2021年 春期 応用情報技術者試験 問4
IoT技術を活用した駐車場管理システム
K社は,大都市圏を中心に約10万台分の時間貸し駐車場(以下,駐車場という)を所有する駐車場運営会社である。K社が所有する駐車場の"満車","空車"の状況や課金状況などは,K社が構築した駐車場管理システムで管理している。K社では,5年後には所有する駐車場を約20万台分に拡大する計画に加え,新規事業の拡大や顧客サービスの向上策を検討することになった。
K社の経営企画部で,顧客サービスの向上策を検討した結果,その一つとして,駐車場の利用状況を表示するスマートフォン向けアプリケーションソフトウェア(以下,駐車場アプリという)を開発することになった。
【駐車場管理システムと駐車場アプリの仕様の検討】
経営企画部のL さんは,駐車場アプリを実現するために,既存の駐車場管理システムを拡張することを検討した。拡張する機能仕様とシステム要件の案の一部を表1に,駐車場アプリの仕様案の一部を表2に示す。
項番 | 機能仕様とシステム要件 |
---|---|
1 | 駐車場全体の満車・空車情報に加えて,駐車できる個別のスペース(以下,パーキングスロットという)ごとに利用状況を確認できるセンサを設置して,利用状況を表示する。パーキングスロットに設置するセンサはバッテリ給電とする。 |
2 | センサで温度・湿度・気圧などの環境情報を取得して,顧客が閲覧できるようにする。環境情報は,気象データの外販などの新規事業での活用を考慮して,最大5分蓄積する。このシステムで受信可能なパーキングスロットごとの環境情報データのサイズは,1回当たり最大2,000バイトとする。 |
3 | センサからのデータの蓄積や駐車場アプリへのデータ提供のために,クラウドサービスを利用する。 |
4 | 全国47都道府県の主要な駅周辺の駐車場で,最大20万台分のパーキングスロットの情報が扱えるシステムとする。 |
5 | 最大1,000の駐車場アプリからの同時アクセスを可能とする。 |
項番 | 仕様の概要 |
---|---|
1 | 駐車場ごと,パーキングスロットごとの利用状況を表示する。 |
2 | 駐車場を指定して,問合せ時刻における駐車場全体の利用状況を表示する。 |
3 | パーキングスロットの環境情報を付加情報として表示する。 |
Lさんは,表1及び表2の案を実現するために,パーキングスロットに設置する,センサを内蔵した通信端末(以下,端末Pという)の仕様を検討した。端末Pの仕様の一部を表3に示す。
項目 | 仕様の概要 |
---|---|
収集する情報とデータサイズ | 一つのパーキングスロットの利用状況情報及び環境情報 1回当たりに通信するデータサイズは,HTTPの場合2,000バイト |
データ送信方式(候補) | HTTP,HTTPS(HTTP Over TLS),MQTT(Message Queuing Telemetry Transport),MQTTS(TLSで暗号化したMQTT) |
無線通信方式(候補) | BLE,LPWA,LTE,Wi-Fi |
保存可能なデータ量 | 2Gバイト |
電源方式 | バッテリ給電 |
注記2:データサイズには,通信プロトコルなどの制御情報を含む。
【無線通信方式の検討】
Lさんは,表3に示す無線通信方式の候補から,表1の項番4の仕様を実現するために適切な方式を検討した。検討の過程を次に示す。
LTEは,携帯電話やスマートフォン向けのモバイル通信サービスで利用されている方式であり,全国47都道府県で利用可能である。
LPWAは,通信速度はaが,bの通信方式として,IoT向けに低価格のサービスが普及している。LTEを活用したLPWA(以下,LTE-M方式という)を利用すれば,LTEと同様に全国47都道府県で利用可能である。
Wi-Fi及びBLEは,PCやスマートフォンの通信に利用されることが多い通信方式である。BLEもbという特徴がある。しかし,いずれも,端末Pからクラウドサービスにデータを送信するためには,別の無線通信や有線回線などと組み合わせる必要がある。
検討の結果,端末Pの通信方式にはLTE-M方式のLPWA通信サービス(以下,LPWA通信サービスという)を採用することにした。
【LPWA通信サービスの選択】
端末Pで利用可能なLPWA通信サービスでは,月間に使用できる最大データ通信量に応じて異なる料金プランが用意されていた。候補となったLPWA通信サービスの料金プランを表4に示す。
料金プランの名称 | 月間の最大データ通信量 | 通信料金(月額) |
---|---|---|
プランA | 100kバイト | 150円 |
プランB | 500kバイト | 200円 |
プランC | 2,000kバイト | 300円 |
注記2:消費電力量はいずれのサービスも同程度である。
注記3:各料金プランとも,最大通信速度は上り下りともに1,000kビット/秒である。
表2の各仕様を満足させるために,端末Pからクラウドサービスにデータを送信する頻度は,パーキングスロットの利用状況が変わることとし,1分以内に送信することを基本とした。ただし,利用状況が長時間変わらない場合も環境情報の更新のために定期的に送信する。なお,1台の端末P当たりの送信回数は,1日30回を上限とした。また,使用するデータ送信方式は,表3の候補からHTTPを用いることにした。この仕様を満たした上で,HTTP通信での通信料金が最も安くなる①LPWA通信サービスの料金プランを選択した。
【クラウドサービスへのデータ蓄積とサービス提供】
表2の各仕様を実現するために,全てのパーキングスロットに端末Pを設置して,〔LPWA通信サービスの選択〕で検討した頻度でクラウドサービスにデータを送信し,蓄積することにした。
一方,駐車場アプリからクラウドサービスへのアクセスでは,利用者のスマートフォン1台当たりに必要な帯域は64kビット/秒と想定した。
結果として,クラウドサービスで使用する②通信帯域は,端末Pからのデータ収集と駐車場アプリ利用者のスマートフォンからのアクセスが同時に発生することを想定して,確保することにした。
また,クラウドサービスの③保存領域は,5年後に計画されている拡大した駐車場の台数でも,環境情報が最大5年間保管できるように,確保することにした。
【データ送信方式の検討】
LPWA通信でエラーが発生した期間に,送信すべきデータが欠損することを避けるために,端末Pに送信すべきデータを蓄積し,現在のデータを送信する際に,過去に送信できなかったデータを選別して,同時に送信することにした。送信エラーが続き,送信データ量の累積がcを超えないように,新しいデータから順に選んで送信することにした。
また,〔LPWA通信サービスの選択〕で検討時に想定したHTTPでは端末Pからクラウドサービスに送信するデータが暗号化されないことから,データ送信方式には,表3に示した候補から,④暗号化通信時に最も通信量の少ない方式を採用することにした。
Lさんは,検討した実現方式を上司に説明し,承認された。