応用情報技術者試験 過去問 2018年(平成30年) 春期 午後 問8

プログラムの品質評価

Z社では,全国に店舗展開する家電量販店向けに,顧客管理システムを開発している。開発中の顧客管理システムは,運用開始後,家電量販店の業務内容の変化に合わせて,3か月おきを目安に継続的に改修していくことが想定されている。

Z社では,プログラムの品質を定量的に評価するために,メトリクスを計測し,活用している。プログラムを関数の単位で評価する際には,関数の長さとサイクロマティック複雑度をメトリクスとして計測し,評価する。開発プロセスにおいては,プログラムのテストを開始する前にメトリクスを計測し,評価された値が,あらかじめ設定されたしきい値を上回らないことを確認することにしている。

開発中の顧客管理システムについても,開発プロセスのルールに従い,この評価方法によって評価した。

【サイクロマティック複雑度】

サイクロマティック複雑度とは,プログラムの複雑度を示す指標である。プログラムの制御構造を有向グラフで表したとき,グラフ中のノードの数Nとリンク(辺)の数Lを用いて次の式で算出する。

サイクロマティック複雑度C = L - N + 2

プログラムの制御構造を有向グラフで表した例を図1に示す。プログラムの開始位置と終了位置,反復や条件分岐が開始する位置と終了する位置をノードとし,ノード間をつなぐ順次処理の部分をリンクとしてグラフにする。ノードの間に含まれる順次処理のプログラムの行数は考慮せず,一つのリンクとして記述する。また,図1のリンク1やリンク4のように,処理がない場合も一つのリンクとして記述する。

プログラムの制御構造を有向グラフで表した例
図1 プログラムの制御構造を有向グラフで表した例

図1の場合,ノードの数Nは4,リンクの数Lは4となり,Cはaと評価される。

ソフトウェアの内部構造及び内部仕様に基づいたテストをbという。Z社では,bを実施するに当たって,全ての条件分岐の箇所で,個々の判定条件の真及び偽の組合せを満たすことを基準としたテストを実施する方針としている。このような方針をcという。一般に,サイクロマティック複雑度は小さい方が,実行網羅率100%を目指すために必要なテストケース数が少なくなり,テスト工程の作業が容易になる。Z社では,サイクロマティック複雑度のしきい値を10に設定している。

【評価対象のプログラム】

開発中の顧客管理システムにおいて,顧客から問合せを受け付けた際に記録する情報には,タイトル,概要,発生店舗,詳細情報及び顧客の個人情報が含まれており,これらの情報をまとめたものを案件と呼ぶ。案件には,未完了と完了のステータスがある。画面に案件の情報を表示する際には,案件のステータスとシステムの利用者の立場によって,情報の公開範囲と編集可否の権限を制御する必要がある。

図2は,画面上に案件の一覧を表示する際の権限判定を行うプログラムの一部である。システムの利用者の役職や所属する店舗と,それぞれの案件のステータスから,画面上に表示する情報の公開範囲と編集可否について権限を判定する。

図2のプログラムについて,メトリクスの計測を行った。計測結果を表1に示す。

なお,サイクロマティック複雑度の計測のために作成した有向グラフの記載は省略する。

1: function get_permission()
  2:   for( 案件の数だけ繰り返し )
  3:     権限 ← 詳細情報、個人情報を参照不可
  4:     if( 案件のステータスが完了でない )
  5:       if ( 案件の店舗に所属している )
  6:         権限 ← 詳細情報だけを参照可能
  7:         if ( 管理職である )
  8:           if ( 案件の登録者である )
  9:             権限 ← 詳細情報、個人情報を参照・編集可能
  10:          else
  11:            権限 ← 詳細情報だけを参照・編集可能
  12:            if ( 店長である )
  13:              権限 ← 詳細情報、個人情報を参照・編集可能
  14:            endif
  15:          endif
  16:        else
  17:          if ( 案件の登録者である )
  18:            権限 ← 詳細情報、個人情報を参照・編集可能
  19:          endif
  20:        endif
  21:      endif
  22:    else
  23:      if ( 公開フラグが立っている )
  24:        権限 ← 詳細情報だけを参照可能
  25:      endif
  26:    endif
  27:    if ( システム管理者である )
  28:      権限 ← 詳細情報、個人情報の参照・編集が可能
  29:      if ( 案件のステータスが完了である )
  30:        権限 ← 詳細情報、個人情報を参照可能
  31:      endif
  32:    endif
  33:    案件の表示・操作権限 ← 権限
  34:   endfor
  35: endfunction
図2 権限判定を行うプログラム(一部)
表1 計測結果
メトリクス 結果
関数の長さ 33
サイクロマティック複雑度 11
注記:関数の長さには,関数の開始と終了の行は含まない。

表1の計測結果から,図2のプログラムはサイクロマティック複雑度がしきい値を上回っており,テスト実施のコストが大きくなることが予想される。そこで,プログラムの外部的振る舞いを保ったままプログラムの理解や修正が簡単になるように内部構造を改善するdを行うことにした。改善する一つの方法として,図2のプログラム中(A)の範囲を"未完了案件権限判定",(B)の範囲を"管理者権限判定"という名称で関数化することを検討した。改善後のプログラムを図3に,改善後のプログラムの有向グラフを図4に示す。

function get_permission()
    for( 案件の数だけ繰り返し )
      権限 ← 詳細情報、個人情報を参照不可
      if( 案件のステータスが完了でない )
        権限 ← 未完了案件権限判定()
      else
        if ( 公開フラグが立っている )
          権限 ← 詳細情報だけを参照可能
        endif
      endif
      if ( システム管理者である )
        権限 ← 管理者権限判定()
      endif
      案件の表示・操作権限 ← 権限
    endfor
  endfunction
図3 改善後のプログラム
改善後のプログラムの有向グラフ
図4 改善後のプログラムの有向グラフ

図3のプログラムのサイクロマティック複雑度はfであった。また,関数"未完了案件権限判定"については6,"管理者権限判定"については2となった。

その結果,全てのプログラムのサイクロマティック複雑度がしきい値を上回らないことが確認された。

【改善の効果】

簡潔なプログラムにすることによって,プログラムの可読性が高まり,初期開発時の機能実装のミスを減少させることができる。また,プログラムのリリース後に発生する改修や修正の難易度を下げることができる。そうすることによって,ソフトウェアの品質モデルのうち,機能適合性及びgを高めることができる。

Z社で開発している顧客管理システムのような場合,①リリース後の改修や修正の難易度を下げることが,初期開発が容易になることよりも重要であることが多い。

出典:平成30年度 春期 応用情報技術者試験 午後 問8