2014年 秋期 応用情報技術者試験 問4

ストレージ設計

E社は,新聞社である。E社では,中期経営計画でディジタルメディアの積極的な活用を掲げており,新聞記事のWeb配信サービスの強化を検討している。具体的には,E社が過去に掲載した記事の検索サービスと,最新記事のPCやモバイル端末への配信サービスを,24時間365日提供する予定である。

新しいWeb配信サービスを支える情報システム(以下,新配信システムという)を構築するプロジェクトは,アプリケーションソフトウェア開発チームとシステム基盤チームから成る。プロジェクトリーダは情報システム部のF課長が,システム基盤チームのチームリーダはG君が担当することになった。なお,新配信システムは,ハードウェアの保守期限を考慮し,5年間運用する想定である。

【新配信システムのシステム構成】

利用者は新配信システムにPCやモバイル端末を用いてアクセスする。PCの場合はWebブラウザを利用し,モバイル端末の場合は専用アプリケーションソフトウェアを利用する。なお,専用アプリケーションソフトウェアは,毎時0分0秒にE社データセンタ内のサーバにアクセスし,最新記事をモバイル端末に保存する。

E社データセンタ内には,記事の検索や配信を行うアプリケーションサーバ(以下,APサーバという),記事データ(文字データや画像データ)を格納したストレージ,及び記事の検索用データ(記事タイトル,公開日時,分類情報,記事データのストレージ上のファイルパス)を格納したデータベースサーバ(以下,DBサーバという)を配置し,サービス提供を行う。新配信システムのシステム構成を図1に示す。

PCやモバイル端末からの記事の検索要求があると,APサーバが要求を受け付けて,DBサーバを用いて記事を検索した後,検索条件に合致する記事が存在する場合には,ストレージ内に格納された記事データをPCやモバイル端末へ送信する。

【データ量の調査】

G君は,新配信システム稼働開始時の記事データ量と,稼働開始から想定運用期間満了までの記事データ発生量を調査した。記事データ量調査の結果を図2に示す。

図2 記事データ量調査の結果
稼働開始時の記事データ量
・記事件数         900,000件
・平均データ量       100kバイト/件
稼働開始後の記事データ発生量
・稼働開始年度の件数    20,000件
・2年目以降の増加率    20%/年
・平均データ量       稼働開始時から変化なし

【性能指標とその目標値の定義】

E社の情報システムガイドラインでは,Webシステムは,利用者が画面上のボタンを押してから,結果が全て画面に表示されるまでのaを性能指標とし,目標値を2.0秒と規定している。

しかし,新配信システムの場合は,利用者側のインターネット回線やPC,モバイル端末の性能の影響を受けるので,aを性能指標とすることは困難である。

そこでG君は,APサーバが検索要求を受け付けてから検索結果の最初のデータを送信し始めるまでのbを性能指標とし,目標値を0.5秒とすることにした。

また,単位時間当たりに処理できる件数を示すcについては,現在のE社の配信システムへのアクセス件数を基に,利用者数増加によるアクセス件数増大を考慮した最大アクセス件数を目標値とすることにした。

【ストレージ設計】

G君は,新配信システムの特性からストレージに対する要件を整理し,複数のハードディスク装置を組み合わせたRAID構成を用いたストレージの採用を検討した。

(1) ディスク容量

想定運用期間満了時に②全記事データを格納できるディスク容量が必要である。

(2) 性能要件

③APサーバのデータ読み書き要求に小さい遅延で応答できるアクセス速度が必要である。しかし,利用を想定しているハードディスク装置1台当たりのアクセス速度は遅く,1台だけでは性能目標を達成できない。

(3) 信頼性要件

ハードディスク装置の単体故障によるデータ消失を防止する。また,新配信システムは,24時間365日の運用となるので,ハードディスク装置の単体故障時に利用者へのサービス提供が停止しないようにする。ただし,ハードディスク装置の交換作業中の性能劣化,信頼性低下は許容する。

(4) その他要件

性能要件と信頼性要件を満たしつつ,ディスクを効率的に利用するために,データ量に対して2倍以上のディスク容量を確保する構成は採用しない。

【新配信システムの構築】

G君は,【ストレージ設計】で検討したストレージに加え,サーバやネットワークについても要件を満たすように設計を行い,新配信システムのシステム基盤の構築作業を完了させた。また,稼働開始後の新配信システムが性能要件を満たしていることを確認するために,APサーバのアクセスログを集計し,1時間ごとのbの平均とアクセス件数を随時性能レポートに記録する性能情報採取ツールをAPサーバに設置した。

【稼働開始後の性能問題】

新配信システムの稼働から1年後,新配信システムの利用者は,PC利用者が約20,000人,モバイル端末利用者が約3,000人となった。ある日,モバイル端末利用者から"記事のデータ取得が極端に遅い。モバイル端末のCPU利用率は低く,他のWebサイトからのデータ取得は遅くない。"とのクレームがあった。

G君が性能情報採取ツールによって記録された性能レポートを確認したところ,④特に異常な傾向は見られなかった。しかし,アプリケーションソフトウェア開発チームがAPサーバのアクセスログを調査したところ,全てのモバイル端末の専用アプリケーションソフトウェアが毎時0分0秒にAPサーバに集中してアクセスしており,毎時0分0秒のデータ取得が極端に遅くなっていることが分かった。

アプリケーションソフトウェア開発チームは,専用アプリケーションソフトウェアを修正して性能問題を解決した。

平成26年度 秋期 応用情報技術者試験 午後問題