2012年 秋期 応用情報技術者試験 問11
情報システムの変更管理
A社は、電子部品の製造・販売を行う中堅企業である。B君は、情報システム部に所属し、システムの運用管理業務を行っている。
【A社での情報システム変更管理】
A社は、情報システムの変更管理のルールを取り決めており、社内で運用している。
図1は、A社における情報システム変更フローである。
利用部門は、情報システムに対する機能追加・変更の要望が発生すると、変更依頼票を作成し、情報システム部に提出する。情報システム部らも、不具合対策などを行うに当たって、変更依頼票を作成する。変更依頼票には、変更依頼者、変更内容、希望利用開始日などを記す。
変更依頼票は、情報システム部が受け付け、変更を依頼した部門以外の他部門に、業務への影響有無の問合せを行う。問合せを受けた部門は、自部門への影響を調べ、情報システム部へ回答する。情報システム部は、回答やシステムの構成などを確認した上で、表1のリスクレベルの定義に従い、変更のリスクレベルを設定する。
リスクレベル | システム影響範囲 | 新規開発 |
---|---|---|
A | 変更を依頼した部門以外の部門に影響する。 | 含む |
B | 変更を依頼した部門以外の部門に影響する。 | 含まない |
C | 変更を依頼した部門だけに影響する。 | 含む |
D | 変更を依頼した部門だけに影響する。 | 含まない |
情報システム部は、表2で定めたチェックリストを用いて変更事前チェックを行った後、関係者を招集して変更依頼レビューを実施する。変更が承認されると、変更のための準備を開始する。
観点 | チェック項目 |
---|---|
変更対象 | ・構成情報を確認し、変更対象を全て洗い出したか。 |
作業計画 | ・本番業務に影響しない作業時間が確保されているか。 |
作業体制 | ・責任者が明確か。 |
・実施する体制が確保できているか。 | |
作業手順 | ・作業手順書の作成、レビューが計画されているか。 |
影響範囲 | ・影響範囲を全て洗い出したか。 |
・他部門業務に支障を来さないか。 | |
・他のシステム変更と相互に影響がないか。 | |
費用 | ・費用の見積りに漏れはないか。 |
・費用に対して予算は確保済みか。 | |
リスク | ・変更後に問題が見つかった場合に備え、変更を元に戻す切戻しの計画があるか。 |
【発注システムの仕様変更】
表3は、A社で使用している発注システムの機能である。発注システムは、資材課専用サーバで稼働しており、資材課だけが使用している。
モジュール | 機能 |
---|---|
発注伝票登録 | ・発注する品目、数量、納期、仕入先などの必要事項を入力すると、伝票番号を自動で登録し、発注伝票を作成する。 |
・作成した発注伝票を印刷する。 | |
ファックス送信 | ・伝票番号を指定すると、該当する発注伝票のファックス送信用データを作成し、仕入先のファックス宛てに送信する。 |
・送信したファックス送信用データを所定のディスクに格納する。 |
資材課の発注担当者は、作成した発注伝票を印刷し、上長の承認印を得ると、承認済み発注伝票として台帳に保管する。そして、ファックス送信モジュールを用いて、承認された発注伝票と同じ伝票番号を指定し、発注伝票のデータを仕入先宛てにファックスで送信する。また、主任が毎日の業務終了前に、その日に格納されたファックス送信用データと、台帳に保管された承認済み発注伝票との突合せを行い、誤った発注伝票が送信されていないことを確認する。
社内で定期的に実施されるシステム監査において、監査担当である C氏から、現状の発注システムでは、発注担当者のミスによって、上長の承認を得ていない発注伝票が仕入先のファックス宛てに送信されてしまうおそれがあると指摘された。そこで、資材課の D課長は、発注システムに上長承認機能を追加する必要があると考え、資材課の E氏に指示して、図2に示す発注システムの変更依頼票を作成させた。
変更名称: | 発注システムへの上長承認機能追加 | ||
変更責任者: | 資材課 D課長 | ||
変更依頼者: | 資材課 E氏 | ||
変更内容: | 発注伝票に上長承認機能を追加する。 ・発注伝票が、承認済みか、未承認かを表すステータスをもつ。 ・上長に対し、発注伝票の承認を依頼する。 ・上長が承認すると発注伝票のステータスを承認済みに変更する。 | ||
希望利用開始日: | 2013年1月4日 | ||
変更対象: | 発注システム |
B君は、変更依頼票を受け付け、変更内容から必要な追加機能を検討した。今回、新規に開発する機能を含む変更後の発注システムの機能を表4にまとめた。
モジュール | 機能 |
---|---|
発注伝票登録 | ・発注する品目、数量、納期、仕入先などの必要事項を入力すると、伝票番号を自動で登録し、発注伝票を作成する。 |
・作成した発注伝票を印刷する。 | |
(追加機能) ・発注伝票に承認のステータスを設け、初期値として未承認を設定する。 ・あらかじめ登録された上長へ、承認依頼メールを送信する。 | |
ファックス送信 | ・伝票番号を指定すると、該当する発注伝票のファックス送信用データを作成し、仕入先のファックス宛てに送信する。 |
・送信したファックス送信用データを所定のディスクに格納する。 | |
(追加機能) ・承認依頼メールから発注伝票確認画面を起動する。 ・発注伝票確認画面で発注内容を上長が確認する。 ・発注伝票を承認すると、発注伝票のステータスを承認済みに変更する。 | |
上長承認 (新規) | (追加機能) ・承認依頼メールから発注伝票確認画面を起動する。 ・発注伝票確認画面で発注内容を上長が確認する。 ・発注伝票を承認すると、発注伝票のステータスを承認済みに変更する。 |
(追加機能) ・資材課長を発注伝票の承認者として標準で自動設定する。 ・代理承認者を最大1名まで設定する。 |
B君は、リスクレベルをcと設定した。そして、変更の事前チェックを行った後、関係者を召集して変更依頼レビューを行った。レビューの結果、①表4の変更後の発注システムの機能では不足があり、C氏の指摘には対処できていないことから、追加する機能を再検討し、費用見積りをやり直す必要があることが分かった。
B君は、②表4の機能不足をレビュー前に発見できなかった一因は、図2の変更依頼票の記述内容や表2のチェックリストに不足があるからだと考えた。そこで、それらの改善が必要であると考えた。