応用情報技術者試験 過去問 2012年(平成24年) 春期 午後 問12
情報化投資における意思決定プロセスの妥当性監査
R社は、紳士服の製造販売チェーンを運営している。R社では、事務作業の省力化目的だけでなく、新規顧客の開拓や既存顧客の囲込み、新しいサービスの提供などを目的とした情報化投資も積極的に行ってきた。しかし、情報化投資が肥大化し、かつ、情報化投資の有効性に疑問があるとの指摘が経営層から挙がった。そこで、情報化投資案件の選定方法に関して、監査が実施されることになり、監査部は、S課長をリーダとする監査チームを結成した。
R社の情報システム部は、システム化の企画と開発・運用の管理に特化しており、開発作業は全て外部委託している。また、コンピュータセンタを保有しておらず、ホスティングサービスを利用している。
R社では、経営企画部が経営戦略に基づいて経営計画を策定し、製造部・営業部などの主要な部署に設けた企画セクションがそれを実現するための具体的な施策を立案している。経営企画部は、経営計画策定の一環として、半期ごとに情報化投資の予算枠を設定している。この予算枠は、会社全体の予算総額である。情報化投資の対象となる案件(以下、投資対象案件という)は、〔情報化投資決定に関する現行フロー〕に従って、選定されている。
監査の目的と方法
今回の監査における目的と方法は、次のとおりである。
- 目的
投資対象案件と投資見積額が役員会において決定されるまでのフローを確認し、当該フローとフローにおける各工程について妥当性を監査する。 - 方法
経済産業省の"システム管理基準"を用いて、フローと各工程の問題点を検出し、検出した問題点の解決に向けた改善の提案を必要に応じて監査意見として表明する。情報化投資決定までの詳細な工程について、"システム監査基準"を用いて監査実施計画を立案した。具体的な監査手続として、規程類や関係文書(投資対象案件の選定や役員会での決裁に関する議事録、後述する各部からの依頼書・申請書と情報システム部からの回答書などの作成文書)の査閲と確認、及び経営企画部や情報システム部などの部署へのヒアリングを行う。
情報化投資決定に関する現行フロー
情報化投資決定に関する現行フローは、"情報化投資規程"として文書化されており、その概要は次のとおりである。
- 経営企画部が、次半期の情報化投資の予算枠を設定する。
- システム開発を希望する各部署(以下、各部という)が開発見積依頼書を作成し、情報システム部に提出する。開発見積依頼書への記載事項は、開発の目的・システム化の内容・実施希望時期・関連する部署である。
ただし、老朽化した機器の更改やシステム運用環境の整備など、システム基盤に関する開発見積依頼書だけは、情報システム部が作成する。 - 開発見積依頼書に基づき、情報システム部で開発費と運用に係る費用を見積もる。
- 管理会計上、各部が開発費用を負担することになっているので、各部は、情報システム部で策定した見積額を参考にして、開発の要否を決め、開発を希望する案件(以下、開発案件という)が複数ある場合は部内での優先順位を判定する。ただし、見積額が百万円以下の案件は本規程の対象外とし、"小額投資案件取扱規程"に基づいて別途管理する。
- システム化によって実現が期待される効果を各部で算定の上、開発見積依頼書の記載事項にこれを追記した開発申請書を作成し、情報システム部へ提出する。
- 情報システム部で、開発案件の中から、投資対象案件とすべきものを選定する。
- 役員会を開催し、選定した投資対象案件について説明の上、決裁を受ける。
情報システム部に対するヒアリング結果
情報化投資の決定に関する現行フローの詳細について確認するために、監査チームは、情報システム部に対してヒアリングを行った。
- 開発見積依頼書を作成する際、各部は、実現したい内容を情報システム部に説明し、システム化の可能性を情報システム部に打診する。情報システム部では、見積りを行う際に、各部の要望をシステム化する方法や採用する技術を検討している。
ただし、各部からの要望は、現場の業務を改善するという視点が中心になっており、最新の情報技術を適用できる開発案件はほとんどなく、活用の成果は上がっていない。 - 情報技術の進歩は著しいものがあり、最新の情報技術を顧客情報管理や新しいサービスへ応用し、成果を上げた他社の事例も多い。情報システム部では、最新の情報技術とその応用に関する研究を部の主要な業務として位置付け、実施している。
- システム基盤に関する開発案件は、情報システム部で開発申請書を作成し、同部の開発案件として各部の開発案件と同様に査定している。
- 見積額は、情報システム部で策定した"見積算定ガイドライン"に基づいて、外部委託先から提示された見積額を情報システム部が精査して確定している。
- 投資対象案件は、開発案件の緊急度と優先順位を勘案しつつ、各部に不公平にならないように配慮し、経営企画部から提示される予算枠に収まるよう選定している。
- リリースの3か月後に、情報システム部は各部に対して開発費の実績報告を行う。情報システム部で策定した見積額と実際に掛かった開発費とに差異がある場合は、その理由を説明する。これをもって開発工程を完了とし、その旨を経営に報告する。
監査意見
ヒアリングの後、監査チームは、関係する議事録や決裁文書、各部からの依頼書・申請書と情報システム部からの回答書を取り寄せて、フローどおりに実施されていることを確認の上、報告書をまとめた。監査チームがaとしてまとめた発見事項と改善提言は、次のとおりである。
- 投資対象案件の選定が情報システム部だけで行われており、経営企画部及び各部の企画セクションが参画していないので、bとの整合がとれないおそれがある。投資対象案件の選定は、情報システム部だけで実施するのではなく、経営企画部及び各部の企画セクションを加えた投資対象案件選定会議を設置して、そこで審議の上、役員会の決裁を受けるべきである。
- ①システム基盤に関するもの以外の開発案件は、各部からの要望だけに基づいて起案することになっていて、最新の情報技術を適用できる開発案件はほとんどない。情報システム部から各部にcし、それに基づいて各部が開発案件を検討し、起案することができるよう、情報化投資における情報システム部の役割を見直すべきである。
- 開発申請書の記載内容に、現行とシステム導入後のd、及び新旧の両者の比較結果を開発申請書に記載すべきである。
- "情報化投資規程"で定められた現行フローには、開発工程完了から一定期間後に実施すべき手続についての規定が漏れている。②情報化投資の有効性を検証するために必要な手続を規定し、実施すべきである。