2020年 秋期 応用情報技術者試験 問4
ヘルスケア機器とクラウドとの連携のためのシステム方式設計
C社は、ヘルスケア機器の製造販売を手掛ける中堅企業である。このたび、従来の製品である、歩数や心拍数などを測定する活動量計を改良して、クラウドを利用した新しいサービス(以下、新サービスという)を開発することになった。
従来の活動量計の概要
従来の活動量計の概要を次に示す。
・リストバンド型で生活防水に対応する。 ・24時間装着して、歩数や心拍数、睡眠時間を記録する。 ・横10文字、縦2文字のモノクロ液晶画面に、現在時刻や測定中のデータ、記録されたデータを表示できる。 ・四つのボタンを備えており、表示切替えや数値入力など簡単な操作ができる。 ・測定データ記録用のメモリ容量は64Mバイトあり、使用中のメモリが一杯になったときには、データの古いものから順に新しいデータに上書きされる。
新サービスの概要
従来の活動量計を基に、通信機能などを追加した新しい活動量計を開発する。測定データや手元で入力したデータをクラウド上に保存し、分析するWebサービスを開発する。そして、Webサービスの分析結果を手元の活動量計で確認できるようにすることで、次の機能を提供する。
・1日24時間の総消費カロリーを推測する機能 歩数や心拍数などの測定データを長期間保存して、消費カロリーと基礎代謝を推測し、利用者の日々の総消費カロリーをグラフで示す。
・歩行やジョギングなど運動についてアドバイスする機能 事前登録した身長や体重、目標体重などの情報から、利用者に適切な運動種目と時間を提案する。
・献立など食生活についてアドバイスする機能 飲食した内容を文字や写真で記録することで、利用者に栄養バランスの良い献立を提案する。
非機能要件の整理
新サービスでは、利用者の日常生活に密着してデータを24時間収集し続ける必要がある。個人のヘルスケアデータという機微な情報を取り扱うので、情報の漏えいや盗聴を防ぐ対策も重要である。新サービスの非機能要件を表1に整理した。
大項目 | 小項目 | メトリクス(指標) |
---|---|---|
可用性 | 継続性 | 1日24時間の総消費カロリーを推測するために、1日23時間30分以上の活動量計の測定データが必要である。 クラウドは十分な稼働率が保証されたサービスを選択する。 |
耐障害性 | 活動量計本体が故障した場合は交換対応を行う。 活動量計からクラウドまでのネットワークが切断されている間も測定データは消失しない。 | |
性能 | 業務処理量 | 活動量計から1回の測定で100バイト、毎分100回の測定データが生成される。 クラウド上の保存期間は3年間、利用者数は最大10万人を見込む。 |
性能目標値 | クラウド上のWebサービスの応答時間は5秒以内、順守率95%とする。 測定データをクラウドへ保存する処理は、業務処理量とaの品質を考慮して、再実行を2回行う余裕をもたせる。 | |
セキュリティ | アクセス制限 | 活動量計での利用者の認証には、暗証番号を用いる。 クラウド上のWebサービスでの利用者の認証には、IDとパスワードによるログインに加えて、①ショートメッセージサービスや電子メールからの確認コードによる認証も用いる。 |
データの秘匿 | 伝送データ及び保存データは全て暗号化する。 なお、暗号化されたデータのサイズは元のデータと同じとする。 | |
Web対策 | Webサービスをリリースする前にソースコード診断を実施する。さらに、定期的な脆弱性検査を実施する。 |
システムアーキテクチャの検討
まず、クラウド上のシステム構成について考える。Webサーバとアプリケーションサーバは、新サービスの利用者数に応じてスケールアウトできる構成にする。データベースは、②新サービスのデータ特性からKVS(Key Value Store)を採用する。
次に、新サービスを実現するためのシステム方式について考える。三つの検討案を表2に示す。
検討案 | システム方式 | 説明 |
---|---|---|
1 | クラウド直接 | 活動量計にモバイル通信サービスを利用するためのモジュールやカメラなどを組み込み、インターネットに直接続してデータ連携を行う。リストバンド型の形状やサイズを維持するために、データ入力や画面表示方法を工夫する必要がある。 |
2 | モバイル端末経由 | 活動量計に近距離無線通信モジュールを組み込んで、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末を経由してクラウドとのデータ連携を行う。カメラはモバイル端末に内蔵されているものを利用する。伝送データ及び保存データの暗号化や画面描画など、ほとんどの処理をモバイル端末上のアプリケーションソフトウェア(以下、アプリという)が担う。 |
3 | 専用端末経由 | 検討案2で用いられるモバイル端末の代わりに、モバイル通信サービスを利用するためのモジュールや近距離無線通信モジュール、カメラ、タッチスクリーンなどを組み込んだ、手のひら大の専用端末を開発して、それを利用する。伝送データ及び保存データの暗号化や画面描画などの処理の一部は、専用端末内のハードウェアが処理する。 |
表2の各システム方式について、その実現可能性と新サービスの利便性を評価するために、五つの評価軸を設けて整理した結果を表3に示す。
検討案 | システム方式 | 利便性 | コスト | 柔軟性 | 拡張性 | 安定性 | 評価点 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | クラウド直接 | ○ | △ | × | × | △ | 4点 |
2 | モバイル端末経由 | △ | ○ | ○ | ○ | × | 7点 |
3 | 専用端末経由 | △ | × | △ | △ | ○ | 5点 |
クラウド直接方式の場合、③活動量計の柔軟性と拡張性に課題がある。
モバイル端末経由方式は最も評価点が高いが、他のアプリの影響による通信のタイムアウトやバッテリー切れが原因でアプリの処理が中断されてしまうことがあるので、安定性に課題がある。この課題が解決できれば、本方式を採用できる。
専用端末経由方式の場合、安定性は優れているが、モバイル端末に匹敵する柔軟性や拡張性を備えた端末を独自に開発することは難しく、コストが高くなってしまう課題がある。
モバイル端末経由のシステム方式設計
三つのシステム方式の中で、評価点の高いモバイル端末経由方式を採用するために、安定性に関する対策を検討する。
モバイル端末において、通信のタイムアウトやバッテリー切れによってアプリの処理が中断されてしまった場合でも、測定データが消失せずに保存できるように、次の機能をアプリとして実装する。
・活動量計内に保存されている測定データを、モバイル端末内のストレージに保存する機能
・モバイル端末内に保存されている測定データを、インターネット接続時にクラウド上のストレージに保存する機能
活動量計とモバイル端末が通信できない最大許容日数を7日間としてシミュレーションしたところ、④ある問題が判明した。そのため、⑤活動量計に一部変更を加えることで、その問題を回避した。