応用情報技術者試験 過去問 2010年(平成22年) 春期 午後 問1

企業の経営分析

Y社は資本金5,500万円、年商約35億円の外食チェーンで、首都圏に23店舗のイタリア料理店を展開している。外食産業は業績の低迷が続いているが、Y社は、吟味した食材を使った料理を手ごろな価格帯で提供することで、売上を順調に伸ばし、過去3期連続で増収増益を続けている。昨年度は5店舗を新規に開店させ、現在、セントラルキッチンの拡張工事を計画している。

Y社では、業績が好調なうちに経営体質の問題点を特定し、解決しておくために、経営分析を実施することにした。Y社の貸借対照表と損益計算書を表1、2に示す。

表1 貸借対照表
勘定科目 単位 百万円 勘定科目 単位 百万円
2008年度 2009年度 2008年度 2009年度
流動資産 132 166 流動負債 430 550
現金及び預金 85 107 買掛金 150 190
売掛金 15 19 短期借入金 210 280
原材料 11 14 その他流動負債 70 80
仕掛品 2 5 固定負債 190 180
その他流動資産 19 21 長期借入金 190 180
固定資産 585 708 負債合計 620 730
有形固定資産 360 450
無形固定資産 5 18 資本金 55 55
投資等 220 240 法定準備金 8 8
未処分利益
(うち当期利益)
34
(20)
81
(55)
資本合計 97 144
資産合計 717 874 負債・資本合計 717 874
表2 損益計算書
勘定科目 2008年度 2009年度
当期売上高 2,590 3,540
売上原価 1,640 2,450
売上総利益 950 1,090
販売費・一般管理費 860 960
営業利益 90 130
営業外収益 4 3
営業外費用 1 2
経常利益 93 131
特別損益 ▲64 ▲11
税引前当期利益 29 120
法人税等 9 65
当期利益 20 55

経営分析とその評価

経営分析は、収益性・安全性・生産性の3点から実施し、経営分析のための指標を表3のように計算した。

表3 経営分析指標
2008年度 2009年度




総資本対経常利益率 (%) 13.0 15.0
総資本回転率 (回) 3.6 4.1
固定資産回転率 (回) 4.4 5.0
売上高対総利益率 (%) 36.7 30.8
売上高対経常利益率 (%) 3.6 3.7
2008年度 2009年度




流動比率 (%) 30.7 30.2
当座比率 (%) 23.3 22.9
固定長期適合率 (%) 203.8 218.5
固定比率 (%) 603.1 491.7
自己資本比率 (%) 13.5 16.5
2008年度 2009年度




労働生産性 (円/時間) 1,890 1,950
労働装備率(千円) 430 480
1人当たり売上高 (千円) 3,100 3,800
1人当たり粗収入高 (千円) 2,200 2,700

これらの情報などを基に、2009年度の経営分析結果を次のようにまとめた。

  • 収益性分析の結果は、おおむね良好である。特に総資本額が22%増加したにもかかわらず、総資本回転率が0.5回向上したのは、aが貢献した結果である。また、売上高対総利益率は、原材料の高騰の結果低下したが、そのほかの収益性指標は向上しており、特に売上高対経常利益率が向上した点が評価できる。
  • 安全性分析の結果には問題がある。固定長期適合率が極めてb水準にある点である。ただし、流動比率は極めて低い水準にあるものの、受取手形がなく、cので、流動資産の回収に問題が生じても影響は小さく、短期支払能力は指標が示すほどには低い水準ではないといえる。
  • 2009年度における有形固定資産の増加は、新規開店に伴うものであったが、固定長期適合率に大きな変化はなかった。一方で、長期借入金が若干減少し、短期借入金が増加した。これは、本来長期に利用可能な資金によって賄うべき設備投資を、dと短期借入金とで賄っていることを示しており、健全な財務構造とはいえない。
  • 新規開店に伴う人員増を最低限に抑えた結果、生産性分析では、各指標とも2008年度に比べて向上した。しかし、同業他社と比較した場合、従業員1人当たりの売上高や粗収入高が見劣りしている。eなどによって、生産性の一層の向上を図る必要がある。

キャッシュフロー計算書の作成と分析

Y社は、財務の安全性に問題があるとの認識のもと、キャッシュフローを分析するために、キャッシュフロー計算書を次の方針で作成することにした。

  1. 直接法と間接法のうち、間接法によって作成する。
  2. フリーキャッシュフローは、"営業活動によるキャッシュフロー+投資活動によるキャッシュフロー"で計算する。
  3. キャッシュフロー計算書とフリーキャッシュフローは、過去3期分を作成・算定して、トレンドを分析する。

過去2期分のキャッシュフロー計算書と過去3期分のフリーキャッシュフローは、それぞれ表4と表5に示すとおりである。②これらから、新たな問題・課題を抽出することができた。

表4 キャッシュフロー計算書
単位 百万円
2008年度 2009年度
Ⅰ 営業活動によるキャッシュフロー
税引前当期利益 29 120
減価償却費 41 46
売上債権の増減 ▲15 ▲4
棚卸資産の増減 3 ▲6
その他資産の増減 ▲2 ▲2
仕入債務の増減 10 40
その他負債の増減 38 10
法人税等の支払額 ▲9 ▲65
合計 95 139
fによるキャッシュフロー
有形固定資産の増減 ▲130 ▲136
無形固定資産の増減 ▲1 ▲13
その他資産の増減 ▲44 ▲20
合計 ▲175 ▲169
gによるキャッシュフロー
借入金の増減 89 60
資本金の増減 0 0
配当金支払額 ▲1 h
合計 88 22
Ⅳ 現金及び現金同等物の増減 8 22
Ⅴ 現金及び現金同等物の期首残高 77 85
Ⅵ 現金及び現金同等物の期末残高 85 107
表5 フリーキャッシュフロー
単位 百万円
年度 金額
2007 14
2008 ▲80
2009 ▲30
注記:▲はマイナスの数値を表す。
出典:平成22年度 春期 応用情報技術者試験 午後 問1