2024年 春期 応用情報技術者試験 問2
物流業の事業計画
B社は、運送業務及び倉庫保管業務を受託する中規模の物流事業者である。従業員数は約100名で、関東甲信越エリアを中心に事業を行っており、高速道路や幹線道路へのアクセスの良い立地に複数の営業所と倉庫を構えている。主に、地場のメーカーと販売店との間の配送などを中心に事業を行ってきたが、同業他社との競争が激しく、ここ数年は収益が悪化傾向にあり、このままでは経営は厳しくなる一方である。B社のC取締役は、この状況の打開に向けて、顧客への新たな価値の提供を目指すべく、経営企画部のD部長に事業計画の立案を指示した。
【B社の環境分析】
D部長は、自社の事業の置かれている状況を把握するために、環境分析を実施する必要があると考えた。環境分析には、自社を取り巻く経営環境のうち、自社以外の要因をマクロ的視点とミクロ的視点で分析する外部環境分析と、自社の経営資源に関する要因を分析し、自社の特徴を洗い出す内部環境分析がある。D部長は、経営企画部のE課長に、外部環境分析から実施するよう指示した。E課長は、まず、PEST分析を行い、PEST分析の結果としてB社の事業に影響する要因の概要を表1のように整理した。
項番 | 要因 | 要因の概要 |
---|---|---|
1 | 政治的要因 |
・a改正による総労働時間に関する規制の設定 ・運送・倉庫保管業は、以前は需給調整規制によって新規参入が困難であったが、近年、事業経営能力や安全確保能力のある事業者の参入が可能となり、参入障壁が低下 ・今後は、外国人労働者をドライバーとして採用できるように規制が緩和される見通し |
2 | 経済的要因 |
・燃料費上昇によるコストの上昇 ・トラックによる運送の供給量に比べ、顧客からの運送に対する需要量の方が大きいことから、運送料が上昇することを顧客は一定の範囲で許容 |
3 | 社会的要因 |
・高齢化が進み退職するドライバーが増える一方で少子化の影響で若年層のドライバーのなり手は減少することから、より良い処遇を提供しなければドライバーの確保が困難 ・EC市場の拡大に起因する運送需要の増加は今後も継続 |
4 | 技術的要因 |
・自動運転に必要な技術の急速な発展 ・SNSを活用した多様な購買方法の登場 |
次に、E課長は、ファイブフォース分析を進めることにした。ファイブフォース分析の結果、B社が受ける脅威の概要を表2のように整理した。
項番 | 脅威 | 脅威の概要 |
---|---|---|
1 | 業界内の競争の脅威 | 運送・倉庫保管だけの物流サービスではコモディティ化して、過当競争となりがちであり、b競争が常に発生していることから脅威は大きい。 |
2 | 新規参入の脅威 | 以前と比べ参入障壁が低くなり、新規参入の脅威は大きい。 |
3 | cサービスの脅威 | ・航空輸送や海上輸送といった手段があるが、現状では車両による陸送に代わるものではなく脅威は小さい。 ・車両の自動運転による配送やドローン配送の実証実験が行われているが、実用化はまだ先であり、現状の脅威は小さい。 |
4 | 売手の交渉力の脅威 | d。 |
5 | 買手の交渉力の脅威 | 顧客の要望は多様化しており、対応できないと市場から排除される脅威は大きい。 |
E課長は、①PEST分析、ファイブフォース分析の順に分析し、その結果について検討した。PEST分析の結果から、aが改正されたことによって、ドライバーを含む労働力の総量が減少することが懸念され、また、社会的要因によってドライバーのなり手が減ることを認識した。このことはファイブフォース分析の結果における売手の交渉力の脅威にも大きな影響を及ぼすことに気が付き、ドライバーの需要に対して供給が減ることから、dと考えた。
E課長は、これらの外部環境分析の結果を踏まえると、b競争の途中にあり、減収減益となっている現状において、②B社が業界内において競争優位を確立するための分析が必要であると考えた。E課長は、その分析を実施した結果、B社は、好立地にある営業所と倉庫をもっているにもかかわらず、そのことを生かして、多様化する顧客の要望に応えられていないことが収益悪化の原因であると結論付けた。
E課長は、必要な分析を終えてその結果をD部長に報告した。
【顧客情報の定性的分析】
E課長は、D部長から、運送・倉庫保管だけの物流サービスから、③マーケットイン志向の物流サービスに転換していくことによって、顧客に新たな価値を提供できるのではないかとアドバイスを受けた。E課長は、これまでの自社の顧客情報の分析は、受注履歴、契約金額などの数値を基に分析を行うことだけであり、数値だけでは捉えきれない顧客の要望を把握する分析を行っていなかったことに気が付いた。
E課長は、顧客との接点が多いドライバーは、運送業務の過程で、顧客の事業に関して様々な気付きを得ているのではないかと考えた。そこで、ドライバーのもつ顧客の事業に関する気付きを把握するために調査を実施した。ドライバーからの回答には、顧客の事業に関する未知の情報、B社に対する期待やクレーム、顧客に対する感想、相対する顧客社員への好悪の感情といった顧客の事業に関する情報とそれ以外の種々雑多な情報が混在していた。しかし、これまでは顧客情報として管理されていなかった様々な情報が含まれており、分析することで、顧客の要望を把握することができるのではないかと考えた。
ドライバーからの回答は、自由記述形式のテキストデータであり、テキストマイニングによる定性的分析を行うことができる。D部長は、テキストマイニングによる分析を行うに当たり、④テキストデータを選別するよう、E課長にアドバイスをした。
E課長は、選別したテキストデータの分析結果、顧客の事業に関するキーワードとして、"コア業務"、"一括委託"といった単語が頻出しており、"コア業務"は"集中"との単語間の結び付きの強さがあり、複数の単語が同一文章中に共に出現することを意味する共起関係が強く表れていた。E課長は、定性的分析の結果をD部長に報告し、顧客への新たな価値の提供に向けた検討の7案を得た。
【顧客への新たな価値の提供】
B社が顧客の業務を確認したところ、B社倉庫から顧客の拠点に荷物が届いた後に、顧客はその荷物の検品やタグ付け、複数の荷物を一つに箱詰めすることといった作業を顧客社内で行うか、又はB社とは異なる事業者へ委託しており、顧客にとって負担となっていた。B社では、昨年、業務効率の向上を図るために営業所と倉庫内のレイアウト変更を実施し、新たな業務を行うことが可能なスペースを確保している。そこで、E課長は、運送、倉庫保管といった従来の業務に加え、検品やタグ付け、箱詰めといった作業を行う流通加工業務を一括で受託して顧客に新たな価値を提供する3PL(3rd Party Logistics)サービスが有効ではないかと考え、D部長に提案した。D部長は、3PLサービスを提供することで、B社の既存顧客の要望を満たすとともに、新たな顧客の獲得につながる可能性もあると考え、E課長の提案に賛同した。さらに、D部長は、顧客が作業を委託している流通加工業者の一つであるR社において、流通加工業務の需要拡大に伴い施設の拡張を検討しているという話を聞いていた。そこで、B社の営業所と倉庫を作業所として、B社の運送・倉庫保管業務とR社の流通加工業務とを組み合わせてサービスする業務提携をR社と行うことで、B社の3PLサービスの提供が可能になるのではないかと考えた。D部長は、E課長に、R社との業務提携の可能性があるかを調査するよう指示した。
E課長は、顧客からR社の紹介を受けて、業務提携の協議を行った。R社との協議を行う中でE課長はR社の状況を次のように把握した。
・R社は流通加工業務の需要拡大に伴い、社員や作業所を増やし事業を拡大してきたが、作業所の多くは手狭になってきており、別の作業所を探さなくてはならない。
・流通加工業務は、荷物の受入れと発送をスムーズに行えることが重要であり、これが作業所の選定上の最優先事項である。
・希望する場所に作業所を自前でもつことは、作業所の土地の取得費や倉庫の建築費といった初期費用の負担が大きいので、回避したいと考えている。
E課長は、B社の事業の概要を説明した上で、業務提携が可能であるか検討してほしいとR社に依頼した。後日、R社から、⑤B社のもつ経営資源は、R社の事業を展開する上で魅力的なものであることから、是非とも業務提携を行いたいとの連絡があった。
E課長は、R社との業務提携による3PLサービスの事業化案についてD部長に報告した。D部長は、⑥E課長の事業化案を実現することで、B社の顧客の物流に関わる作業に対する要望を満たすことができる、さらに、B社とR社で業務提携することで顧客を紹介し合って、相互に新たな顧客の開拓につなげられると判断した。D部長は、収益向上によってドライバーの処遇を改善することも含めてC取締役の承諾を得て、E課長に事業化案に基づき事業計画をまとめるよう指示した。