2018年 春期 応用情報技術者試験 問2

事業戦略の策定

G社は、郊外及び駅前に、加工食品・生鮮食品を主体としたスーパーマーケットチェーンを展開している、中規模の企業である。これまでのターゲット顧客は、郊外の住宅地にある中規模な店舗の場合は、近隣に居住している主婦であり、住宅地と商業地とが混在した地域にある駅前の小規模な店舗の場合は、住宅地の主婦と通勤者である。

G社は、近年、売上高、利益率ともに伸び悩んできたことから、昨年、既存の店舗(以下、実店舗という)の周囲5km圏内に居住する共働き者・単身者をターゲット顧客として取り込もうと、インターネット店舗(以下、ネット店舗という)での販売を開始した。ネット店舗では、実店舗で扱っている商品を対象に、受注は受付センタで行い、梱包と配送の手配は、実店舗で行っている。

今年度、G社の経営企画部では、売上高、利益率を増加するために、実店舗とネット店舗の活性化を柱とする、新たな中期事業戦略を策定することになった。そこで、経営企画部のH部長は、I課長に対して、G社の内部環境と外部環境を整理した上で、中期事業戦略案を作成するよう指示した。

[内部環境と外部環境の整理]

I課長は、内部環境と外部環境を調査し、次のとおり整理した。

(1) 内部環境

(i) 実店舗の状況

  • 営業時間は、8時から19時までである。

  • 価格が安く、価格以外にはこだわりがない顧客向けの食品(以下、低付加価値食品という)の販売が主体であり、店舗の規模を考慮した品ぞろえとなっている。

  • 価格が高くても購入してもらえる、品質にこだわりがある顧客向けの食品(以下、高付加価値食品という)は、少量の販売といえ、顧客には好評である。

  • 丁寧な接客と、商品が見つけやすく明るい雰囲気を特徴とする店舗が、スーパーマーケットチェーンのブランドとして定着してきた。

  • 会員制度を運営しており、実店舗で会員登録した顧客には、実店舗用の顧客IDの入ったポイントカードを発行して、商品購入時に所定のポイントを付与している。

(ii) ネット店舗の状況

  • 販売は、少量にとどまっている。
  • ネット店舗利用のため、インターネットで会員登録した顧客には、ネット店舗用の顧客IDを割り振り、商品購入時に所定のポイントを付与している。

(iii) 購入者及びポイント利用の状況

  • 郊外の実店舗では、近隣に居住する主婦への売上が80%を占めている。
  • 駅前の実店舗では、住宅地の主婦への売上が40%、通勤者への売上が40%を占めている。
  • ネット店舗では、共働き者への売上が60%、単身者への売上が20%を占めている。
  • 実店舗とネット店舗のポイントを相互に利用することはできない。

(iv) 社内の情報システムの状況

  • 顧客情報は、実店舗とネット店舗での共用は行わず、個々の顧客管理システムで、それぞれの顧客IDを用いて管理し、購入額を集計している。

(2) 外部環境

(i) スーパーマーケット市場の状況

  • 実店舗のスーパーマーケットの市場規模は、インターネット通販の台頭などの影響で縮小傾向にある。
  • スーパーマーケット業界では、価格競争が激化している。

(ii) 顧客の購入状況

  • 主婦には、安全性が高い自然食品などの高付加価値食品が人気になっている。
  • 通勤者には、価格の高さにもかかわらず、海外から仕入れたブランド物の酒類などの高付加価値食品の人気が高まっている。
  • 仕事帰りの遅い時間帯に、高付加価値食品が購入される傾向が強く見られる。
  • ブランド物の酒類に合う高級なおつまみ類にこだわる顧客が増えている。
  • "高価格だが、それに見合うおいしさ"などといった友人・知人の口コミから判断して食品を購入し、その感想を自分の友人・知人に知らせることによって、人気となる食品が増えている。

[中期事業戦略の策定]

I課長は、中期事業戦略案を策定するために、クロスSWOT分析による戦略オプションを表1のように策定した。

表1 クロスSWOT分析による戦略オプション
機会(O)脅威(T)
強み
(S)
[積極的な推進戦略]
aの品ぞろえを充実して、売上を増やす。

[差別化戦略]
・商品購入時の心地良い環境を更に整えることによって、bを強化する。
・口コミを拡大して、新規顧客を開拓する。
弱み
(W)
[弱点強化戦略]
・販売機会を拡大する。
・社内の情報システムを改善する。

[専守防御、又は撤退戦略]
・関連商品による範囲の経済性を活用する。
aを充実して価格競争を避ける。

I課長は、戦略オプションに基づいて、中期事業戦略案を次のように作成して、H部長に説明した。

  • 実店舗、ネット店舗の特性に応じて、aの品ぞろえを充実する。
  • 店舗での販売機会を拡大する。
  • 情報システムを改善して、コスト低減とマーケティング強化を図る。
  • 店舗の心地良い環境を更に整えることによって、bを強化する。
  • ソーシャルメディアを活用して、口コミの拡大を進める。

その後、I課長が提案した中期事業戦略案は経営層の承認が得られ、I課長は、中期事業戦略に基づいて、ターゲットとする顧客の見直しとポジショニングの設定を行い、事業施策案の作成を進めた。

[ターゲットとする顧客の見直しとポジショニングの設定]

I課長は、事業施策案の作成に当たり、店舗の地域特性と規模に応じて、ターゲットとする顧客を見直すことにした。郊外の実店舗とネット店舗では、ターゲットとする顧客をこれまでどおりとし、駅前の実店舗は小規模なので、今後注力すべきターゲット顧客を明確にして、ポジショニングを設定することにした。

(1) 注力すべきターゲット顧客の明確化

駅前の実店舗では、高付加価値食品の購入が多い通勤者を、注力すべきターゲットとする。

(2) ポジショニングの設定

I課長は、注力すべきターゲットに基づき、食品の付加価値と食品の価格を二つの軸として駅前の実店舗のポジショニングマップを作成し、H部長に説明した。

H部長からは、このポジショニングマップで顧客のcを表現することはできるが、二つの軸はdので、食品の付加価値と駅前の実店舗の閉店時刻を軸にして、ポジショニングマップを修正するようにアドバイスを受けた。そこで、I課長は、駅前の実店舗のポジショニングマップを図1のとおり作成し、H部長の了解を得た。

食品の付加価値
高い
早い駅前の実店舗の閉店時刻
低い遅い
図1 駅前の実店舗のポジショニングマップ

[事業施策の策定]

ターゲットとする顧客と実店舗のポジショニングが明確となったので、I課長は引き続き、事業施策案を作成した。事業施策案の抜粋は、次のとおりである。

(1) 商品に関する施策

  • 郊外の実店舗では、低付加価値食品の品ぞろえを主体としながら、自然食品を使った手作りの総菜を充実させる。
  • 駅前の実店舗では、①顧客がブランド物の酒類を購入する際に、範囲の経済性の効果をもたらすように、品ぞろえを充実させる。

(2) 各店舗での販売チャネルに関する施策

  • 実店舗では、来店した顧客に食品の新たな調理方法や効能を丁寧に説明する。
  • 駅前の実店舗では、閉店時刻を19時から23時に変更する。
  • ネット店舗では、料理のレシピ集を掲載する。

(3) 情報システムに関する施策

  • 実店舗とネット店舗の両店舗を利用し、会員登録している顧客については、本人の承諾が得られた場合、②両店舗での総購入額に応じたボーナスポイントをプレゼントし、両店舗でのポイントの合算、利用を可能とする。

(4) プロモーション施策

  • 実店舗での購買行動のモデルであるAIDMAに加えて、ネット店舗ではインターネットを活用した新しい購買行動モデルを反映する。具体的には、顧客がソーシャルメディアなどの口コミ情報をeして商品を購入し、使用後の感想などをfすることによって、消費行動の迅速な拡大につなげる。

I課長は、これらの事業施策案についてH部長に説明して、承認を得た後、事業施策の評価基準及びアクションプランを策定することにした。

平成30年度 春期 応用情報技術者試験 午後