2010年 秋期 応用情報技術者試験 問3
在庫管理
S 社は,家庭用電気製品の製造・販売を行う中堅メーカである。T 君は,情報システム部門に所属し,在庫管理システムの開発と運用を担当している。
家庭用電気製品は競争が激化しており,新製品の市場への投入間隔が,従来は平均で2~3年であったが,近年はほぼ1年になってきている。製品の種類が増加し,生産量の変動も激しくなっている。また,製品機能の向上によって,製品当たりの部品点数も増加している。
こうした状況の下で,S 社では,部品在庫の不足によって,製品を予定どおりに工場から出荷できなくなる事態が発生するようになってきた。そこで,T 君は,在庫管理の方法に問題がないか,現状の調査と対策の検討を行うことになった。
【S 社における在庫管理方式】
S 社は,部品発注において,定量発注方式と定期発注方式を用いている。
定量発注方式においては,在庫数量が,部品ごとに定めた一定の水準(以下,発注点という)まで低下したら,部品ごとに定めた一定量の発注を行う。S 社では,定量発注方式の対象となる部品ごとに,発注点と発注量を在庫管理システムに登録している。日々の在庫数量が更新されると発注が必要かどうかを判定し,発注が必要ならば,在庫管理システムによって発注伝票が作成される。
S 社においては,発注点は次の算式によって決定している。
・発注点=平均出庫数量(個/日)×調達期間(日)+安全在庫数量
・安全在庫数量=(最大出庫数量(個/日)-平均出庫数量(個/日))×調達期間(日)
定期発注方式においては,一定の発注サイクルごとに部品の発注量を計画し,発注する。S 社では,毎月の生産計画立案後に,定期発注方式の対象となる部品ごとに必要量を算出し,発注伝票を作成する。
また,S 社は,倉庫内にある部品の実際の在庫数量を調べる実地棚卸を行っている。現在は,3 か月に 1 度の棚卸サイクルで,一斉棚卸を行っている。これによって,在庫管理システム上の在庫数量と,倉庫での実際の在庫数量を一致させる。
日々の入出庫では,倉庫への部品の出し入れの都度,端末の入出庫伝票画面に部品コード,数量を入力し,実入出庫を行う。在庫管理システムでは,前日の在庫数量と実入出庫数量から日々の在庫数量を計算する。近年は,部品の種類が増えてきたので,実入出庫に要する画面入力工数が増大している。そこで,部品によっては,在庫管理システムにおいて次のような見なし出庫を行い,画面入力作業を省略している。
・部品を使用する製品や半製品などの親品目の完成数量が製造現場から報告されると,その製造に用いた部品も部品表の員数どおり出庫されたものと見なし,在庫数量から減算する。部品表には親品目1個の製造に必要な数量が部品ごとに員数として設定されており,この員数と,親品目の完成数量から部品の出庫数量を算出する。
・員数の設定においては,過去の製品での類似の部品の実績を参考にして,親品目1個当たりの部品の不良数を想定し,これを員数にあらかじめ加算しておく。
【現状調査の結果】
T 君は,過去数年の部品使用実績の分析と,生産管理や資材の担当者へのヒアリングを行った。その結果,次の問題点が判明した。
(1)定量発注方式を採用している部品の中で,欠品が発生しているのは半導体電子部品の一部である。これらは,従来は製品に対して共通性が高く,需要量も安定していたが,近年は,製品機能の多様化によって種類が増加し,需要の変動も激しくなっている。発注点の設定は,新製品の投入に合わせて,年に1度行っており,現在の発注点は,6か月前に設定して以来,見直していない。
(2)定期発注方式を採用している部品の中で,欠品が発生しているのは液晶パネルなどの表示ユニット用部品である。表示ユニット用部品は,それらが取り付けられる製品ごとに,S 社が設定した仕様で部品メーカに発注している。月1回の生産計画立案に対し,月中の追加需要による部品の在庫切れを防止するための緊急発注が頻発しており,部品メーカからの納入が間に合わないケースが発生している。
(3)一部の部品について,在庫管理システム上の在庫数量と,倉庫での実際の在庫数量に差異が発生し,在庫管理システムにおいて発注数量の算出が正しく行えないことがある。T 君が調べたところ,それは次のようなケースであった。
① 部品点数が増加したことによって,実入出庫での入出庫伝票画面への入力の際に,数え間違いや入力ミスを起こした。
② 製造工程において想定以上の部品の品質不良が発生し,追加出庫を行った。
【対策の検討】
調査結果を踏まえ,T 君は,次の対策を提案することにした。
(1)半導体電子部品の発注点を,過去6か月間の出庫実績データを基に見直す。表は,半導体電子部品の現状の発注点と過去6か月間の出庫実績である。見直しの結果,部品aに対して,欠品防止のために発注点の見直しが必要であることが分かり,発注点をb個に設定し直すことにした。
部品名称 | 部品A | 部品B | 部品C | 部品D | 部品E |
---|---|---|---|---|---|
調達期間(日) | 10 | 12 | 14 | 10 | 8 |
平均出庫数量(個/日) | 10,000 | 12,000 | 8,000 | 9,000 | 10,000 |
最大出庫数量(個/日) | 13,000 | 13,000 | 10,000 | 10,000 | 11,000 |
現状の発注点(個) | 100,000 | 160,000 | 140,000 | 100,000 | 90,000 |
(2)表示ユニット用部品に対し,生産計画の見直しを,週ごとなどの頻度で行うことで,cを短縮する。また,追加需要が発生した際に在庫切れを起こさないよう,予備としてのdの見直しを行う。
(3)在庫管理システムにおいて,実入出庫の精度向上のための入力自動化などの改善を行う。また,棚卸業務の見直しも検討する。