応用情報技術者試験 過去問 2009年(平成21年) 春期 午後 問1
マーケティング戦略の立案
B社の概要
B社は資本金3,000万円、年商約21億円の食品スーパーで、大都市周辺のベッドタウンC市内に3店舗を展開している。店舗は、C市内にある私鉄の三つの駅の近辺に広がる住宅地に1店ずつ配置されている。B社は経営環境の変化に伴う経営見直しのために、新たなマーケティング戦略を立案することにした。
各店舗とも、全来店客に占める、近隣の住宅地に住むシルバー世代の割合が高いので、シルバー世代向けに総菜の充実、日用雑貨の販売などによるワンストップショッピングを実現している。そのほかには商品の品揃えに特徴を設けてはいない。
B社は生鮮野菜や鮮魚について独自の仕入れルートをもっており、一般的な食材以外に競合他店では仕入れが困難な高級食材や珍しい食材の入手も可能である。しかし、低価格での販売を店舗コンセプトにしているので、現在はそのような食材の仕入れ・販売はしていない。また、一部の店舗で実施していた対面販売も、売場が対面販売向けに作られていなかったので使い勝手が悪く、現在では行っていない。
店舗面積は各店とも300m²程度で品揃えの拡大には限界がある。駐車場も30台分程度と狭い。
外部環境
B社は外部環境の調査を専門企業に依頼して、次の事実を把握した。
- 商圏内の人口分布では60歳以上が27%を占めており、高齢化が進んでいた。しかし、最近私鉄の路線が更に延長され、大幅な増便で便利になったことから、大型マンションや家族寮の建設が相次ぎ、車離れの傾向が見られる若い世帯や30~40代のDINKs(子供をもたない共働き世帯)の流入が顕著になってきた。
- 30~40代のDINKsのうち35%の人は、自分で調理して食事を楽しみたいと考えているが、そのうちの55%は調理方法に詳しくない。
- シルバー世代は自分で調理する人は少ないが、食事にこだわりをもつ傾向は強い。
競合環境
- B社の店舗がある住宅地の近辺には、総合スーパーが2店ある。いずれも店舗面積は2,000m²以上で、大型駐車場を併設している。品揃えは幅広く、特定の分野には特化していない。2店とも低価格での販売を競っており、店舗運営コストを抑えるために、対面販売は一切行っていない。幅広い年齢層をターゲットにしているが、最近はシルバー世代をねらった品揃えを充実させている。
- コンビニエンスストアは年々店舗数が増え、現在B社の商圏内に8店点在している。いずれも売れ筋の食料品や日用品に特化した品揃えで、弁当や総菜も充実させている。
マーケティング戦略の立案プロセス
このような競合環境から、B社では近隣住民の年齢構成の変化を踏まえて、シルバー世代の固定客を維持しつつ、新たな顧客層の開拓を目指したマーケティング戦略を立案することにし、次の1~3の手順に従って進めた。
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市場の細分化
外部環境の調査結果などから、B社の商圏内の顧客を同質のニーズや類似した購買傾向をもつグループに細分化して分析した結果、まず次の四つのグループ(以下、Ⅰ~Ⅳで表す)をターゲット市場の候補として選定した。
- 店舗の徒歩圏(半径1km以内)に住む世帯
- 可処分所得に余裕がある30~40代のDINKs
- 車をもっていない世帯
- 自分で調理して食事を楽しみたいと考えている世帯
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ターゲット市場の選定
市場の細分化によって選定した四つの候補の中から、B社の企業体力を考慮して、最も有望な1グループに絞り込んで新たなターゲット市場を選定することにした。候補を絞り込むために、次の五つの観点から各グループの有効性を分析し、評価した。
aは適正で成長性があるか
Ⅰ 国勢調査の結果から、aは適正であると判断された。 Ⅱ 外部環境の調査結果から、aは適正であると判断された。 Ⅲ 外部環境の調査では分析・評価ができなかった。 Ⅳ 外部環境の調査結果から、aは十分ではないと判断された。 市場の収益性は高いか
Ⅰ 現在以上の高い収益性は見込めない。 Ⅱ 購入平均単価が高く、高い収益性が期待できる。 Ⅲ 現在以上の高い収益性は見込めない。 Ⅳ このグループにとって、高級食材はbが低いので、高い収益性が期待できる。 cの高さはあるか
Ⅰ 購入商品の配送サービスを安価で提供できれば可能だが、採算性に問題がある。 Ⅱ 特に期待できない。 Ⅲ 購入商品の配送サービスを安価で提供できれば可能だが、採算性に問題がある。 Ⅳ 珍しい食材の品揃えや対面販売の再開によって高くすることが可能である。 他店との競合状況は厳しいか
Ⅰ 同程度と見られる。 Ⅱ 同程度と見られる。 Ⅲ 同程度と見られる。 Ⅳ このような世帯に特化している競合店はないので厳しくはない。 現在の主要顧客とのdは期待できるか
Ⅰ 現在の主要顧客との重複が大きいので、dはある程度期待できる。 Ⅱ 特に期待できない。 Ⅲ 現在の主要顧客との重複が大きいので、dはある程度期待できる。 Ⅳ 豊かな食事へのこだわりが強い点で共通性があり、dは若干期待できる。 以上の結果、ターゲット市場をⅣに絞り込むことにしたが、aが十分ではなく、かつ、シルバー世代の固定客への配慮が不十分だと判断した。シルバー世代の固定客を維持することも考慮して、"自分で調理して食事を楽しみたい世帯"と"手間をかけずに食事を充実させたい世帯"を併せてターゲット市場に選定した。
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店舗コンセプトの策定
選定したターゲット市場にふさわしい店舗コンセプトとして、"豊かな食の提供"を掲げることにした。この店舗コンセプトに合致する店づくりを、B社の企業体力から、価格ではなく品揃えとサービスの両面から実現する。具体的には、調理の楽しみと豊かな食の実現に必要な食材や総菜をアピールした品揃えに特化することによって、ア店舗コンセプトを強調する。また、他店では仕入れが困難な生鮮野菜や鮮魚の品揃えと調理の提供、対面販売の再開によって競合他店では模倣しにくい優位性を実現する。
以上の検討結果に基づいて、新たなマーケティング戦略の具体的な施策を進めることにした。