2014年 春期 応用情報技術者試験 問5

サブネットを活用したファイルの保護対策

M 社は,企業の研修用教材や雑誌などのコンテンツ制作を手掛ける,社員 50 名程度の企業である。顧客企業から依頼されたコンテンツ制作のために,対象とする企業分野ごとに三つの課を設けている。

社員はコンテンツの制作・編集業務(以下,業務という)のために PC を利用し,業務で使用するファイルは全て各課のファイルサーバ(以下,FS という)に保管している。業務で使用するファイルは FS 上で直接編集し,PC には残さない運用を行っている。PC から FS へのアクセスには,ファイル共有用の CIFS(Common Internet File System)プロトコル(TCP ポート 445 を使用)を用いて,FS 上で利用者 ID とパスワードによる認証を行っている。

M 社のネットワークは複数台のレイヤ 2 スイッチ(以下,L2SW という)を用いて構成され,PC には DHCP で 192.168.0.64~192.168.0.254 の範囲の IP アドレスが付与される。M 社のネットワーク構成を図 1 に示す。

注記1 ネットワークは1000BASE-Tで構成する。
注記2 サブネットマスクは255.255.255.0である。
FW:ファイアウォール
192.168.0.64~192.168.0.254

【業務で使用するファイルの保護対策】

M 社では,情報セキュリティの重要性を考慮し,業務で使用するファイルのアクセス制御と,ファイル消失時における業務継続のために,次の保護対策を行うことにした。

・既存の L2SW を有効に活用しながら,新たにレイヤ 3 スイッチ(以下,L3SW という)を導入することによって,M 社のネットワークを複数のサブネットに分割する。

各課の FS は 192.168.0.0/24,制作一課の PC は 192.168.1.0/24,制作二課の PC は 192.168.2.0/24,制作三課の PC は 192.168.3.0/24 のサブネットに配置する。各 PC には L3SW の DHCP サーバ機能によって,192.168.n.64~192.168.n.254 の IP アドレスを割り当てる。ここで,n には PC の配置に対応して,1~3 のいずれかの数値が入る。

・各課に配置された PC から FS へのアクセスについては,所属する課の FS だけにアクセスできるように制限する。

・PC から各課の FS へのアクセスは,従来どおり CIFS を使用し,FS 上で利用者 ID とパスワードによる認証を行う。

・各課の FS への通信は,FS の利用に必要な TCP ポートだけに限定し,その他の TCP/UDP ポートは遮断する。

・各課の FS 上のファイルは,広域イーサネット回線で接続された通信会社 N 社のバックアップサービス(以下,BS という)を利用して,全て遠隔地にバックアップされるようにする。

・各課の FS から N 社の BS へのファイル転送には,セキュアシェルの SCP(Secure Copy)コマンド(TCP ポート 22 を使用)を利用する。

ファイルの保護対策を行うために,M 社はネットワーク構成を変更した。変更後のネットワーク構成を図 2 に示す。

注記 e0~e5 は,L3SWのイーサネットインタフェースを示す。

【L3SW のフィルタリングルールの設計】

ネットワーク構成の変更とともに,L3SW のフィルタリングルールの設計を行った。

L3SW のフィルタリングルールの設計では,インタフェースに対して,双方向(IN/OUT)のルールを指定する。例えば,制作一課の PC を送信元,制作一課用 FS を宛先とするルールを設計する場合,インタフェース e5 と e0 に対して,L3SW に入る方向(IN)と出る方向(OUT)のルールを追加する必要がある。

設計した L3SW のフィルタリングルールを表 1 に示す。ここで,インタフェース e0 に関するルール及びインターネットアクセスに関するルールは,L3SW で適切に実装されているものとする。

表1 L3SWのフィルタリングルール
インタフェース方向送信元IPアドレス宛先IPアドレスプロトコル送信元ポート宛先ポート処理
e5IN192.168.1.0/24192.168.0.11TCPANY445許可
e5OUT192.168.0.11192.168.1.0/24TCP445ANY許可
e4IN192.168.2.0/24aTCPANY445許可
e4OUTa192.168.2.0/24TCP445ANY許可
e3IN192.168.3.0/24192.168.0.13TCPANY445許可
e3OUT192.168.0.13192.168.3.0/24TCP445ANY許可
bc192.168.0.0/24192.168.0.31TCPde許可
bf192.168.10.31192.168.0.0/24TCPed許可
インタフェース e0 に関するルールは省略
インターネットアクセスに関するルールは省略
ANYIN/OUTANYANYTCP/UDPANYANY遮断
注記1 サブネットマスク長を指定しない IP アドレスはホスト IP アドレスを示す。
注記2 ANY は対象が全てのインタフェース,IP アドレス,又はポートであることを示す。

【保護対策の強化】

〔業務で使用するファイルの保護対策〕で検討した内容についてレビューを行った。その結果,社内に不正な PC が持ち込まれて社内 LAN に接続された場合の備えが不足していると指摘された。

そこで,L3SW 及び L2SW に IEEE 802.1X 対応機種を選定し,PC にクライアント証明書を導入することによって,不正な PC の社内 LAN への接続を拒否することにした。

M 社では,図 2 のネットワーク構成に必要な構成要素を追加した。

【N 社の BS の利用】

FS のファイルをバックアップするために,追加・変更があったファイルを当日の全作業終了後,翌日の作業開始前までに夜間バッチ処理で N 社の BS に転送することにした。各課の FS 上のログファイルなどの管理に必要なファイルは,毎日のバックアップとは別の時間帯に,週に 1 回バックアップする。また,ファイル削除による変更分は,削除から 1 週間以上経過したファイルを,週に 1 回バックアップから削除する。

各課の FS に格納されているファイルの総量と,ファイルの追加・変更によって毎日のバックアップが必要な最大量を表 2 に示す。

表2 各課のFSに格納されているファイルの総量と毎日のバックアップが必要な最大量
格納されているファイルの総量毎日のバックアップが必要な最大量
制作一課用 FS1,200 G バイト10 G バイト
制作二課用 FS800 G バイト5 G バイト
制作三課用 FS1,600 G バイト15 G バイト

M 社では,夜間バッチ処理に利用可能な時間帯を考慮し,適切な帯域の広域イーサネット回線を用いてバックアップを行うことにした。

出典:平成26年度 春期 応用情報技術者試験 午後 問5