2018年 秋期 応用情報技術者試験 問2
レストラン経営
R 店は個人経営の洋食レストランであり,大都市にある乗降客の多い駅の近くの貸しビルに,数年前に開店した。厨房とホールに,それぞれ従業員が数名配置され,夕方から営業を開始している。最近は,売上が横ばい状態の上に,食材価格の高騰の影響で経費が増加しており,黒字経営とはいえ,利益は減少傾向にある。そこで,経営者の S 氏は売上の伸び悩みや利益の減少の原因を調査・分析し,経営の改善を図ることにした。
[来店客へのアンケートの結果]
S 氏は,まず来店客に対して,R 店に関する印象・意見を求めるアンケートを実施し,その結果を次のとおりまとめた。
(好評点) ・店が駅から近くて行きやすい。店内がきれいで,雰囲気も良い。 ・ハンバーグステーキがとてもおいしい。 ・料理の品目が頻繁にメニューに追加されるので,店のホームページなどで時々チェックしている。追加された料理がおいしそうだと,お店に足を運びたくなる。 ・スマートフォンで稼働するアプリケーションソフトウェア(以下,携帯アプリという)を使って予約できるのは,便利である。 ・会計時に,スタンプカードにスタンプを押してもらって,スタンプが一定数たまると,料理が一品無料になるなどの特典は,お得感があってうれしい。
(不評点) ・注文してから,料理が運ばれてくるまでに,時間が掛かる。 ・来店客で混雑する時間帯は,携帯アプリや電話などで予約しておかないと,入店までかなり待たされる。 ・料理の品目数が多く,メニューに写真が掲載されていないので,品名だけではどれを選んだらよいか悩んでしまう。店の従業員に料理の説明をしてもらわなければ,注文する料理を決められないので,もっと親切なメニューにしてほしい。 ・おいしくて安全な料理を食べたいが,料理に使われている食材を,誰がどのように作っているかわからない。 ・スタンプカードを忘れた場合に,スタンプがたまらないのは不便である。 ・ディナーの営業だけでなく,ランチの営業もしてほしい。
["来店客の待ち時間が長い問題" の要因分析]
次に S 氏は,来店客へのアンケートの結果のうち,売上に直結する顧客回転率を上げるために "来店客の待ち時間が長い問題" について改善が急務と考え,店の主要メンバとブレーンストーミングを行いその要因を分析した。分析は,従業員,店舗,料理,手順に分けて行った。挙げられた要因は,次のとおりである。
(1) 従業員 ・アルバイトには入れ替わりがあるが,新規のアルバイトを雇った場合,十分な教育をしていないので,仕事に慣れるまで作業の効率が悪い。
(2) 店舗 ・貸しビルの店舗の増改築は難しく,客席の数を増やせない。 ・賃貸契約の期間が残っており,多額の解約手数料が掛かるので,店舗の移転は難しい。
(3) 料理 ・料理の品目数を減らさずにメニューに品目の追加を続けているので,料理の品目数が多くなってしまった。 ・料理の品目数の増加に伴い,使用する食材や調理器具の種類が増加するので,厨房の作業効率が低下している。
(4) 手順 ・仕込みの時間が不足しているので,調理に時間が掛かっている。 ・食材は市場で仕入れており,仕入れに多くの時間が掛かっている。これが,仕込みの時間の不足の原因となっている。 ・農家と契約して食材を直送してもらうことによって,仕入れに掛かる時間を減らせる。仕入れに掛かる時間を減らせば,その時間を仕込みなど,他の作業に回せる。
S 氏は,"来店客の待ち時間が長い問題" の要因を,図 1 の特性要因図にまとめた。
["来店客の待ち時間が長い問題" の改善策]
S 氏は,図 1 で抽出された主要因に対して改善策を立てた。
・主要因 "料理の品目数を減らさずにメニューに品目の追加を続けている" について,図 2 の ABC 曲線を作成した。これを基に検討した結果,A 及び B グループの品目数が最適な品目数であるという結論になったので,B,C グループのうちから,将来の伸びが期待できない品目をメニューから削除し,①料理の品目数を絞ることにした。
d の割合% | 100 |
![]() | ||
90 | ||||
70 | ||||
0 | ||||
20 | 60 | 100 | ||
A | B | C | ||
料理の品目数の割合(%) |
・主要因 "市場で仕入れている" について,農家と契約し,食材を直送してもらうことによって,仕入れの時間を減らして,仕込みの時間を増やす。
・主要因 "十分な教育をしていない" について,アルバイトを雇用したときに活用する教育用のマニュアルを作成する。
[その他の問題の改善策]
S 氏は,来店客へのアンケートの結果から,"来店客の待ち時間が長い問題" 以外にも,利益改善に向けて重要だと思える問題を特定し,次の改善策を立てた。また,仕入先として予定している農家と交渉した結果,食材をたくさん仕入れると,仕入単価を下げる契約が可能なことが分かったので,この方法も活用したいと考えた。
・メニューに写真やおすすめする理由を入れて,来店客が料理を選びやすいようにする。
・②来店客にも契約農家,生産方法などが分かるようにして,顧客満足度を高める。
・スタンプカードの不便さを解消するために,既存の情報システムを活用して,e。
・③ハンバーグステーキと野菜サラダをセットにしたおすすめ料理を紹介し,セット料理がより多く売れるようにする。
[ランチ営業の検討]
仕入れに掛かる時間の短縮によって,ランチ営業の時間も取れるので,S 氏は,ランチ営業の開始を判断するために,収益見込みを確認した。ランチ営業の開始に伴って,R 店の固定費が増加することはない。そこで,固定費の総額を,ディナー営業とランチ営業に売上高で配賦し,ランチ営業の 1 か月の収益見込みを表 1 のとおり作成した。
科目 | 金額 | |
---|---|---|
売上高 | 3,000 | |
変動費 | 2,000 | |
固定費 | 1,050 | |
利益 | △50 |
ランチ営業の収益見込みでは,利益がマイナスとなった。しかし,今後ランチ営業で見込みどおりの売上高しか得られなかったとしても表 1 において,fことから,S 氏は,ランチ営業を始めることにした。