2014年 春期 応用情報技術者試験 問4
Webシステムの機能向上
医薬品商社であるX社は、顧客に医薬品の最新情報を提供することを目的として、Webサイトを開設している。図1に現在のWebサイトのシステム構成を示す。
FW:ファイアウォール
DB:データベース
【現在のシステム構成及びアクセス件数】
・Webサーバは、クライアントからのアクセスとその検索要求に応じて、社内ネットワークのDBサーバ上のデータベースを検索し、必要な医薬品の情報をクライアントに返す。
・検索の多くは、医薬品の名称や記号から、その成分や効能を調べる内容である。Webサーバは、DBサーバで管理されている医薬品や成分、効能を表すコードを、顧客が理解しやすいように、図やグラフに変換して表示する。DBサーバの検索処理時間は、Webサーバの表示処理時間に比べて極めて短い。
・Webサイトの通常のアクセス件数は、平均毎秒16件である。ただし、特定疾病の流行などによって急増し、通常の100倍以上のアクセスが発生する場合がある。
【医薬品共同Webサイトの構築】
X社は、他の医薬品商社と連携して医薬品の情報を提供することになり、各社のWebサイトをX社のWebサイトに統合し、医薬品共同Webサイト(以下、共同サイトという)として運営することになった。共同サイトの要件は、次のとおりである。
・アクセス件数を、X社単独時の4倍と想定する。
・アクセス時の応答時間は、ネットワークの伝送時間を除き、65ミリ秒以下とする。
・アクセス急増時には"アクセスが集中しておりますので、後ほど閲覧してください。"と表示する。
・24時間連続稼働を実現する。
【共同サイトのシステム構成案】
X社システム部のY部長は、部内のWeb担当者Z君に共同サイトの構成案作成を指示し、後日Z君から図2に示す構成案が提出された。
・Webサーバは、現在と同じ処理能力の機器を利用し、共同サイトの要件を満たすために必要な台数を設置する。
・負荷分散装置が、インターネットからのアクセス要求を監視し、各Webサーバの状況に基づいて、いずれかのWebサーバに振り分ける。
・2台のDBサーバは、クラスタ構成とする。
【現在のWebサイトの処理能力】
Z君は、共同サイトの構成案を決定するために、現在のWebサイトの処理能力や稼働率の調査を開始した。現在のWebサイトでは、ネットワークの伝送時間を除くと、1件当たりのアクセス処理時間は、平均50ミリ秒である。
さらに、現在のWebサイトの処理能力を数値化して評価するために、アクセスに対するサイトの応答時間を、窓口が一つのM/M/1待ち行列モデルを適用し、計算することにした。待ち行列モデルの適用については、平均到着率を単位時間当たりのアクセス件数に、平均サービス時間をアクセス処理時間に読み替える。利用率はアクセス件数とアクセス処理時間を乗じた値となる。Z君は、現在のシステムの利用率、待ち時間、応答時間は、それぞれ0.8、200ミリ秒、250ミリ秒であると計算した。
【共同サイトの処理能力】
Z君は、共同サイトのシステム処理能力を数値化して評価することにした。そこで、複数窓口の待ち行列モデルであるM/M/s待ち行列モデルを適用して、共同サイトの利用率と応答時間を計算し、設置が必要なWebサーバの台数を決定することにした。
M/M/s待ち行列モデルの利用率と待ち時間比率の関係(図3)と次の式を利用して、必要なサーバ台数を求めることができる。
・利用率=アクセス件数×アクセス処理時間/サーバ台数
・待ち時間比率=待ち時間/アクセス処理時間
・応答時間=待ち時間+アクセス処理時間
【処理能力の計算】
(1) M/M/s待ち行列モデルでの計算方法を確認する。現在のシステム構成及びアクセス件数のままで、Webサーバを1台追加したとすると、次のように計算できる。
・利用率はaとなるので、図3のサーバ台数が2(n=2)の曲線と利用率との交点から待ち時間比率が分かる。
・アクセス処理時間が50ミリ秒であることから、待ち時間はおよそbミリ秒で、応答時間はcミリ秒である。
(2) 次に、共同サイトに必要なサーバ台数を決定する。
・サーバ台数をnとすると、利用率は、式dで計算できる。サーバ台数が2、3、4、5、6、…のときの利用率をあらかじめ計算しておく。
・応答時間は共同サイトの要件に従うので、待ち時間はeミリ秒以下になり、これらによって待ち時間比率の目標値が分かる。
Z君は、以上の結果をY部長に報告した。
【共同サイトのシステム構成の見直し】
Y部長は、共同サイトの構成案と必要サーバ台数の報告内容を確認した後、構成案にアクセス急増時の対応が必要と判断し、Z君に修正案の作成を指示した。
Z君は、負荷分散装置に、振り分け先の全てのサーバが稼働しても処理が不能と判断した場合、振り分けを中止し、全てのアクセスを特定の1台のサーバに接続させる機能があることを確認した。Z君は、この機能を利用することによって、構成案に①アクセス急増時専用の対策用サーバを追加し、アクセス急増時には全てのアクセスをこのサーバに接続することにした。Z君は修正案を作成し、Y部長に提出した。