2010年 春期 応用情報技術者試験 問3

バランススコアカード

L社は中堅の生命保険会社である。大都市圏や地方の中核都市に営業拠点を絞り、外務員が個別に家庭訪問をする販売形態で業績を伸ばしてきた。近年、保険金不払問題に端を発した保険業界全体に対する信用低下によって、L社でも解約率が上昇し、保有契約高、利益率ともに減少傾向にある。また、業績の悪化に伴い、外務員の流出も増えている。L社の次期中期経営戦略策定を担当する経営企画室のM氏は、これらの状況の改善策を経営戦略に盛り込むよう、社長から指示を受けた。

L社の事業環境

L社は経営方針として"顧客本位の募集体制整備"、"外務員のスキル向上によるサービス品質の向上"を掲げている。M氏は経営戦略の策定に当たって、まず、経営戦略策定チームのメンバとともに①自社、顧客及び競合の分析や自社の内外の事業環境の分析を行った。その結果、次のことが判明した。

・不払問題以降、業界では解約率が上昇している。 ・L社の場合、保険金の支払事由が発生したにもかかわらず契約者からの請求が行われずに不払につながったケースが特に多い。 ・L社では、解約率の上昇によって個人別の業績評価が下がり、外務員の収入減少、モチベーション低下をもたらし、離職率が増加している。 ・企業セキュリティの強化によって、顧客の職場を訪問しての営業効率は低下している。 ・L社では、各家庭における直接の説明相手である主婦層に、商品について十分に理解してもらうことを重視しているが、不在などで会えないことが多い。

また、顧客アンケートや外務員アンケートから次のことも判明した。

・L社のサービスに対する顧客満足度は低下している。主な理由は、(1)商品が複雑化していること、(2)外務員の訪問回数が減少していること、(3)商品や契約に関する説明が分かりにくく、何度も問い合わせる必要があることである。 ・L社の外務員はSFA(Sales Force Automation)システムを利用して営業活動を行っている。外務員からは、保険契約や商品に関する知識を学ぶ機会が少ないとの声が多い。

経営戦略策定とバランススコアカード作成

経営戦略策定チームは、事業環境の分析結果から次のような経営戦略案を策定した。

(1) 各家庭において、特に主婦層に商品への理解を深めてもらい、関係を強化することで解約率の上昇に歯止めをかけ、契約継続率の向上による保有契約高、利益率の回復を実現する。

(2) 不払問題を早期に解決するために、新規顧客の契約獲得を主体とする営業方針を見直す。契約後の顧客サービス充実に注力することで、不払問題によって招いた顧客の信頼失墜からの回復及び顧客満足度の向上を図る。

(3) 主要販売チャネルである外務員のスキル向上を図る。

(4) 外務員のモチベーション向上を図ることで外務員の流出を防ぐ。

M氏は戦略及び戦略実現の手段を全社レベルで明確にするためにバランススコアカードを導入することにし、経営戦略案を基に表のようなバランススコアカード案を作成した。

表 バランススコアカード案(抜粋)
視点戦略目標(KGI)重要成功要因(CSF)業績評価指標(KPI)アクションプラン
財務・利益率向上
・維持及び向上
・既存顧客の契約高の維持及び向上・当期純利益率
・保有契約高
・効率の良い営業活動
顧客・顧客満足度の向上a・解約率・契約締結後のアフターサービス強化
内部業務プロセス・不払の解消・分かりやすい商品説明
・不払防止体制の強化
・問合せ件数
・不払件数
・説明レベルの向上
bの有無確認の強化
学習と成長・外務員の顧客対応力向上・モチベーションの向上c
・従業員満足度
・人事・報酬制度の整備

続いてM氏は情報システム部のN氏とともに現行SFAシステムの機能を見直すこととした。

現行SFAシステムの概要

・現行SFAシステムは、本社基幹システム、各支社に設置されたサーバ、及び外務員が携帯するノートPC(以下、営業端末という)で構成されている。

・営業端末には次の機能がある。 (1) 商品別、顧客別の契約プランの作成・試算 (2) 顧客情報(顧客の個人情報及び顧客のもつ契約情報)の参照

※なお、顧客の個人情報保護の対策は十分にとられている。

・夜間バッチ処理によって、本社基幹システムから各支社サーバへ必要な契約情報や顧客情報が配信される。顧客の家族情報や契約に定められた支払事由は付加せず、最小限のデータ量としてトラフィックを抑えている。

・外務員は営業端末から支社サーバの情報にアクセスする。試算機能や顧客情報の参照機能を使用し、顧客のニーズをヒアリングしながら、保険料払込み計画のシミュレーションや最適な契約プランを作成する。外務員は、作成した資料を顧客に提示しながら、説明やプレゼンテーションを行う。資料は、数値データが主であり、顧客にとってはわかりにくいものとなっている。また、保険契約や商品に関する知識の浅い外務員は、顧客に十分な説明ができない場合もある。

M氏はこうした状況を改善するために、②バランススコアカード案の"学習と成長"の視点にアクションプランを追加するとともに、現行SFAシステムの営業端末を改善することにした。また、③トラフィック量は増えるが、約款に定められた支払事由を各支社サーバへの配信情報に追加することにした。

出典:平成22年度 春期 応用情報技術者試験 午後