2020年 秋期 応用情報技術者試験 問10
サービスの予算業務及び会計業務
D社は、中堅の人材教育会社である。主な事業は次の三つである。
(1) 集合教育事業:大学受験や資格取得のための教室で受講する講座(以下、教室講座という)の企画、教材開発及び運営
(2) 通信教育事業:大学受験や資格取得のための自宅などからインターネットで受講する講座(以下、インターネット講座という)の企画、教材開発及び運営
(3) 書籍出版事業:参考書籍の企画、制作、出版及び販売
これらの事業に対して、それぞれ担当する事業部がある。また、D社のシステム部は、それぞれの事業部を顧客としてITサービスを提供し、事業活動を支援している。
システム部が提供するITサービスは、表1のとおりである。
顧客 | ITサービス名称 | ITサービスの内容 |
---|---|---|
集合教育事業部 | 教室講座管理 | 教室講座のカリキュラム管理、受講者の登録・受講管理、講座内容の録画情報管理1)など |
通信教育事業部 | インターネット講座管理 | インターネット講座の提供管理、受講者の登録・受講管理、講座内容のコンテンツ管理など |
書籍出版事業部 | 書籍販売管理 | 書籍の在庫管理、販売管理、書籍購入者の管理など |
D社の利用者は、高校生から社会人までと幅広いが、少子化や同業他社との競争激化で、利用者数は年々減少傾向にある。特に学生層の利用者数の減少が顕著である。
その中で通信教育事業のインターネット講座だけは、その利便性から受講者数が増加しているが、講座テキストを加工した音声のない静止画による講座(以下、静止画講座という)の提供にとどまっていた。近年の無線通信の高速化の進展を受けて、受講者からは動画による講座(以下、動画講座という)への要望が高まっている。
動画講座の検討を開始した通信教育事業部のE課長は、システム部のF課長に動画講座システムの実現方法の検討を依頼し、システム部のG主任が担当になった。
【直接費の割当てと間接費の配賦】
D社では、システム部をコストセンタと位置付けている。また、D社の管理会計では直接費と間接費を次のように定義している。システム部の費用のうち、特定の事業部のITサービスで専用に使用されているシステム機器の費用、特定の事業部の指示で実施する作業の費用は、直接費として当該事業部に割り当てる。複数の事業部のITサービスで共用するシステム機器の費用、システム部管理職の人件費など、直接費以外の費用は、総額を各事業部の売上額で按分して、各事業部に間接費として配賦する。一部の事業部では、この配賦方式はITサービスの利用実態に沿っていないと、不公平感が高まっていた。
また、システム部は、ITサービスの提供のために管理する必要のある要素(以下、CIという)をaで管理している。aには、"CIの属性"、"CI間の関係"、"CIがどのサービスに使用されているか"などが登録されている。システム部では、CIが特定の事業部のITサービスで専用に使用されているか、aを使って判定し、直接費を算出している。例えば、教室講座の内容の録画に必要な機器及び管理ソフトウェアは、教室講座管理サービスだけで使用されているCIと判定できるので、録画に必要な機器や保存に関わる教室講座の録画費用の全額を、集合教育事業部に直接費として割り当てている。
【動画講座システムの実現】
G主任は、通信教育事業部とともに、動画講座システムの実現に向けた調査を行った。
・動画講座の提供によって、受講者数が1年間で1.5倍程度に増えることが見込まれる。
・集合教育事業部の録画情報を有効活用して、現行の静止画講座のコンテンツと組み合わせることで、動画講座のコンテンツが作成できる。
D社では、このようなサービスの変更の実施に先立って、変更要求を変更管理プロセスに提出する。変更管理プロセスでは変更審査会を開催し、変更要求の実施可否を意思決定する。意思決定では、事業利益、技術的実現性、財務的な影響などを考慮する。そこで、G主任は、動画講座システムの総所有費用(TCO)の見積りを作成するために、総所有費用の見積項目(抜粋)を表2にまとめた。
区分 | 費目 | 見積項目 |
---|---|---|
初期費用 | ハードウェア費 | サーバ、ストレージ、通信機器などの購入費用 |
ソフトウェア費 | OS、データベースソフトウェアなどの購入費用 | |
開発人件費及び外部委託費 | 動画講座のコンテンツ作成、アプリケーションソフトウェア(以下、アプリソフトという)開発などの費用 | |
運用費用 | 設備費 | 機械室、付帯設備などの使用料 |
回線費 | 通信回線の使用料 | |
運用人件費 | システム運用、アプリソフト保守に関わる人件費のうちの直接費 |
G主任は、システム運用作業及びアプリソフト保守作業についてシステム部内で調査した。その結果、それぞれ作業工数は発生するが、システム運用作業は機械室の現有オペレータの体制で運用可能であること、アプリソフト保守作業はインターネット講座管理サービスの現有保守担当者の体制で保守可能であることが分かり、どちらも増員の必要はない、と判断できた。G主任は、それぞれの作業で増員が発生しないので、表2の運用人件費を0円として見積りを作成した。見積結果を上司のF課長に報告すると、①運用人件費の算出の考え方を見直すように指示された。そこで、G主任は、F課長の指示に従って正しく運用人件費の見積りを再作成した。
その後、動画講座システムを追加するインターネット講座管理サービスの変更要求に関する変更審査会が開催された。大規模な変更になるので、D社経営会議のメンバが承認者となった。変更審査会では、業界の動向調査の内容及び動画講座のメリットが説明された。また、動画講座のコンテンツ作成は、集合教育事業部の録画情報を有効活用することで、費用を抑えることが可能であると説明された。承認者は、技術的実現性に問題がなく、受講者数の拡大によって売上と利益の増加を見込めると判断し、変更要求を承認した。承認された変更要求に基づき、G主任は、動画講座システムの構築作業を開始した。
なお、変更審査会では、"受講者数の増加傾向を毎月捕捉すること。"との指示があった。G主任は、これを受けて方策を検討した。利用者がITサービスを利用する場合、まずシステムにログインして認証確認した後に、講座を受講したり、書籍を購入したりする。このとき、利用者がどのサービスを利用したかという履歴が、アクセスログとして記録されている。そこで、G主任は、アクセスログを使って動画講
【サービスの予算業務及び会計業務の改善検討】
F課長は、動画講座システムが来年度から稼働することに決まったので、予算業務として、今年度中に来年度のインターネット講座管理サービスの費用をまとめることにした。また、動画講座において予算の超過や不採算状況の発生が想定される場合に迅速な対応がとれるように、②KPIを設定して管理していくことにした。KPIは、毎月、会計業務で扱う実績データの収集後に算定し、評価していく。
F課長は、一部の事業部が抱く間接費の配賦方式への不公平感について、改善する必要があると考えた。そこで、各事業部の売上額で按分するのではなく、ITサービスの利用実態に応じて按分する方式に変更する方法として、③アクセスログを使用した間接費の配賦方式を検討することにした。