的な対策を販売部と共同で立案し,販売部の部長の承認を得た。
さらに,経営層から顧客データ活用によるマーケティング強化の指示があった。これまで一定期間ごとに分散保存していた会員の購入記録を,一括して蓄積できるデータウェアハウスを構築する。購入が見込める会員を迅速に選別して優先販売やキャンペーンの案内をする販売促進機能の検討を開始した。⑤この販売促進機能によって,将来見込まれる販売件数の増加をキャパシティ計画に反映し,処理能力を増強したり,ストレージの容量を増やしたりする必要がある。