2010年 秋期 応用情報技術者試験 問1

販売戦略

次の問1,問2については1問を選択し,答案用紙の選択欄の問題番号を○印で囲んで解答してください。

なお,2問とも○印で囲んだ場合は,問1について採点します。

問1 販売戦略に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。

【Z社の概要】

Z社は,海外旅行を専門とする中堅の旅行会社で,首都圏に本部と複数の店舗を展開している。Z社では,自社で企画した"パッケージツアー"(以下,ツアーという)を,幅広い顧客層に向けて手ごろな価格で販売している。Z社のツアーは,人気がある海外の名所旧跡を訪問するツアーを中心とした品ぞろえで,利用する航空会社や宿泊施設,食事,観光などがあらかじめ決められている。ツアーの企画は,店舗を訪れた顧客やツアーに参加した顧客へのアンケート結果も参考にして,本部で行っている。

アンケートでは,旅行で訪れてみたい場所や,ツアーに支払ってもよい上限金額などを質問し,答えてもらっている。これら顧客の希望を取り入れ,かつ,収益を確保するため,ツアーを企画する担当者には,世界各地のホテルや交通機関の事情についての専門知識などが求められる。

顧客は,目的とする訪問先や日程などに合ったツアーを探し出し,選択している。顧客にはシニア世代が多いので,店舗の担当者はそれぞれのツアーの内容を分かりやすく説明し,ツアー選択のアドバイスをするなど丁寧な販売を心掛けていて,顧客からの評判が良い。このことが口コミで広まり,集客に役立っている。一方で,店舗の担当者からは,店舗の老朽化などの意見が寄せられている。

【Z社を取り巻く経営環境】

近年,競合他社から多くの類似商品が発売されてきている。これらのツアーは差別化が難しいので価格競争となり,利益が低下している。また,繰り返し海外旅行に出掛ける顧客が増え,ツアーに対するニーズが多様化してきている。例えば,アフリカ大陸の秘境を訪れる旅や,訪問先で環境保護のイベントに参加するなど特定の目的をもった旅に関する問合せが増えている。しかし,Z社のツアーは,これら顧客のニーズにこたえられる品ぞろえや,仕組みとはなっていないので,対応できていない。そのほか,自分オリジナルの旅行に出掛けたいという要望も寄せられているが,個別の要望に対応するには,手間や時間,ノウハウが必要となるので実施できていない。

Z社は,世界各地の多くの旅行会社(以下,ツアーオペレーターという)と提携して

いて,これを強みとしている。ツアーオペレーターは,現地の情報に詳しく,Z社からの依頼で宿泊施設や移動手段,食事,観光など,旅行素材の手配を専門に行っている。

ツアーオペレーターからは,著名な指揮者による演奏会や4年に1度開催されるサッカーのワールドカップのチケットなど,他社では入手が困難な"希少価値の高い旅行素材"が度々持ち込まれる。しかし,これをツアーに組み込めると,提供価格が高額となるので,手ごろな価格での提供を特徴としているZ社では活用していない。

Z社では,これらの状況から"競合他社との価格競争"及び"多様化した顧客ニーズ"の二つの課題への対応策として,"希少価値の高い旅行素材"を活用することにした。さらに,商品の見直し,対象顧客層の設定,販売施策の検討などを実施し,これまでの手ごろな価格での販売から,高付加価値による高価格での販売へと販売戦略を転換し,これに向かって経営資源をシフトすることにした。

【商品の見直し】

"希少価値の高い旅行素材"をテーマにしてツアーを構成した"テーマツアー"を開発する。例えば,有名な豪華客船でのクルーズをテーマにしたツアーに,ベテラン添乗員の同行,ゆとりある日程,荷物の配送サービスなどを付加して,最上級の旅を演出する。

また,"希少価値の高い旅行素材"に,自分がよく利用する航空会社や好みのホテル,レストラン,観光地などを組み合わせ,これに航空機の乗継情報やホテルの居心地の良い部屋など担当者のノウハウを提供して,自分オリジナルのこだわりの旅行計画を作ることができる"フリープラン"を新たに開発する。

これらの商品について,図に示す商品マップを作成し,それぞれの位置付けを確認した。

<figure>
  <div style="text-align: center; margin: 20px 0;">
    <div style="border: 1px solid #ccc; padding: 20px; width: 400px; margin: 0 auto; position: relative;">
      <div style="position: absolute; top: -10px; left: 50%; transform: translateX(-50%); background: white; padding: 0 10px;">作る</div>
      <div style="position: absolute; bottom: -10px; left: 50%; transform: translateX(-50%); background: white; padding: 0 10px;">選ぶ</div>
      <div style="position: absolute; left: -20px; top: 50%; transform: translateY(-50%); background: white; padding: 0 10px;">手ごろ</div>
      <div style="position: absolute; right: -20px; top: 50%; transform: translateY(-50%); background: white; padding: 0 10px;">高級</div>
      
      <div style="position: absolute; top: 20px; left: 20px; padding: 10px; border: 1px solid #666;">
        <div>領域B</div>
      </div>
      <div style="position: absolute; top: 20px; right: 20px; padding: 10px; border: 1px solid #666;">
        <div>領域A</div>
      </div>
      <div style="position: absolute; bottom: 20px; left: 20px; padding: 10px; border: 1px solid #666;">
        <div>領域C</div>
      </div>
      <div style="position: absolute; bottom: 20px; right: 20px; padding: 10px; border: 1px solid #666;">
        <div>領域D</div>
      </div>
    </div>
  </div>
  <figcaption>図 商品マップ</figcaption>
</figure>

【対象顧客層の設定】

海外旅行を希望する人を,地理的変数や人口統計的変数,心理的変数,行動的変数などを使用して共通するニーズや特徴を明らかにし,グループ分けする。また,市場の規模や収益性,参入障壁,競合状況,相乗効果などの判断基準から,各グループの有効性を分析した。

その結果,"競合他社との価格競争"への対応には,価格が高くても質の高い旅行を求める"時間と資金に余裕のあるシニア世代"を対象顧客層に設定し,テーマツアーを提供することにした。しかし,もう一つの課題である"多様化した顧客ニーズ"への対応が不十分と判断し,"時間と資金に余裕のあるシニア世代"のほかに"a顧客"も併せて対象顧客層に設定し,フリープランを提供することにした。

【販売施策の検討】

店舗での対面販売は,顧客の要望を最大限に実現することを目標とする。中でもフリープランでは,個々の顧客の要望をヒアリングし,それに合ったプランを提示する。これを繰り返し行い,顧客とともにフリープランを作り上げ,その対応に満足してもらうことで付加価値を高め,高価格での販売を実現する。そのためには,店舗の担当者にも新たなスキルが求められるようになる。

また,店舗を改装し,顧客がゆっくりと商品を検討できるなど,施策に合った店舗作りを実現する。

以上に基づいて,販売戦略の転換を進めることにした。

出典:平成22年度 秋期 応用情報技術者試験 午後問題