2023年 秋期 応用情報技術者試験 問9
新たな金融サービスを提供するシステム開発プロジェクト
新たな金融サービスを提供するシステム開発プロジェクトに関する次の記述を読んで、設問に答えよ。
A社は、様々な金融商品を扱う金融サービス業である。これまで、全国の支店網を通じて顧客を獲得・維持してきたが、ここ数年、顧客接点のデジタル化を進めた競合他社に顧客が流出している。そこで、A社は顧客流出を防ぐため、店頭での対面接客に加えて、認知・検索・行動・共有などの顧客接点をデジタル化し、顧客関係性を強化する新たな金融サービスを提供するために、新システムを開発するプロジェクト(以下、本プロジェクトという)の立ち上げを決定した。本プロジェクトはA社の取締役会で承認され、マーケティング部と情報システム部を統括するB役員がプロジェクト責任者となり、プロジェクトマネージャ(PM)にはマーケティング部のC課長が任命された。C課長は、本プロジェクトの立ち上げに着手した。
【プロジェクトの立ち上げ】
C課長は、プロジェクト憲章を次のとおりまとめた。
・プロジェクトの目的:顧客接点をデジタル化することで、顧客関係性を強化する新たな金融サービスを提供する。
・マイルストーン:本プロジェクト立ち上げ後6か月以内に、ファーストリリースする。ファーストリリース後の顧客との関係性強化の状況を評価して、その後のプロジェクトの計画を検討する。
・スコープ:機械学習技術を採用し、スマートフォンを用いて顧客の好みやニーズに合わせた新たな金融サービスを提供する。マーケティング部のステークホルダは新たな金融サービスについて多様な意見をもち、プロジェクト実行中はその影響を受けるのでリスクの変更を想定する。
・プロジェクトフェーズ:過去に経験が少ない新たな金融サービスの提供に、経験のない新たな技術である機械学習技術を採用するので、システム開発に先立ち、新たなサービスの提供と新たな技術の採用の両面で実現性を検証するPoCのフェーズを設ける。PoCフェーズの評価基準には、顧客関係性の強化の達成状況など、定量的な評価が可能な重要成功要因の指標を用いる。
・プロジェクトチーム:表1のメンバーでプロジェクトを立ち上げ、適宜メンバーを追加する。
要員 | 所属 | スキルと経験 |
---|---|---|
C課長 (PM) | マーケティング部 | CRM導入プロジェクトの全体統括をした経験、アジャイル型開発プロジェクトに参加した経験がある。 |
D主任 | マーケティング部 | 1年前に競合企業から転職してきたマーケティング業務の専門家。CRMや会員向けECサイトのシステム開発プロジェクトに参加した経験がある。A社の業務にはまだ精通していない。 |
E主任 | 情報システム部 | フルスタックエンジニア、データマートの構築、Javaのプログラミング、インターネット上のシステム開発などの経験が豊富。機械学習技術の経験はない。 |
F氏 | 情報システム部 | データエンジニア、データ分析、Pythonのプログラミング経験はあるが、機械学習技術の経験はない。 |
B役員は、プロジェクト憲章を承認し、次の点によく留意して、プロジェクト計画を作成するようにC課長に指示した。
・顧客接点のデジタル化への機械学習の適用を、自社だけで技術習得して実施するか、他社に技術支援を業務として委託するか、今後のことも考えて決定すること。
・ベンダーに技術支援を業務委託する場合は、マーケティング部と情報システム部の従業員が、自分たちで使いこなせるレベルまで機械学習技術を習得する支援をしてもらうこと。また、新たな金融サービスの提供において、顧客の様々な年代層が容易に利用できるシステムの開発を支援できるベンダーを選定すること。なお、PoCでは、技術面の検証業務を実施し、成果として検証結果をまとめたレポートを作成してもらうこと。
・同業者から、自社だけで機械学習技術を習得しようとしたが、習得に2年掛かったという話も聞いたので、進め方には留意すること。
C課長は、B役員の指示を受けてメンバーと検討した結果、本プロジェクトはPoCを実施する点と、リリースまでに6か月しかない点、a点を考慮し、アジャイル型開発アプローチを採用することにした。
C課長は、顧客接点のデジタル化への機械学習の適用を、自社だけで実施するか、他社に技術支援を業務委託するかを検討した。その結果、自社にリソースがない点と、b点を考慮し、PoCとシステム開発の両フェーズで機械学習に関する技術支援をベンダーに業務委託することにした。
また、C課長は、PoCを実施しても、既知のリスクとして特定できない不確実性は残るので、プロジェクトが進むにつれて明らかになる未知のリスクへの対策として、プロジェクトの回復力(レジリエンス)を高める対策が必要と考えた。
【ベンダーの選定】
C課長は、機械学習技術に関する技術支援への対応が可能なベンダー7社について、ベンダーから提示された情報を基に、機械学習技術に関する現在の対応状況を調査した。
この調査に基づき、C課長は、技術習得とシステム開発の支援の提案を依頼するベンダーを4社に絞り込んだ。その上で、ベンダーからの提案書に対して五つの評価項目を定め、ベンダーを評価することとした。
ベンダー4社に対して、提案を依頼し、提出された提案を基に、プロジェクトメンバーで評価項目について評価を行い、表2のベンダー比較表を作成した。
評価項目 | 評価の観点 | P社 | Q社 | R社 | S社 |
---|---|---|---|---|---|
事例数 | 金融サービス業の適用事例が豊富なこと | 3 | 3 | 3 | 4 |
定着化 | 習得した機械学習技術の定着化サポートを含むこと | 2 | 4 | 3 | 4 |
提案内容 | 他社と差別化できる技術であること | 4 | 3 | 4 | 3 |
使用性 | 顧客視点でのシステム開発ができること | 4 | 4 | 3 | 3 |
価格 | コストパフォーマンスが高いこと | 3 | 3 | 4 | 2 |
ベンダー比較表を基に、B役員の指示を踏まえて審査した結果、c社を選定した。B役員の最終承認を得て、①本プロジェクトのPoCの特性を考慮し、準委任契約で委託することにした。
C課長は、システム開発フェーズの途中で、技術支援の範囲拡大や支援メンバーの増員を依頼した場合の対応まで②選定したベンダーに確認しようと考えた。
【役割分担】
C課長は、マーケティング部のステークホルダがもつ多様な意見を理解して、それを本プロジェクトのプロダクトバックログとして設定するプロダクトオーナーの役割が重要であると考えた。C課長は、③D主任が、プロダクトオーナーに適任であると考え、D主任に担当してもらうことにした。
C課長は、プロジェクトチームのメンバーと協議して、PoCでは、D主任の設定した仮説に基づき、プロダクトバックログを定め、プロジェクトの開発メンバーがベンダーの技術支援を受けてMVP(Minimum Viable Product)を作成することにした。そして、マーケティング部のステークホルダに試用してもらい、④あるものを測定することにした。