2012年 秋期 応用情報技術者試験 問1

M&A戦略

次の問1,問2については1問を選択し,答案用紙の選択欄の問題番号を○印で囲んで解答してください。 なお,2問とも○印で囲んだ場合は,問1について採点します。

問1 M&A戦略に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。

X社は,飲料事業を営む会社であり,発酵技術を基盤として発展してきた企業グループに属している。企業グループは,持株会社を親会社とし,酒類,飲料,化学品,医薬品のそれぞれを製造し,販売する四つの会社が,コアの事業会社である。

持株会社の経営陣は,今後の中長期戦略を検討した。その過程で,どの事業に投資するかを決めるために,商品や事業の市場における位置付けを分析する手法であるaを使って分析した。その結果,飲料事業に積極的に投資していく方針を決定し,飲料事業の拡大を早期に実現するために,飲料業界の他社とのM&Aの可能性をX社とともに検討した。そして,合併の候補先を数社挙げ,その中から合併の効果が最も高いと見込めるY社を選定した。

〔合併効果の検討〕

X社及び持株会社の経営陣は,まずX,Y両社の分析を行った。

(1) X社の分析

お茶,コーヒー,炭酸飲料を製造し,販売している。東日本の流通チャネルに強みがあるが,西日本では弱い。乳酸菌飲料や健康飲料はもっていない。

(2) Y社の分析

乳酸菌飲料から発展してきた飲料メーカで,お茶,乳酸菌飲料,健康飲料を製造し,販売している。全国展開しており,特に西日本の流通チャネルに強みがある。健康飲料の売上が好調である。最近,新商品を発表したお茶の販売に注力している。

次に,合併した場合の分析では,①規模の経済性,範囲の経済性,経営資源の補完性,財務面などによるシナジーが見込める一方,②カニバリゼーションが起こる懸念があることが分かった。

合併効果を更に詳細に検討した結果,マイナス要素もあるがプラス要素が非常に大きいので,X社及び持株会社の経営陣は,Y社との合併を進めることを決定した。

〔合併方法の検討〕

当初,X社及び持株会社の経営陣は,M&Aの方法として③TOBを検討していたが,Y社の経営陣と話し合った結果,Y社を吸収合併することにした。Y社との基本合意後,④詳細な企業情報の入手,既開示データの信ぴょう性の確認,未開示又は未認識リスクの確認,買収額算定のための基礎情報収集などを行ってY社の状況を調査した。その後,合併契約を締結し,合併時のX社の会計処理方法を図1のとおりとした。

• xxxx年4月1日,パーチェス法によってX社が取得企業となってY社を吸収合併する。 X社(存続会社)がY社(消滅会社)から資産・負債を引き継ぎ,その対価として,Y社の株主にY社の株式と引換えに,X社が新株を発行して交付する方式とする。 • Y社の株主に対して交付する株式の総数(交付株式数)は,Y社の発行済株式数に合併比率を掛けることによって算出する。 交付株式数=Y社の発行済株式数×合併比率 • 合併比率は,Y社の株式とX社の株式との交換比率であり,Y社の株式1株につき交付するX社の株式の割当比率である。合併比率は,企業価値を発行済株式数で割って求めた"1株当たりの企業価値"に基づいて,次の式で算定する。 合併比率=Y社の1株当たりの企業価値÷X社の1株当たりの企業価値 • 企業価値は,時価(公正価値)を用いて,純資産額法による企業価値と収益還元価値法による企業価値との平均値を使う折衷法(平均法)によって評価する。この折衷法による企業価値は,純資産の時価となる。 企業価値=(純資産額法による企業価値+収益還元価値法による企業価値)÷2 純資産額法による企業価値=資産-負債 収益還元価値法による企業価値=株主資本×平均株主資本利益率+資本還元率

なお,株主資本は,純資産額法による企業価値である。平均株主資本利益率(ROE)は,純利益を平均株主資本(期初株主資本と期末株主資本の平均)で割ったものである。資本還元率は株主の期待還元率であり,同種企業平均の平均株主資本利益率を用いる。

図1 会計処理方法

〔会計処理の実施〕

合併前のX社とY社の貸借対照表とその他の必要情報は,表1と表2のとおりであった。

表1 合併前のX社とY社の貸借対照表(抜粋)
資産X社Y社負債・純資産X社Y社
資産1,200400負債500150
純資産700250
xxxx年3月31日現在(単位:億円)
表2 その他の必要情報(抜粋)
X社Y社同種企業平均
発行済株式数4,000,000株1,800,000株
資産の時価(公正価値)1,400億円500億円
負債の時価(公正価値)600億円200億円
平均株主資本利益率15%14%10%(資本還元率)
xxxx年3月31日現在

この情報に基づいて,表3のとおり企業価値を算定した。

表3 折衷法による企業価値の算定
X社(存続会社)Y社(消滅会社)
純資産額法による企業価値800b
収益還元価値法による企業価値1,200c
企業価値1,000(略)
(単位:億円)

さらに,合併比率0.8を算定し,交付株式数を算出した結果,交付株式数はd株となった。

また,Y社の資産の時価,負債の時価及び純資産の時価を基に,"のれん"を計上し,パーチェス法による会計処理を行った。その結果,合併後のX社の貸借対照表は,表4のとおりとなった。

表4 合併後のX社の貸借対照表(抜粋)
資産金額負債・純資産金額
資産1,700負債700
のれんe純資産(略)
xxxx年4月1日現在(単位:億円)
出典:平成24年度 秋期 応用情報技術者試験 午後 問1