2024年 春期 応用情報技術者試験 問10
テレワーク環境下のサービスマネジメント
E社は、東京に本社があり、全国に3か所の営業所をもつ、従業員約200名の保険代理店である。E社には、保険商品の販売や顧客サポートを行う営業部、入出金処理や広告処理を行う経理部、情報システムの開発や運用を行う情報システム部などの部署がある。営業部の従業員(以下、営業員という)は、営業先に出向いて業務を行うことが多く、その際の顧客サポートの質の向上が課題となっている。
E社の従業員には、ノートPCが一人1台貸与され、一部の営業員には、ノートPCとは別にタブレット端末が貸与されている。ノートPCやタブレット端末(以下、これらを社内デバイスという)では、本社内に設置しているサーバのアプリケーションソフトウェア(以下、業務アプリという)と、電子メール送受信やスケジュール管理を行うことができるグループウェア(以下、業務アプリとグループウェアを合わせて社内IT環境という)の利用が可能である。社内デバイスは、社外から社内IT環境へのネットワーク接続は行えない。
E社の情報システム部には、開発課と運用課がある。開発課は、各部署が利用する社内IT環境の企画・開発を行う。運用課は、管理者のF課長、運用業務の取りまとめを行うG主任及び数名の運用担当者で構成され、サーバなどのIT機器の管理だけでなく、次のITサービスを提供している。
・社内IT環境の運用
・従業員からの問合せやインシデントの対応を受け付けるサービスデスク
【社内IT環境とサービスマネジメントの概要】
現在の社内IT環境とサービスマネジメントの概要を次に示す。
・営業員は、社内IT環境から営業活動に必要なデータを、社内でタブレット端末にダウンロードし、営業先ではタブレット端末をスタンドアロンで使用している。
・社内デバイスのOSを対象に、セキュリティ修正プログラムを含むOSバージョンのアップデート(以下、OSパッチという)を実施している。
・OSパッチを適用するには、社内デバイスのシステム設定で自動適用と手動適用のいずれか一方を設定する必要がある。現在は手動適用に設定している。
・OSパッチを適用すると、社内デバイスで業務アプリを正常に利用できなくなるおそれがある。そこで、OSパッチの展開管理に責任をもつ運用課は、OSパッチが公開されると、まず、開発課にOSパッチを適用した社内デバイスでテストを行い、業務アプリを正常に利用できることを確認するよう依頼する。業務アプリを正常に利用できることを確認後、運用課から、従業員に社内デバイスを操作してOSパッチを手動適用するよう依頼する。
・従業員からの問合せやインシデントに対応するために、従業員が使っている社内デバイスの操作が必要な場合がある。サービスデスクは、従業員が社内デバイスを利用している場所が本社のときは対面でサポートを行い、営業所のときは電話でサポートを行っている。ただし、サービスデスクでは、電話でのサポートは時間が掛かるという問題を抱えている。
・サービスデスクだけでインシデントをタイムリーに解決できない場合、開発課へのaを行うことがある。
【テレワーク環境の構築の計画】
営業部の課題を解決するため、全ての営業員にタブレット端末を貸与し、社外からインターネットを介して社内IT環境に接続可能なテレワーク環境を、開発課が構築し、運用課が運用することになった。なお、テレワーク環境は、当初はタブレット端末だけの利用とするが、社会情勢の変化を受けて在宅勤務などで、ノートPCにも今後利用を拡大する予定である。
テレワーク環境では、サービスデスクは、社外でタブレット端末を使う営業員からの問合せやインシデントに、営業所の場合と同様に、電話によるサポートで対応する。
【テレワーク環境の運用の準備】
F課長は、テレワーク環境の利用開始直後は、営業員から問合せが多発することやインシデントの発生が想定された。F課長は、テレワーク環境の利用開始から安定稼働になるまでの間は、開発課による初期サポートが必要と判断し、開発課に依頼して初期サポート窓口を開発課に設けることを計画した。ただし、開発課による初期サポートの実施中は、問合せ先及びインシデントの連絡先を営業員自身が判断し、テレワーク環境について初期サポート窓口に、その他については従来どおりサービスデスクに対応を依頼することとなる。F課長は、利用開始後のテレワーク環境に関する問合せとインシデントの対応がbことを、テレワーク環境の安定稼働の条件と考えた。また、初期サポート窓口の設置は、テレワーク環境の利用開始から4週間を目安とし、テレワーク環境に関する問合せとインシデントの対応がbことを初期サポートの終了基準とし、終了基準を満たすまで、初期サポート窓口を継続する。
サービスデスクは未来、機能的にSPOC(Single Point Of Contact)とするのが望ましい。そこで、F課長は、①SPOCを実現する時期の判断のために、テレワーク環境の問合せ対応に関して、初期サポートが終了するまでに開発課からcことも初期サポートの終了基準として設けるべきであると考えた。F課長は、これらの計画について営業部と開発課に説明して了承を得た。
次に、F課長は、タブレット端末をもつ営業員が増え、また社外での利用機会が拡大すること、及び今後ノートPCを利用した在宅勤務が予定されていることから、社内デバイスの利用状況の管理を効果的に行う必要があると考えた。そこで、現状の人手による管理に代えて、社内デバイスの利用状況を統合的に管理することができるツール(以下、統合管理ツールという)を導入することにした。F課長は、G主任に統合管理ツールの調査を指示し、G主任は、統合管理ツールの機能と概要を表1にまとめた。
項番 | 機能 | 概要 |
---|---|---|
1 | 台帳管理 | 社内デバイスのハードウェア情報、OS及び導入しているミドルウェアのバージョン情報を自動取得し、管理することができる。 |
2 | 操作ログ管理 | 社内デバイスへのログイン及びログアウト状況など社内デバイスの利用状況を把握することができる。 |
3 | リモート操作 | 統合管理ツールから社内デバイスをリモートで操作したり、ロックして使用できないようにしたりすることができる。 |
4 | パッチ適用 | 配信用サーバを構築することで、社内デバイスのOSに対して、OSパッチを自動的に展開することができる。 |
G主任は、調査結果をF課長に説明した。F課長は、現在実施しているOSパッチの手動適用では、従業員がOSパッチの適用のタイミングをコントロールできてしまうことから、OSパッチの適用に不確実さがあることを問題視していた。F課長は、パッチ適用機能を使うことで、展開管理としてOSパッチを確実に適用できると考えた。F課長は、パッチ適用機能の実現には、テスト済みのOSパッチを配信用サーバに登録する手順の追加が必要となることをG主任に指摘し、検討するよう指示した。そこで、F課長は、テレワーク環境の利用開始時点では、統合管理ツールのパッチ適用以外の機能を使用し、②現在、サービスデスクで行っているサポートの問題を解決することにした。
【パッチ適用機能の使用】
テレワーク環境の構築が完了し、営業員によるテレワーク環境の利用が開始された。初期サポート窓口での対応は、終了基準を満たして、計画どおり4週間で終了した。テレワーク環境はおおむね好評で、営業員のタブレット端末の利用頻度が上がり、タブレット端末による営業活動への効果が向上していた。一方で、以前から、営業部では、運用課からの指示がないにもかかわらずOSパッチを手動適用したり、指示したにもかかわらず手動適用を忘れたりして、社内デバイスで業務アプリを正常に利用できないというインシデントが発生しており、現在も営業活動に影響が出ていた。
この状況を受けて、F課長は、"今後のインシデント発生を防止するという問題管理の視点からも有効であるだけでなく、展開管理の視点からも有効である"と考えて、早期に③パッチ適用機能の使用を開始することにし、G主任にその後の検討状況の報告を求めた。G主任は、展開管理の手順の検討結果を報告し、F課長は了承した。また、G主任は、パッチ適用機能を実現するためには、現在、手動適用の運用をしている社内デバイスの設定を変更する準備作業が必要となることを報告した。報告を受けたF課長は、準備が整い次第、パッチ適用機能を使用することを決定した。