2014年 春期 応用情報技術者試験 問11
プロジェクト管理の監査
S社は、店舗及びインターネットで日用品などの販売を行う企業であり、決算期は3月である。S社では、近年、新規の情報システムの開発、既存の情報システムの大規模改修などのプロジェクトにおいて、リリースが大幅に遅れたり、予算を大幅に超過したりする事態が発生している。また、完成した情報システムに対する利用部門の満足度が低く、一部には、あまり利用されていない情報システムもある。
経営陣は、これらの問題が少なからず事業計画に悪影響を与えていると考え、監査部に対して、情報システム開発の重要なプロジェクトについて監査を実施するように指示した。
経営陣の指示を受け、監査部長は、プロジェクト管理を2014年度の年度システム監査計画において重点監査テーマとして位置付けた。そして、その監査目的を"個々のプロジェクトにおいて、プロジェクト管理が適切に行われているかどうかを確認し、予算及びスケジュールの遵守、並びに品質の確保に寄与すること"にした。
監査は、プロジェクト管理の監査経験のあるT君をリーダとし、担当者1名を加えた2名体制で実施することになった。
【事前調査の実施】
T君は、今回の監査計画の策定に当たって、2014年度に開始又は継続している情報システム開発のプロジェクトの概要及びその進捗状況について調査した。各プロジェクトの概要、及び調査を実施した2014年3月10日時点の進捗状況は、表1のとおりである。
プロジェクト名 | プロジェクトの目的 | 予定のプロジェクト期間と工数(外部委託を含む) | 調査時(2014年3月10日)における進捗状況 |
---|---|---|---|
インターネット販売システムの再構築 | 取扱件数増加に伴うシステム性能、稼働率、安全対策の向上 | 2014年2月~2015年6月末 約250人月 | プロジェクト計画を策定中(スケジュールとおり) |
財務会計システムの再構築(ERPパッケージを利用) | 決算早期化及び管理会計への対応 | 2014年1月~2015年3月末 約150人月 | プロジェクト計画を策定中(スケジュールとおり) |
物流システムの改修 | 電子受注への対応 | 2014年1月~2014年8月末 約100人月 | プロジェクト計画が承認され、要件定義を開始(スケジュールとおり) |
店舗POS端末システムの改修 | リース期間の終了に伴う新機種へのリプレース | 2014年4月~2014年7月末 約30人月 | プロジェクト開始前 |
経営情報システムの新規構築 | 意思決定の迅速化 | 2013年3月~2014年4月末 約150人月 | 総合テストを実施中(スケジュールとおり) |
【監査計画の立案】
T君は、調査結果を踏まえ、次のような監査計画を立案した。
(1) 監査期間は、2014年4月~2015年3月末とする。ただし、2015年3月末以降に終了するプロジェクトを監査対象とする場合には、プロジェクト終了まで監査期間とする。1回目の監査は、2014年4月中旬に実施し、その後、約3か月ごとに実施する。
(2) 監査対象とするプロジェクトは3件とする。店舗POS端末システムの改修及び経営情報システムの新規構築のプロジェクトについては、今回の監査目的を踏まえて優先度が低いと判断し、対象外とする。
(3) 主要な監査項目は、次のとおりとする。 ① プロジェクト体制は適切か。 ② プロジェクトの進捗管理、予算管理は適切か。 ③ プロジェクトの品質管理は適切か。
(4) 監査方法は、主に各プロジェクトの進捗状況に応じて作成される関係文書の閲覧と、プロジェクトリーダをはじめとするプロジェクトメンバ及び利用部門の担当者へのインタビューとする。
【実施した監査の内容と主な発見事項】
(1) 実施した監査の内容
T君は、2014年4月中旬に1回目の監査を実施した。監査は、各プロジェクトの進捗状況から次のような内容であった。
① インターネット販売システムの再構築及び財務会計システムの再構築のプロジェクト計画書については、策定の体制、方法を含めた内容の適切性を確認した。
② 物流システムの改修のプロジェクト計画書及び要件定義書については、策定の体制、方法を含めた内容の適切性を確認した。
(2) 主な発見事項
① インターネット販売システムの再構築プロジェクトの目的は"システム性能、稼働率、安全対策の向上"とあったが、利用部門の担当者にインタビューを行ったところ、操作性の改善など機能の向上についても多くの要望があることが分かった。
また、経理部門の複数の担当者にインタビューを行ったところ、財務会計システムの再構築プロジェクトの目的である決算早期化を実現するためには、システム対応に加えて業務の大幅な見直しが必要であることが判明した。しかし、プロジェクト計画書には、その内容やスケジュールについて記載がなかった。
② 物流システムの改修のプロジェクトについて、最新スケジュールを確認したところ、要件定義は終了している予定であるにもかかわらず、実際にはほとんど進んでいなかった。プロジェクトリーダに理由を確認したところ、利用部門の担当者が多忙であり、ほとんど打合せに出席できていないとのことであった。また、プロジェクトリーダによれば、当初のスケジュールとおりにプロジェクトを完了するのは難しいとのことであった。