2013年 秋期 応用情報技術者試験 問10
情報システムのサービスレベルの設定
X社は、事務用品を製造販売する中堅企業である。Y君は、情報システム部に所属し、社内システムの運用に携わっている。X社では、支店・営業所から本社への商品の受注連絡をファックスで行っているが、業務効率向上のために、新たに受注管理システムを開発している。本番稼働の前に、本社・支店・営業所の一部利用者が参加しての2か月間の試行運用を行うことになっており、現在、受入れテストを実施中である。
【受注管理システムの機能と運用】
受注管理システムは、X社の本社・支店・営業所の営業担当者が利用する。図1は、サーバ上で稼働する受注管理システムの機能概要である。
・受注登録などの更新処理と、受注検索などの検索処理を行う。
・受注データに対して、夜間のバッチ処理で生産管理システムとのデータ連携を実行する。これによって、受注データが生産管理システムで処理されて、納期回答や出荷実績情報が受注データに反映される。
・利用者や生産管理システムによる受注データ更新件数の把握や、利用者からの受注データについての問合せ対応のために、更新履歴を取得する。更新履歴には、利用者による受注登録、受注変更、受注取消、及び生産管理システムとのデータ連携の履歴が含まれる。受注データへのアクセスについて、これ以外の履歴は取得しない。
受注管理システムの稼働時間は、X社の営業日の営業時間に合わせて8:00~18:00とする。システムの保守のために、月次定期保守日を毎月計画する。また、営業時間外の緊急の受注や、営業時間内のシステム障害に備えて、現行と同様なファックスによる受注連絡に切り替えての運用も可能とする。
【受注管理システムの性能】
図2の受注管理システム構成概要に示すように、受注管理システムのサーバは本社ビル内に設置され、インターネットを介して支店・営業所のPCと接続する。受注管理システムの本社ビル内でのオンライン応答時間は1秒以内であることが要件であり、ピーク日でのオンラインアクセス件数を想定し、本番サーバを用いた受入れテストで性能を検証済みである。
インターネットを介したデータ通信を含む場合のオンライン応答時間は、社外ネットワークの状況によって影響を受ける。インターネットを介した支店・営業所と本社ビルとの通信は1~2秒を想定しているが、受入れテストにおいては、これが2秒を超え、オンライン応答時間が3秒を超えてしまう事例が確認されている。
営業部門からは、支店・営業所におけるオンライン応答時間の目標値を3秒以内にすることが要求されている。インターネットを介したデータ通信の性能改善について は、情報システム部が改善に向けた対策に取り組んでいくことで、営業部門と合意している。
【SLA案の作成】
Y君は、営業部門と共に、受注管理システムのSLAの内容について検討を行ってきた。Y君が、本番稼働を前に、受注管理システムのSLA案を作成することになった。
X社では、社内システムに対しても情報システム部と利用部門との間でSLAを締結している。SLAの構成は表1に示すように規定されている。
構成要素 | 設定内容概略 |
---|---|
対象範囲と前提条件 | サービス対象となる業務内容の範囲と前提条件 |
役割と責任 | 利用者と提供者(情報システム部)の役割と責任の分担表 |
サービスレベル項目 | サービスレベル評価項目と目標保証内容又は努力目標 |
業務システム | システムのa、信頼性、bに関する項目 |
サポート | 利用者からの問合せへの対応に関する項目 |
データ管理 | データバックアップやデータ保障に関する項目 |
セキュリティ | セキュリティ確保に関する項目 |
運営ルール | 通常時、問題発生時の報告・連絡ルールなどの運営方法 |
X社では、情報システムのサービスレベルには、目標保証型と努力目標型の2種類がある。目標保証型では、情報システム部は取り決めたサービスレベルを保証する義務がある。一方、努力目標型では、取り決めたサービスレベルは努力目標にとどまり、サービスレベルの達成、維持に向けて継続的な改善努力を行うことで、情報システム部と利用部門とが合意する。
Y君は、受注管理システムのSLA案の作成に当たり、業務システムに関する主要なサービスレベルの設定を表2のようにまとめた。
分類 | サービスレベル項目 | 評価項目 | サービスレベルの種類 |
---|---|---|---|
サービスレベルの種類 | |||
a | c | d(X社営業日とする。また、計画停止時間を除く。) | 目標保証型 |
計画停止 | 月次定期保守日(8:00~21:00) | 目標保証型 | |
サービス稼働率 | 99.9% | 目標保証型 | |
e | f | 目標保証型 | |
信頼性 | 平均復旧時間 | 12時間 | 目標保証型 |
受注データへの利用者からの最大アクセス件数 | 36,000件/日(受注登録、受注変更、受注取消、受注検索の合計) | 目標保証型 | |
b | 本社ビル内でのオンライン応答時間 | 1秒 | 目標保証型 |
支店・営業所からのオンライン応答時間 | 3秒 | 目標保証型 |
支店・営業所からのオンライン応答時間の評価項目については、要求事項に従って、3秒に設定した。受注データへの利用者からの最大アクセス件数は、本社・支店・営業所の営業担当からのピーク日での全オンラインアクセス件数の要件に基づいて設定した。Y君は、作成したSLA案を上長や有識者にレビューしてもらった。主な指摘内容は次のとおりである。
・"受注データへの利用者からの最大アクセス件数"に対する達成度を測るには、受注管理システムの機能が不足している。
・一部のサービスレベルの設定には問題があり、見直しが必要である。