2021年 春期 応用情報技術者試験 問10

SaaSを使った営業支援サービス

A社は、オフィス機器の販売・設計・施工会社であり、自社で企画・設計したオフィス機器の販売や設計・施工をA社の顧客に実施している。A社営業部の営業部員は一日の大半を得意先との面会や移動に費やした後に、事務処理のために帰社する必要があって残業時間が増加していた。そこで、A社では、働き方改革の一環として、営業部員が営業拠点のPCだけではなく、自宅や外出先からスマートフォンやタブレットなどの端末からも仕事ができる環境を整えることになった。

このような背景から、A社システム部は、営業部員に対して自宅や外出先からも利用できる営業支援サービスを新規に提供することになった。これに合わせて、システム部のB部長は、システム部内にサービスデスクを設置することを決定し、サービスデスクのリーダとしてC課長を任命した。

営業支援サービスの概要

(1) 4月1日から営業支援サービスを開始する。

(2) 営業支援サービスは①D社が提供しているSaaSであるEサービスを採用し、一部の機能をアドオン開発して、提供する。

(3) 営業支援サービスは、顧客管理、営業管理及び販売促進の三つのモジュールで構成され、利用者は端末を使って営業支援サービスを利用する。

・顧客管理モジュール及び営業管理モジュールは、Eサービスで提供される機能及び画面をそのまま使用する。

・販売促進モジュールは、Eサービスで提供される標準の機能及び画面に、A社固有の機能及び画面をアドオン開発する。システム部の開発課はD社が公開しているAPIを利用してアドオン開発し、開発したソフトウェアを保守する。

(4) D社からA社向けに、開発・テスト環境及び稼働環境が提供される。

・開発・テスト環境は、開発課がアドオン開発及びテストで利用する環境である。D社によって、Eサービスの標準の機能及び画面のモジュールが展開される。

・稼働環境は、A社の利用者に営業支援サービスを提供する環境であり、開発課によって三つのモジュールが展開される。

(5) EサービスはD社によって、定期的にアップグレードされる。Eサービスのアップグレード及び営業支援サービスへの適用に関する概要は次のとおりである。

・Eサービスのアップグレードは、四半期に一回、事前に決められたスケジュールに従って実施される。

・アップグレード予定日の4週間前に、D社からアップグレードされる機能及び画面や変更点を記載したリリースノートが発行される。

・Eサービスで提供される標準の機能及び画面については、D社によってリグレッションテストが実施される。テスト完了後に、Eサービスの標準の機能及び画面のモジュールが開発・テスト環境に対して展開される。

・開発課は、アップグレードの適用に関して、サービスデスクと協議し、社内調整と必要な作業を行った後、稼働環境に営業支援サービスの三つのモジュールを展開する。

(6) Eサービス及びD社サービスデスクサービスに関するA社システム部とD社とのSLAの概要(抜粋)を表1に示す。

表1 A社システム部とD社とのSLAの概要(抜粋)
サービス名称サービスレベル項目目標値
Eサービスサービス提供時間24時間365日(毎週日曜日0:00~5:00に実施する定期保守1)を除く)
サービス稼働率99.5%以上(1か月の停止時間の合計がa分以内を目標値とする。)
平均サービス回復時間(MTRS)2時間以内
D社サービスデスクサービス2)サービス提供時間帯9:00~17:00(休日、祝日を除く)
注1) 定期保守の中で、四半期に一回のアップグレードが実施される。
注2) D社サービスデスクでは、Eサービスの問合せとインシデント対応、及び公開しているAPIに関する技術的問題を解決する。A社のアドオン開発分の問合せへの対応は含まない。

A社サービスデスクサービスの概要

(1) 4月1日からA社サービスデスクサービスの運用を開始する。

(2) A社サービスデスクサービスは、営業支援サービスの利用者を支援するサービスデスク機能を提供する。サービスデスクの業務は、従来複数の組織で実施していた営業部員支援の業務を統合し、bとしてシステム部に置いた。

(3) A社サービスデスクは利用者からの電話、Web、電子メールでの質問に回答するだけでなく、営業支援サービスのインシデント対応も行う。

C課長は、サービスの設計を開始し、営業部とシステム部とのSLAの概要(抜粋)を表2に、サービスデスクで実施するインシデント管理の手順を表3にまとめた。

表2 営業部とシステム部とのSLAの概要(抜粋)
サービス名称サービスレベル項目目標値
営業支援サービスサービス提供時間24時間365日(毎週日曜日0:00~12:00に実施する定期保守1)を除く)
A社サービスデスクサービスサービス提供時間帯9:00~17:00(休日、祝日を除く)
注1) 定期保守の中で、四半期に一回のアップグレード、及び、A社のアドオン開発分の保守が実施される。
表3 インシデント管理の手順
手順内容
記録・分類・利用者からインシデントを受け付ける。
・インシデントを、緊急度、影響を受ける利用者の範囲などで分類し、インシデント管理ファイル1)に記録する。
優先度付け・インシデントに優先度として「高」、「中」、「低」のいずれかを付ける。優先度は、規定されている基準に基づいて付ける。
エスカレーション・サービスデスクが対応手順書2)に従って解決できないインシデントは、②開発課又はD社サービスデスクのどちらかをエスカレーション先として決定し、エスカレーション先に調査を依頼する。
解決・対応手順書2)又はエスカレーション先からの調査の回答を基に、解決に向けた対処を行う。
・利用者が対処すべき作業がある場合は、利用者に作業を依頼する。
終了・インシデントが解決したことを利用者に確認する。
・回答内容などの記録を更新し、終了する。
注記 インシデントの記録は、対応した処置とともに随時更新する。
注1) インシデント管理ファイルにはインシデントだけでなく質問とその回答内容も記録される。
注2) 対応手順書は、インシデントに対応するために実施する解決処理の詳細が記載されている手順書のことで、サービスデスクが作成し整備する。対応手順書には、インシデントが及ぼすサービスへの影響を低減又は除去する方法を特定した場合の対応手順も記載されている。

サービスの開始

システム部は予定どおり、4月1日から、営業支援サービスとA社サービスデスクサービスの提供を開始した。

・7月になって、A社サービスデスクでは、インシデント管理ファイルの記録を基に、高い頻度で発生した質問及びインシデントの中で、利用者が自分で解決できる内容をまとめたcを社内Webに公開した。

cを公開後しばらくして、利用者から、「必要な回答を探すのに時間が掛かる」、「対話的な質問ができないので活用しにくい」という声が上げられ、この結果、cの利用率が低いという課題が明らかになった。

C課長は、利用者からの声に対処するために、10月1日からチャットボットを利用することにした。チャットボットは、新たにD社が提供を開始するEサービスのモジュールであり、A社は必要なデータを整備することでチャットボットを利用できる。システム部は、チャットボットを営業支援サービスの四つ目のモジュールとして位置づけた。利用者が質問のキーワードを入力すると、想定される質問とその回答を返す。利用者が期待する回答が得られない場合には、キーワードを追加させるなど対話的な対応をする。チャットボットによって、利用者は、d以外でも質問に回答してもらうことができる。なお、チャットボットを使っても期待する回答が得られない質問に対しては、サービスデスクが電子メールで対応する。

Eサービスのアップグレード対応

C課長は、Eサービスがアップグレードされる場合に必要となるシステム部の作業を計画した。

・開発課は、アップグレードされる機能及び画面について記載されたeの中から、A社の業務に関連した機能及び画面を抽出し、影響するモジュールを特定する。

・開発課は、アップグレードがアドオン開発した機能に影響を及ぼさないかどうかを調査し、評価する。

・サービスデスクは、eに基づいて開発課と協議し、fを判断する。判断の結果に応じて、サービスデスクは、必要な作業を行う。

・サービスデスクは、営業支援サービスについて利用者に案内すべき内容をまとめ、アップグレードの適用に先立って利用者に通知する。

出典:令和3年度 春期 応用情報技術者試験 午後 問10