2021年 秋期 応用情報技術者試験 問2

食品会社でのマーケティング

Q社は,スナック菓子の製造・販売会社である。Q社は,老舗のスナック菓子メーカとして知名度があり,長年にわたるファンはいるが,ここ5年間の売上は減少傾向であり,売上拡大が急務である。Q社の社長は,この状況に危機感を抱き,戦略の策定から実施までを行う戦略マーケティングプロジェクトを立ち上げ,営業企画部のR課長を戦略マーケティングプロジェクトの責任者に任命した。R課長は,商品開発担当者,営業担当者から成るプロジェクトチームを編成し,現状分析とマーケティング戦略の策定に着手した。

【現状分析】

R課長は,次のような3C分析を実施した。

(1) 顧客・市場

・少子高齢化による人口減少で,菓子の需要は低下傾向である。

・従来,主要な顧客は中高生を中心とした子供だったが,大人のスナック菓子の需要が最近増加しており,今後も成長余地がある。

・オフィスでおやつとして食べたり,持ち歩いで小腹のすいたときに適宜食べたりするなど,スナック菓子に対する顧客ニーズが多様化している。

・顧客の健康志向が高まっており,自然の素材を生かすことが求められている。

(2) 競合

・競合他社からQ社の主力商品の素材と似た自然の素材を使った,味もパッケージも同じような新商品が発売され,売上を伸ばしている。

・海外大手メーカから,海外で人気のスナック菓子が発売される予定である。

(3) 自社

・日本全国に販売網をもつ。

・海外でもパートナーシップを通じて販路を拡大している。

・食品の素材に対する専門性が高く,自然の素材を生かした加工技術をもつ。

・新たな利用シーンに対応する商品開発力をもつ。

・商品の種類の多さや見た目のかわいさなどが中高生から支持されており,熱烈なファンが多い。

【マーケティング戦略の策定】

R課長は,〔現状分析〕の結果を基に,戦略マーケティングプロジェクトのメンバと協議し,新商品のターゲティングとポジショニングについて,次のように定めた。

(1) Q社の主要な既存顧客に加えて,新たな顧客のターゲットaとして,普段あまりスナック菓子を食べていない,健康志向の20~40代の女性を設定する。

(2) このターゲットaに対して,"素材にこだわるという付加価値"を維持しつつ,①"今までとは違う時間や場所で食べることができる機能性"というポジショニングを定める。

これらを踏まえて,R課長は今後のマーケティング戦略を,次のように定めた。

(1) 希少価値によって話題を集めることで,顧客の購買意欲を高める。

(2) 従来の実店舗や広告に加えて,インターネットを活用したデジタルマーケティングの採用によって,顧客との接点を増やす。

【商品開発】

R課長は,マーケティング戦略に基づき,新商品のコード名を新商品Eとして開発することとし,健康志向の20~40代の女性を対象に,次の(1)アンケート調査と(2)商品コンセプトの検討を実施した。今後,(3)~(5)を実施予定である。

(1) アンケート調査

・"大袋やカップは持ち運びにくい","今のスナック菓子の量は多すぎる"などの不満があることが分かった。

・"健康のためにカロリーを少な目にしてほしい"などのニーズが強いことが分かった。

(2) 商品コンセプトの検討

・商品コンセプトとして,"素材にこだわった健康志向で,蓋を閉めて持ち運びができる小さな1人用サイズ"を定めた。

・顧客には"繰り返し密閉できて携行しやすい"というメリットがある。

(3) 試作品の開発

・商品コンセプトにあわせて複数の味,素材,パッケージなどの試作品をつくる。

(4) テストマーケティング

・ネット通販限定で,試作品を用いてテストマーケティングを実施する。ただし,他社にアイディアやネーミングを模倣されるリスクがあるので,テストマーケティングを実施する前にそのリスクに対処するための②施策を講じる。

(5) 新商品の市場導入

・テストマーケティング後に,新商品Eを顧客向けに販売する。

③発売当初は,期間限定で出荷数量を絞った集中的なキャンペーンを実施する。

【プロモーション】

R課長は,インターネットを活用したデジタルマーケティングを展開し,商品が売れる仕組みをデジタル技術を活用して作ることにした。消費者行動プロセスに沿ったプロモーションを,次のように設計した。

(1) 認知(Aware)

・インタビューへの応対などを通じて雑誌のデジタル版などのメディアに自社に関する内容を取り上げてもらうbや,広告などの施策によって顧客のブランドへの認知度が高まる。

(2) 訴求(Appeal)

・Q社の運営するSNSの強化に加えて,商品紹介の専用Webページを新設することで,顧客はQ社の商品に,より関心をもつようになる。

(3) 調査(Ask)

・Q社が,オウンドメディア(自社で所有,運営しているメディア)を充実することで,顧客が,SNSや商品紹介のWebページ上でQ社の商品のレビューに触れる機会が増える。

(4) 行動(Act)

・Q社が,メールマガジンやデジタル広告などの施策を実施して顧客との接点を増やすことで,顧客の商品購入が促進される。

(5) 推奨(Advocate)

・顧客は,ブランドに対するcが高まり,他者へブランドを推奨する。

例として,dが挙げられる。

R課長は,プロジェクトチームでSNSを担当するS主任に対して,"この消費者行動プロセスに沿ったプロモーションの施策に基づき,Q社の運営するSNS上で新商品Eの情報を公開してほしい。ただし,当社の評判を落とすことにつながる対応は避けるように十分に気を付けてほしい。"と指示をした。

Q社の運営するSNS上では顧客が直接書き込みできる。新商品Eの情報公開からしばらくして,Q社がSNSに投稿した内容に対して,ある顧客から"差別的な表現が含まれている"というクレームがあった。これに対して,S主任は投稿の意図や意味を丁寧に説明した。

その後,その顧客から再度クレームがあり,S主任はR課長にこれを報告した。R課長は"今後の対応を決める前に,④SNS特有の事態と,新商品Eの展開を阻害するおそれのあるリスクを慎重に検討するように"とS主任に指示をした。

出典:令和3年度 秋期 応用情報技術者試験 午後 問2