応用情報技術者試験 過去問 2012年(平成24年) 春期 午後 問3
顧客情報管理システム及び販売情報管理システムの更改
K社は,北欧の家具と家庭雑貨の販売会社であり,L県を中心に複数の販売店を展開している。また,インターネットによる販売も手掛けており,売上の増加と利益の拡大のために,新たなブランドの商品をインターネットで販売することを計画している。この計画を実現するために,本店に設置している顧客情報管理システム及び販売情報管理システムについて,将来の事業展開の見通し及び現行システムの問題点と改善要望を考慮した更改計画を策定する必要が生じている。
現行システムの概要
現行システムの概要は,次のとおりである。
- 販売店ごとに顧客情報(氏名,住所,電話番号,購入履歴)を,店内に設置したPC で管理している。
- インターネット販売の顧客情報(氏名,住所,電話番号,メールアドレス,購入履歴)を顧客情報管理システムで管理している。
- 各販売店から販売情報管理システムに,商品ごとの販売数量が,毎日1回,送信され,蓄積される。
- Webサーバから販売情報管理システムに,インターネット販売の販売情報が,リアルタイムで,送信され,蓄積される。
- 現行システムは,現在のデータ処理量の1.5倍まで処理できる能力をもっている。
- 現行システムは,品質が安定せず,機能追加をしたときのシステム障害の発生件数が増加傾向にある。
- 現行システムが稼働しているハードウェアは,1年後に保守期限が到来する。
- 現行システムへの機能追加要望には応えきれていない。
更改計画の策定
情報システム部のX部長は,次の(1)~(3)の手順で更改計画を策定するように,システム企画担当のY課長に指示した。
- 将来の事業展開の見通しを把握するとともに,現行システムの問題点と改善要望を抽出するために,関係各部へのヒアリングを実施し,内容を整理する。
- ヒアリング結果を踏まえて,システム化の方針を明確にする。
- システム化の方針に基づき,システムの実現方式を検討する。
ヒアリング結果の整理
Y課長は,経営企画部,営業部及び情報システム部の部長及び課長にヒアリングし,将来の事業展開の見通し及び現行システムの問題点と改善要望を次のように整理した。
- 経営に関する事項
- 今後3年間は,販売店の改装とWebサーバの増強を最優先で行うので,多額の投資を必要とする。年間の投資額には一定の限度があるので,顧客情報管理システム及び販売情報管理システムへの投資は,極力少なくする必要がある。
- 個人情報については,個人情報保護マネジメントシステム(PMS)を適用し,自社で定めた個人情報管理規程に基づいて管理している。個人情報の処理を外部委託することについては,顧客から同意を得ている。ただし,今までは,外部委託をしていなかったので,外部委託先との個人情報の授受に関する手順は,個人情報管理規程に盛り込まれていない。
- 販売に関する事項
- 6か月後から,インターネットで新たなブランドの商品販売を開始するとともに,様々なメディアを使って,大規模なプロモーションを行う。最大で,インターネット販売の顧客数が現在の3倍,販売数量が現在の5倍になると見込んでいる。ただし,競合他社の品ぞろえやプロモーションの実施状況によって,顧客数,販売数量は,増減する。
- プロモーションを効果的に実施できるようにするために,年齢別・家族構成別・月別・商品別の販売数量を集計し,分析する機能の利用を,6か月後までには開始できるようにしてほしい。
- 更改後のシステムでは,顧客情報管理及び販売情報管理の機能を,K社独自の販売業務プロセスに合うように,拡充してほしい。
- 現行システムでは,特定の販売店がセールをする場合,インターネット販売だけの顧客宛てには案内を発送できない。
- システムに関する事項
- 今までは,甚大な広域災害の発生を想定していなかったので,現行システムは,本店のビル内に設置してある。
- 現行システムのシステム障害の増加に伴って,保守・運用作業の工数が増加している。
- 短期間にデータ処理量が増減しても,顧客情報管理システム及び販売情報管理システムのリソースに不足や余剰が生じないようにする必要がある。
- 顧客情報管理システム及び販売情報管理システムを自社で再開発する場合には,最低9か月の期間が必要になる。
システム化の方針
Y課長は,〔ヒアリング結果の整理〕に基づき,システム化の方針を次の(1)~(7)のとおり明確化した。
- 商品,顧客,商談などの情報管理や売上予測などの機能を有し,営業活動を支援するツールであるCRMパッケージを利用する。
- CRMパッケージによって,① 販売店の顧客情報とインターネット販売の顧客情報を一元管理する。
- K社独自の販売業務プロセスに合わせた機能を提供する。
- システム更改に伴う投資額は,最小限にとどめる。
- 既存の個人情報管理規程を適用する。
- データ処理量に急激な変動があっても,システムのリソースに過不足が生じないようにする。
- システムの保守・運用作業は,極力アウトソースする。
システムの実現方式の検討
Y課長は,〔システム化の方針〕に基づき,必要なシステムを全て自社で構築して所有する方式と,SaaSを利用する方式とを比較した。その結果,② SaaSを利用する方式において,個別の対応(カスタマイズなど)を必要とする項目があるものの,次の(1)~(5)のメリットを享受できることから,詳細な検討を進めることにした。
- 導入初期の投資を大幅に軽減できる。
- a に応じて,システムリソースに過不足が生じることなく迅速に利用できる。
- サービスの利用を b に開始できる。
- 保守・運用作業の工数を削減できる。
- システムの資産管理作業の工数を軽減できる。
Y課長は,SaaS事業者に詳細な利用条件の提出を依頼するために,X部長にSaaSの利用について説明したところ,③ SaaS事業者のデータセンタが,甚大な広域災害によって被災した場合を想定して,自社の事業継続計画(BCP)の観点からSaaS事業者に確認すべき点があると指摘された。その上で,SaaSを利用する際には,K社の要求水準とSaaS事業者の保証条件を明文化し,c を締結するよう指示された。