2021年 秋期 応用情報技術者試験 問4

クラウドストレージの利用に関する次の記述を読んで、設問1、2に答えよ。

L社は、企業のイベントなどで配布するノベルティの制作会社である。L社には、営業部、制作部、製造部、総務部、情報システム部の五つの部署があり、500名の社員が勤務している。また、社員の業務時間は平日の9時から18時までである。L社では、各社員が作成した業務ファイルは各社員に1台ずつ配布されているPCに格納してあり、部内の社員間のファイル共有には部ごとに1台のファイル共有サーバ(以下、FSという)を利用している。

L社では、社員の働き方改革として、リモートワークの勤務形態を導入することにした。リモートワークでは、社外から秘密情報にアクセスするので、セキュリティを確保する必要がある。

そこで、L社では業務ファイルをPCに格納しない業務環境を構築することにした。PC内の業務ファイルをM社クラウドサービスのストレージ(以下、クラウドストレージという)に移行し、各PCからクラウドストレージにアクセスして、クラウドストレージ内のファイルを直接読み書きすることにした。また、FS内のファイルについてもクラウドストレージに移行することにした。クラウドストレージを利用した設計、実装、移行は、情報システム部のN君が担当することになった。

【クラウドストレージ容量の試算】

N君は、クラウドストレージに必要なストレージ容量を試算するために、PCやFSに格納済の業務ファイルの調査を行った。PCは、500台のPCから50台のPCをランダムに選定し、移行対象のファイルについて、ファイル種別ごとのディスク使用量を調査した。N君が調査した、PC1台当たりのファイル種別ごとのディスク使用量を表1に示す。

表1 PC1台当たりのファイル種別ごとのディスク使用量
項番ファイル種別ディスク使用量(Gバイト)
1契約書・納品書などの文書ファイル5
2ノベルティの図面ファイル5
3イベント風景を撮影した写真や動画ファイル10

FSについては、5台のFSについて、ファイル種別ごとのディスク使用量とファイルの利用頻度ごとのディスク使用量の割合の調査を行った。FS1台当たりのファイル種別ごとのディスク使用量を表2に、ファイルの利用頻度ごとのディスク使用量の割合を表3に示す。ここで、利用頻度とはFSに格納済のファイルの年間読み出し回数のことであり、ファイルの読み出しはPCからファイルを参照する動作によって発生する。

表2 FS1台当たりのファイル種別ごとのディスク使用量
項番ファイル種別ディスク使用量(Tバイト)
1契約書・領収書・納品書などの文書ファイル20
2ノベルティの図面ファイル30
3イベント風景を撮影した写真や動画ファイル50
表3 ファイルの利用頻度ごとのディスク使用量の割合
項番利用頻度(回/年)平均利用頻度(回/年)ディスク使用量の割合(%)
11,000回以上1,20010
2500回以上1,000回未満7505
3100回以上500回未満3005
4100回未満5580

この調査結果から、L社の全てのPCやFSに格納済のファイルをクラウドストレージに移行すると、現時点では少なくとも a Tバイトのストレージ容量が必要であることが分かった。

【クラウドストレージの利用費用の試算】

クラウドストレージでは、ストレージ種別によって利用料金が異なる。クラウドストレージの料金表を表4に示す。読み出し料金とは、クラウドストレージに格納したファイルを読み出すときに発生する料金であり、PCからファイルを参照する動作によって発生する。

表4 クラウドストレージの料金表
項番ストレージ種別年間保管料金(円/Gバイト)読み出し料金(円/Gバイト)
1標準ストレージ300
2低頻度利用ストレージ100.02
3長期保管ストレージ60.06

年間のクラウドストレージの利用費用は、次式で算出できる。

年間保管料金×保管Gバイト数+読み出し料金×読み出しGバイト数

ファイルの利用頻度に応じてストレージ種別を適切に選択することで、利用費用を抑えることができる。

N君は、PC内のファイルは標準ストレージに格納することにし、FS内のファイルは利用頻度によって利用するストレージ種別を表4の項番1~3のストレージ種別から選択した。N君が試算した、ストレージ種別ごとのデータ容量と利用費用を表5に示す。読み出しGバイト数は、データ量×表3の平均利用頻度を用いて求めた。

表5 ストレージ種別ごとのデータ容量と利用費用
項番ストレージ種別データ容量(Tバイト)利用費用
年間保管費用(千円/年)読み出し費用(千円/年)
1標準ストレージb(省略)0
2低頻度利用ストレージ(省略)c525
3長期保管ストレージ4002,400d

【クラウドストレージの実現方式の検討】

次にN君は、クラウドストレージの実現方式を検討した。N君が検討した、クラウドストレージの実現方式(案)を図1に示す。

図1 クラウドストレージの実現方式(案)

M社クラウドサービスにあるストレージサーバ、ストレージ装置、ルータAを利用してクラウドストレージを実現する。ここで、ルータAとルータBの間はVPNで接続されており、平均400Mビット/秒の速度でデータを送受信できる。L社事業所内の各機器は平均800Mビット/秒の速度でデータを送受信できる。また、社外からクラウドストレージを利用する場合には、PCとルータA間をVPNで接続し、通信路のセキュリティを確保する。

【PC内ファイルの移行方式の検討】

N君はPC内のファイルのクラウドストレージへの移行方式を検討した。社員全員が一斉にPC内のファイルを移行すると時間が掛かる。例えば、500名の社員が自分のPCに格納済の20Gバイトのデータを、それぞれクラウドストレージにコピーする場合、各社員のデータが均等に伝送されるものとすると、社員がPCでファイルのコピーの開始を指示してから全ファイルのコピーが完了するまでの時間は e 時間となる。

そこでN君は、業務繁忙月を避けて1週間の移行期間を設定し、L社事業所内に移行用NASを設置して移行する方式を検討した。移行期間には、500名の社員を100名ずつ五つのグループに分け、グループごとに次の三つの作業を行うことでデータを移行する。

作業1 業務時間内に各社員がPC内のファイルを移行用NASにコピー
作業2 業務時間外に移行用NAS内のファイルをクラウドストレージに移動
作業3 各社員がクラウドストレージのファイルを確認しPC内のファイルを削除

グループごとの移行スケジュールを図2に示す。

図2 グループごとの移行スケジュール

N君は、クラウドストレージの構築とファイルの移行の検討を終え、上司に報告し承認を得た。

出典:令和3年度 秋期 応用情報技術者試験 午後 問4