2024年 秋期 応用情報技術者試験 問10

サービスデスクの立ち上げに関する次の記述を読んで,設問に答えよ。

B 社は,中堅の電子機器販売会社で,全国に営業拠点がある。B 社の営業部は,営業拠点に営業員を配置し,商品を販売している。販売数は順調に増加しているので,今後,営業員の増員を予定している。B 社のシステム部サービス課は,営業支援システム(以下,本システムという)の設計,開発及び運用を行っており,本システムを営業支援サービス(以下,本サービスという)として利用者である営業員に提供している。また,サービス課は,サービスマネジメント活動を行っており,それぞれの活動に管理プロセスを定めている。サービス課に所属する C 君は D 課長の下でサービスマネージャを務めており,管理プロセスのマネジメントを行っている。サービスマネジメントの主な管理プロセスを表1に示す。

表1 サービスマネジメントの主な管理プロセス
項番管理プロセス概要
1サービス要求管理・利用者からのサービス要求(問合せ1)や標準変更2))の記録と実現
2インシデント管理・インシデントの解決策と管理
3問題管理・問題の特定と解決
・インシデントの発生又は再発を防止する処置の定義
4変更管理・通常変更3)についての変更要求の受付と管理
・変更の実施
注 1) 本サービスの機能や利用方法についての質問のこと。
注 2) パスワードリセット,利用者の機器の移動など,手順が定型化されている,あらかじめ承認された変更のこと。
注 3) 標準変更以外の変更のこと。

サービス要求管理については,利用者からのサービス要求を,サービス課の担当者が電話又は電子メールで受け付けている。受け付けた担当者はサービス要求を実現し,サービス要求の内容,実現した内容及び対応時間を問合せ記録簿に記録している。

サービス課では,本システムの初期リリース後も,順次,機能追加のリリースを行っている。各機能のリリース時には,利用者向けに説明会を開催し,開発の担当者が説明者となって機能の概要や利用方法の説明を行い,リリース後の問合せ先として,説明会の説明者が案内されている。

[サービス要求管理の現状と課題]

サービス要求のうち,問合せは,担当者が本サービスの操作マニュアル及び機能の詳細を記述した本システムの仕様書を参照して回答し,標準変更は,担当者が定型業務手順書を参照して実施している。なお,問合せの回答では,経験豊富な担当者は,操作マニュアル及び本システムの仕様書だけでなく暗黙知を使って問合せに短時間で回答する場合も多い。このことから,利用者からの問合せに対して最初の連絡で回答した割合(以下,一次解決率という)に,担当者間で差が出ている。また,問合せを受けてから回答まで要する時間を短縮するために,一次解決率の向上が課題となっている。今後,営業員の増員に伴いサービス課の業務量の増加が予想されているので,担当者の負荷が増大するおそれがあり,長時間残業の防止も課題となることが推測される。

そこで,サービス課は,一次解決率の向上のため,サービス課の経験豊富な担当者に指示して,問合せ記録簿に記録されている内容を基に,問合せ内容,対応手順及び回答内容を整理した問合せ対応ノウハウ集を作成することにした。併せて,営業員の増員による長時間残業を防止するために,来年度からサービス課内に新たな組織としてサービスデスクを立ち上げ,そのサービスデスクでサービス要求を受け付けて実現することにした。C 君がサービスデスクのサービスマネージャに任命され,立ち上げも行うよう指示された。サービスデスク要員は,サービスデスクの業務経験が豊富な要員を新規採用し,C 君の配下でサービスデスク業務を担当させることにした。

[サービスデスク立ち上げの検討]

D 課長は,サービスデスクについて,"サービス課の業務量の増加に対応するために,業務を極力サービスデスクに移管する"とともに"一次解決率をできるだけ高くして,顧客満足を向上させる"との方針を挙げた。

C 君は,D 課長の方針を受け,サービス要求のうち,問合せについては,サービスデスク要員が問合せ対応ノウハウ集を活用して,利用者からの問合せに対してaできるようにすることで,一次解決率を向上させようと考えた。なお,サービス要求のうち,標準変更については,サービス課で現在利用している定型業務手順書を参照して,サービスデスク要員がサービス要求を実現できることを確認した。

これらを踏まえて,C 君は,表2に示すサービスデスク立ち上げステップを定めた。

表2 サービスデスク立ち上げステップ
項番ステップ実施内容
1サービス要求管理のプロセスの作成サービス課とサービスデスクが連携して,サービスデスクで行うサービス要求管理のプロセスとルールを作成する。
2サービスレベル目標の決定サービス課と営業部とのSLA合意に先立って,サービス課と営業部でサービスレベル目標を決定する。
3要員体制決定サービスデスクの要員体制を決定する。
4ドキュメントの整備サービス課の経験豊富な担当者が,サービスデスク立ち上げ時点で必要なサービスデスク用ドキュメントを整備する。
5スキルトランスファーサービス課の担当者からサービスデスク要員に対して,bを行う。
6予行演習サービスデスクが事前検証のために,利用者を想定した予行演習を行う。
7サービス開始サービスデスクがサービスデスク業務を開始する。

[サービスデスクで行うサービス要求管理のプロセスの作成]

C 君は,表3に示すサービスデスクで行うサービス要求管理のプロセスを検討した。

表3 サービスデスクで行うサービス要求管理のプロセス
項番手順実施内容
1受付・利用者からのサービス要求を受け付け,内容を問合せ記録簿に記録する。
・サービス要求の内容を確認し,分類と優先順位付けを行う。
・サービスデスクで実現可能なサービス要求は項番3を実施する。
・サービスデスクで実現不可能なサービス要求は項番4を実施する。
2分類と優先順位付け・問合せについては,操作マニュアル,cを参照して回答する。標準変更については,定型業務手順書に従って実施する。
・サービス要求が実現できた場合は,項番5を実施する。実現できなかった場合は,項番4を実施する。
3サービス要求の実現・C君に対応をエスカレーションする。C君が割り当てたサービス課の担当者が対応を行った後,サービス課の担当者から対応結果の回答を受け,対応内容を確認する。
4エスカレーションの実施・利用者にサービス要求が実現できたことを確認する。
・実現できている場合は,項番6を行う。実現できていない場合は,項番2から再度実行する。
5サービス要求実現の確認・必要に応じて,問合せ対応ノウハウ集の項目追加又は更新を行う。
・問合せ記録簿の記録を更新し,終了する。
6終了

C 君は,表3を D 課長にレビューしてもらい,質問と指示を受けた。そのときの D 課長と C 君の会話を次に示す。

D 課長:項番3で標準変更については,現状の定型業務手順書を使うことになっているが,サービスデスク要員で対応可能ですか。

C 君:定型業務手順書は,よく整備されており,対応可能です。

D 課長:①サービス課の担当者が行っている業務に定型化できるものがないかを調査してください。

C 君:調査して報告します。

その後,C 君は指示された調査を実施して,D 課長に報告して了承された。

[サービスレベル目標の決定]

サービス課と営業部との SLA 合意に先立って,サービス課内部で会議を開催した。

会議の中で,SLA には,サービスデスクの稼働時間,コミュニケーション手段,サービス要求の実現に要する平均時間のほか,サービス要求件数の上限の取決めが必要であることを確認した。今後,内容を整理して営業部と協議することになった。

また,会議の中で D 課長から,"営業部と合意するサービス要求の実現に要する平均時間に関して,内部指標を設定して管理する。内部指標として問合せについては,②現状のサービス要求管理における課題の解消状況が分かる KPI を設定して管理を行い,顧客満足を上げていく。"との説明があった。

[要員体制決定]

C 君は,来年度のサービスデスクの要員体制を決定するために,サービスデスク要員の工数を算出することにした。そこで,問合せ記録簿からサービス要求管理に要した対応時間を調査した。現状の平均サービス要求件数と平均対応時間を表4に示す。

表4 現状の平均サービス要求件数と平均対応時間
項番サービス要求の内容平均サービス要求件数(件/日)平均対応時間(分/件)
1問合せ(機能についての質問)2410
2問合せ(利用方法についての質問)1520
3標準変更(定型業務手順書の実施依頼)820

C君は,表4に加え次の条件を前提として,③1日当たりに必要な工数を算出した。

ここで,1人の要員は,1日に8時間の対応時間が確保できるものとする。

・要員は一つのサービス要求に対応している間,その対応に専念する。

・来年度のサービス要求件数は,営業員の増員によって表4に示す平均サービス要求件数がいずれも現状より2割増加する見込みである。

・サービス要求の集中度合いを考慮して,算出された工数に2割の余裕を確保する。

なお,サービスデスクの要員数については,工数に加えて,勤務体制,稼働率,エスカレーションの割合,採用する要員の技能などを考慮して決定することにした。

出典:令和6年度 秋期 応用情報技術者試験 午後 問10