2013年 春期 応用情報技術者試験 問5

アプリケーションサーバの増設

M社は,コンピュータ関連製品の販売会社である。M社では,販売を支援する業務システムを稼働させている。業務システムは,アプリケーションサーバ(以下,APサーバという),データベースサーバ(以下,DBサーバという)などから構成されている。現在の業務システムのネットワーク構成を,図1に示す。

注記1 PCのIPアドレスは,172.16.0.1~172.16.0.99の範囲に設定されている。
注記2 PCとサーバのIPアドレスは,固定値が設定されている。

[障害の発生と対応]

業務システムに新機能を追加してから数日後,多くの社員から情報システム部に,業務システムの応答が遅くなり,業務に支障を来すというクレームが入った。クレームを受けた情報システム部では,N主任とJ君が対応した。

J君がサーバの稼働状況を調査したところ,APサーバのCPU使用率が高い値を示していた。稼働中のプロセスをチェックした結果,新機能のプログラムが,設計時に予想した以上の負荷をCPUに与えていることが分かった。

この状況について報告を受けたN主任は,APサーバの能力増強が必要と判断した。今後も,更なる新機能の追加による負荷の増大が予測できたので,N主任は,サーバロードバランサ(以下,SLBという)を用いてAPサーバを2台構成にする方法の検討を,J君に指示した。

[SLBの機能]

J君は,まず,SLBの機能と使用方法を調査した。

一般にSLBには,サーバへの処理要求の振分け機能,クライアントとサーバの間のセッション維持機能,サーバの稼働監視機能などがある。セッション維持の方式は,OSI基本参照モデルのレイヤを基に,三つの方式に分類される。レイヤ3方式では送信元IPアドレスを基に,レイヤ4方式では送信元IPアドレスとポート番号を基に,レイヤ7方式ではクッキーはURL情報に埋め込まれたaを基に,セッション維持が行われる。サーバの稼働監視については,レイヤ3ではbパケットによる装置監視,レイヤ4ではc確立要求に対する応答を確認するサービス監視,レイヤ7ではアプリケーション監視が行われる。

[SLBの導入構成案1]

今回は,導入が容易なレイヤ4方式を採用し,SLBをPCとサーバの間に設置する。APサーバは,1台増設してAPサーバ1とAPサーバ2の構成にする。

SLBには,それ自体のIPアドレスの他に,負荷分散対象の2台のAPサーバを代表する,仮想的な一つのIPアドレス(以下,VIPという)を設定する。PCがVIP宛てに処理要求を行うと,その処理要求は,SLBによって最適なサーバに転送される。その際,SLBは,送信元IPアドレスの変換は行わない。

SLB導入時の構成(構成案1)と,PCとAPサーバ1の間の通信の順序を図2に,その時のPCとAPサーバ1の間のフレーム内のアドレス情報を表1に示す。

注記 ①~④は,APサーバ1に処理要求が振り分けられたときの,PCとAPサーバ1の間の通信の順序を示す。
表1 SLB導入時のPCとAPサーバ1の間のフレーム内のアドレス情報
番号送信元アドレス宛先アドレス
MACアドレスIPアドレスMACアドレスIPアドレス
PCMAC172.16.0.50SLB0MAC172.16.0.100
deAP1MAC172.16.1.1
AP1MAC172.16.1.1de
SLB0MAC172.16.0.100PCMAC172.16.0.50

J君が構成案1の内容をN主任に報告したときの会話を,次に示す。

J君 :SLBを,図2の構成で導入します。その際,PCのアクセス先のAPサーバのIPアドレスをVIPに変更します。また,通信は,表1のようになります。

N主任:よく調べたね。しかし,図2の構成では,大きな変更が必要になってしまう。現在の業務システムの,PC,APサーバ及びDBサーバのサブネットマスク値は,fとなっているから,これを,gに変更するとともに,(ⅰ)サーバのその他のネットワーク情報も変更することになる。

J君 :変更の少ない方法があるのでしょうか。

N主任:SLBのソースNAT機能を使用する方法を調べてみなさい。

[SLBの導入構成案2]

SLBには,PCから送信されたパケットをAPサーバに転送するとき,送信元IPアドレスを,SLB自体に設定されたIPアドレスに変換してサーバ宛てに送信する,ソースNAT機能がある。

ソースNAT機能使用時の構成(構成案2)と,PCとAPサーバ1の間の通信の順序を図3に,その時のPCとAPサーバ1の間のフレーム内のアドレス情報を表2に示す。

注記 ①~④は,APサーバ1に処理要求が振り分けられたときの,PCとAPサーバ1の間の通信の順序を示す。
表2 ソースNAT機能使用時のPCとAPサーバ1の間のフレーム内のアドレス情報
番号送信元アドレス宛先アドレス
MACアドレスIPアドレスMACアドレスIPアドレス
PCMAC172.16.0.50SLB0MAC172.16.0.100
hiAP1MAC172.16.1.1
AP1MAC172.16.1.1hi
SLB0MAC172.16.0.100PCMAC172.16.0.50

J君が構成案2の内容をN主任に報告したときの会話を,次に示す。

J君 :ソースNAT機能を使用すると,図3の構成になります。その際,通信は,表2のようになります。この方式では,現在の構成を変更する必要がありません。

N主任:そうだね。図3の構成では,APサーバとDBサーバのネットワークケーブルの接続変更が必要ないだけでなく,PC,APサーバ及びDBサーバのネットワーク情報の変更も必要ない。ただし,ソースNAT機能を使うと,(ⅱ)APサーバのログを基にAPサーバの利用状況を調査するときに,制約が生まれる。しかし,運用管理に支障を来すわけではないので,図3の方法で進めてくれないか。

N主任の指示を受け,J君は,APサーバの増設作業を開始した。

出典:平成25年度 春期 応用情報技術者試験 午後問題 問5