応用情報技術者試験 過去問 2021年(令和3年) 春期 午後 問2

情報システム戦略の策定

C 社は、中堅の機械部品メーカである。自動車メーカなど顧客の工場に製品を出荷している。顧客の工場は国内だけでなく、世界の各地域に設置されている。

C 社は、これまで情報システムはコストと考えていて、情報システム投資に消極的であった。その結果、業務効率が上がらず、また必要なデータがすぐに把握できずに経営陣の意思決定に遅れが生じていた。このような中、経済産業省の DX レポートを確認した C 社の経営陣は危機感をもち、情報システム投資の必要性を強く感じて、外部から CIO (Chief Information Officer) を採用した。CIO は、次期経営戦略に基づいて積極的な次期情報システム戦略を策定する方針を掲げ、これを立案する組織横断型のチームを立ち上げて、情報システム部の D 課長をリーダに任命した。

C社の次期経営戦略

C 社の次期経営戦略は、競合他社に対する競争優位性を保つため、次を目的として策定された。

  • コンプライアンスを最優先し、ステークホルダから選ばれる企業になる。
  • 技術力を生かし、顧客及び社会のニーズに合う製品を積極的に市場に投入し、シェアを拡大して売上を伸ばす。
  • 業務効率を向上させ、利益率を改善する。
  • 経営陣が必要な情報をタイムリーに把握し、迅速な意思決定を行えるようにする。

C社の経営環境

C 社の経営環境は次のとおりである。

  • これまでは市場の伸びに支えられ、売上も利益も伸びていた。しかし、最近の市場の伸びの鈍化に伴い、既存製品の売上と利益の伸びが鈍化している。
  • C 社が取り扱う製品の開発には高い技術力が要求される。C 社は、将来に向けた研究に力を入れており、研究開発部を設け、競合他社にはない優れたアイディアを出したり、技術を開発したりしている。しかし、それがどのように製品に結び付けられるか研究開発部では具体的な活用の方法がイメージできないことがある。営業員と顧客のやり取りにヒントとなる情報があるが、研究開発部には情報が届いていない。
  • 競合他社はアジア地域に工場を設置しているケースが多いのに対し、C 社は国内外を問わず顧客の工場の近くに自社の工場を設置している。
  • C 社は、各工場で独自の製造ノウハウを多数もっており、各工場の業務プロセスや各工場に設置されている情報システムにこれらを反映させ、競争優位性を保っている。
  • これまでは、顧客からの引合いに対応することで製品を受注できたので、販売・マーケティングにはあまり力を入れてこなかった。しかし、新たな製品を市場に投入する際には、その特長を顧客に理解してもらう必要があり、現状では不十分である。
  • 複数の営業員で、同じ顧客の本社、事業所及び工場を分担して担当している。営業員が顧客から得た情報や顧客への対応内容が、同じ顧客を担当する他の営業員と十分に共有できていないので、非効率な営業となっていることがある。
  • C 社の製品採用後の顧客に対するサービスは、顧客を訪問して行っている。顧客訪問時の担当者による丁寧な対応が好評であり、C 社のサービスは競合他社に比べて優れているという、顧客からの好意的な意見が多い。
  • 研究開発部が利用している技術開発支援システムを除く、C 社の本社や各工場で利用している情報システム(以下、C 社基幹システムという)は、個別に開発・運用・保守をしているので、データが統合されていない。C 社基幹システムの構造は複雑化しており、情報システム部ではこの運用・保守に掛かる労力が増加している。
  • 競合他社に打ち勝つために、情報システム部では、AI などの最新のディジタル技術の早期習得が必要となってきているが、既存情報システムの運用・保守の業務に追われ手が回っていない。

バリューチェーン

D 課長は、バリューチェーン分析を行うこととし、まず、C 社で行っている a を作る活動について、調査・分析した。その結果、C 社の諸活動は図 1 の一般的なバリューチェーンで表されることを確認した。

また、バリューチェーンの諸活動のコストも分析した。

なお、作られた絵 a と、a を作る活動の総コストの差が、b となる。

バリューチェーン
図1 バリューチェーン

C社の強みと弱み

次に、D 課長はバリューチェーンの諸活動について、C 社の経営環境から強みと弱みを分析した。

C社の強みを抽出して、表1に示す。

表1 C社の強み(抽粋)
項番 強み 活動
1 競合他社にはない優れたアイディアの創出や技術の開発をしている。 技術開発
2 独自の製造ノウハウによって競争優位性を保っている。 製造
3 c 出荷物流
4 顧客訪問時の担当者による丁寧な対応が好評である。 サービス

一方、弱みとしては、新たな製品の市場投入の際には特に重要な d の活動が挙げられた。

次期情報システム戦略と計画

D 課長は、これまでの分析結果を基に、C 社基幹システムを刷新する次期情報システム戦略を策定し、計画を次のとおり立案した。

  • SaaS の ERP を導入し、カスタマイズは最小限にして極力標準機能を使用することによって、情報システム部では e を削減し、現在できていない f を行う。
  • 経営陣が迅速な意思決定ができるように、データウェアハウスを導入し、様々なソースデータを、g ツールを使ってデータウェアハウスに書き込み、統合する。
  • 同じ顧客を担当する営業員が、情報を共有し効率的な営業を行えるように、SFA を導入する。

SFA で利用が想定される主な機能を表2に示す。

表2 SFAで利用が想定される主な機能
項番 SFAの機能名称 機能概要
1 顧客企業管理 顧客企業の情報を収集し、管理する。
2 顧客担当者管理 名刺の内容をディジタル化し、顧客担当者の情報として管理する。
3 顧客対応管理 製品に対する顧客の意見などを営業員が顧客から得た情報や、顧客への対応内容を記録し、情報共有を可能とする。
4 商談管理 営業員が商談の提案内容や進捗状況を入力する。営業マネージャによる商談の状況把握と部下へのコーチングを可能とする。
5 案件管理 顧客からの引合いを受注につなげるために、顧客名、担当営業員、提案製品、受注見込額などの営業案件の情報を管理する。
6 予算実績管理 営業員別、顧客別、製品別、期間別などで売上の予算と実績を把握し、進捗を管理する。
7 行動管理 顧客訪問件数、提案製品数、受注率などを定量的に把握して、営業員の行動を管理する。

D 課長が、これらの次期情報システム戦略、計画及び SFA で利用が想定される主な機能を CIO に説明したところ、次の指摘を受けた。

  • C 社の経営環境やバリューチェーン分析の結果を考慮すると、①ある活動については、C 社基幹システムの機能を ERP の標準機能に置き換えてよいかを慎重に検討すべきである。
  • 表2中の、②ある機能は、C 社の経営環境における営業員以外の課題の解決にも役立てることができるので、活用を検討すべきである。

D 課長は CIO の指摘を踏まえて、次期情報システム戦略と計画を修正した。

出典:令和3年度 春期 応用情報技術者試験 午後 問2