2019年 春期 応用情報技術者試験 問11
RPA(Robotic Process Automation)の監査
保険会社のX社は、ここ数年、経営計画の柱の一つとして"働き方改革"を掲げており、それを実現するために業務の効率向上に取り組んできた。こうした中、全国のX社拠点の業務処理の統括部署である事務部は、約1年前に、ITベンダのY社の提案を基に、X社で初めてRPAを導入した。
事務部がY社に委託して、RPAを導入して開発したシステム(以下、事務部RPAという)は、導入後、おおむね順調に稼働してきたが、一度だけシステムトラブルが発生し、稼働不能になったことがある。
X社の社長は、システムトラブルが発生したこともあり、またRPA導入の効果についても関心があったことから、内部監査部に対して、事務部と情報システム部を対象に監査を実施することを指示した。監査の主な目的は、事務部RPAの運用・保守体制の適切性、X社全体のRPA管理体制の適切性、及び事務部RPA導入の目的達成状況を確かめることである。
【RPAの特徴と対象業務】
(1) RPAの特徴
Y社の提案によると、RPAの主な特徴は次のとおりである。
① 複数の業務システムを利用する定型業務の自動化に適しており、業務の効率向上、ミスの削減などに有効である。例えば、複数の画面を参照し、必要なデータを表計算ソフトに反映して電子メールを送信するなどの一連の業務の自動化に適している。
② 実際のPC操作を基に開発できるので、プログラミングは不要であり、業務知識があれば容易に開発できる。変更や複製も同様に、容易に行うことができる。
(2) 事務部RPAの対象業務
事務部は、X社拠点の定型業務のうち、RPAを導入することによって効率向上の効果が期待できる複数の業務を、対象業務として選定した。選定した業務の例として、生命保険料控除証明書(以下、控除証明書という)の再発行業務がある。
この業務は、顧客からX社への控除証明書の再発行依頼に対して、複数の業務システムの情報を参照して控除証明書を作成し、顧客に送付するものである。
【事務部RPA導入による業務プロセスの主な変更点と効果】
(1) 事務部RPA導入による業務プロセスの主な変更点
各拠点の対象業務を事務部に集約し、集約した業務にRPAを導入した。控除証明書の再発行業務の場合、事務部RPA導入前の業務プロセスでは、顧客の依頼を受け付けた拠点の担当者が、控除証明書の再発行に関わる全ての業務を行っていた。これに対して、事務部RPA導入後の業務プロセスは、次のとおりである。
① 顧客から控除証明書の再発行の依頼を受け付けた拠点は、事務部の所定のメールアドレス宛に、電子メールで控除証明書の再発行依頼を行う。
② 事務部の担当者は、拠点からの依頼メールに基づいて事務部RPAを稼働させ、自動的に作成された控除証明書を顧客に送付する。
(2) 事務部RPA導入による効果
事務部は、事務部RPA導入によって一定の効率向上効果が得られることを、処理時間などが記録された事務部RPAの実行ログを基に確認した。控除証明書の再発行業務の場合、従来は1件当たり15分程度要していた処理時間が1分程度に短縮された。
【事務部RPAの開発体制及び運用・保守体制】
(1) 事務部RPAの開発体制
事務部RPAの開発は、Y社のシステムエンジニア2名が約2か月間、事務部の開発用ブースに常駐して行われた。開発に当たって、事務部は、投資効果などを記載した"導入計画書"を作成し、Y社は、開発及び変更に必要なドキュメントとして"事務部RPA開発用資料"を作成した。
(2) 事務部RPAの運用・保守体制
事務部の担当者2名が、事務部RPAの運用・保守業務を行っている。事務部は、以前のシステムトラブルを踏まえて、情報システム部と連携して、再発防止策を講じて運用・保守面を強化することにした。
【システムトラブルの概要】
事務部RPAが稼働不能になった原因は、事務部RPAと連動している複数の業務システムのうち、あるシステムの画面レイアウトの変更に伴い、事務部RPAとのインタフェースに不整合が生じたことである。本来であれば、事務部が、事前に画面レイアウトの変更に関する情報を把握して対応すべきであったが、画面レイアウトが変更されたシステムは、事務部以外の部署が主管していたので、事務部が変更に関する情報を事前に把握することができなかった。こうした変更に関する情報を事前に把握できるのは、情報システム部である。
システムトラブルが判明した直後に、事務部の担当者から連絡を受けたY社のシステムエンジニアが原因を特定して対応を行った。ただし、あらかじめ障害対応手順を定めていなかったので、システムトラブルの対応に時間が掛かってしまった。
【情報システム部へのヒアリング結果】
情報システム部へのヒアリング結果は、次のとおりである。
① 今後、RPAがより広く利用されるようになることを想定して、早急にRPAに関する管理方針を定める予定である。
② RPAの管理には、全社のRPAの管理責任部署が必要であり、その部署として情報システム部が適任であると考えている。
③ 現在、社内のシステム関連規程類の改訂案の策定を終えた段階である。
【本調査における監査項目及び監査手続】
内部監査部は、以上の予備調査の結果を踏まえ、本調査に向けて監査項目及び監査手続を表1のとおりまとめた。
項番 | 監査項目 | 監査手続 |
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1 | 事務部RPAの導入目的は達成されているか。 | aを査閲し、処理件数と処理時間を記録して、"導入計画書"に記載されている導入目的が達成されているかどうかを評価する。 |
2 | 事務部RPAの変更に必要となる情報が整備されているか。 | bを査閲し、変更に必要となる情報(対象業務、正常処理と異常処理、関連する業務システム、入出力データなど)が明示されているかどうかを確認する。 |
3 | 事務部RPAのシステムトラブルに対するcが講じられているか。 | dを対象にヒアリングし、事務部RPAと連動している業務システムのインタフェースのeに関する情報を、事務部が適時に把握できる体制が整備されているかどうかを確認する。 |
4 | 事務部RPAのシステムトラブル発生時の影響を最小化するための対策が講じられているか。 | 事務部を対象にヒアリングし、システムトラブル発生時のfが策定されているかどうかを確認する。 |
5 | 管理不在のRPAの導入・利用が広がっていくことを防ぐための対策が講じられているか。 | gを査閲し、RPAに関する管理方針として、hが定められているかどうかを確認する。 |