2019年 春期 応用情報技術者試験 問10
サービス運用のアウトソーシング
A社は,生活雑貨を製造・販売する中堅企業で,首都圏に本社があり,全国に支社と工場がある。A社では,10年前に販売管理業務及び在庫管理業務を支援する基幹システムを構築した。現在,基幹システムは毎日8:00~22:00にA社販売部門向けの基幹サービスとしてオンライン処理を行っている。基幹システムで使用するアプリケーションソフトウェア(以下,業務アプリという)はA社IT部門が開発・運用・保守し,IT部門が管理するサーバで稼働している。
【基幹サービスの概要】
A社IT部門とA社販売部門との間で合意している基幹サービスのSLA(以下,社内SLAという)の抜粋を,表1に示す。
種別 | サービスレベル項目 | 目標値 | 備考 |
---|---|---|---|
a | サービス提供時間帯 | 毎日8:00~22:00 | 保守のための計画停止時間1)を除く。 |
サービス稼働率 | 99.9%以上 | - | |
信頼性 | 重大インシデント2)件数 | 年4件以下 | - |
重大インシデントのb | 2時間以内 | インシデントを受け付けてから最終的なインシデントの解決をA社販売部門に連絡するまでの経過時間(サービス提供時間帯以外は,経過時間に含まれない) | |
性能 | オンライン応答時間 | 3秒以内 | - |
注記2 天災,法改正への対応などの不可抗力に起因するインシデントは,SLA目標値達成状況を確認する対象から除外する。
注1) 計画停止時間とは,サービス提供時間帯中にサービスを停止して保守を行う時間のことであり,A社IT部門とA社販売部門とで事前に合意して設定する。
注2) インシデントに優先度として"重大","高","低"のいずれかを割り当てる。優先度として"重大"を割り当てたインシデントを,重大インシデントという。
【インシデント処理手順の概要】
A社IT部門では,インシデントが発生した場合は,インシデント担当者を選任してインシデントを管理し,インシデント処理手順に基づいてサービスレベルを回復させる。インシデント処理手順を表2に示す。
手順 | 内容 |
---|---|
記録 | ・インシデントを受け付け,インシデントの内容をインシデント管理簿1)に記録する。 |
優先度の割当て | ・インシデントに優先度("重大","高","低"のいずれか)を割り当てる。 |
分類 | ・インシデントを,あらかじめ決められたカテゴリ(ストレージの障害など)に分類する。 |
記録の更新 | ・インシデントの内容,割り当てた優先度,分類したカテゴリなどで,インシデント管理簿を更新する。 |
c | ・インシデントの内容に応じて,専門知識をもったA社IT部門の技術者などに,cを行う。 |
解決 | ・インシデントの解決を図る。 ・A社IT部門が解決と判断した場合は,サービス利用者にインシデントの解決を連絡する。 |
終了 | ・A社IT部門は,"サービス利用者がサービスレベルを回復したこと"を確認する。 ・インシデント管理簿に必要な内容の更新を行う。 |
注1) インシデント管理簿とは,インシデントの内容などを記録する管理簿のことである。A社IT部門の運用者からのインシデント発見連絡,サービス利用者からのインシデント発生連絡などに基づいて記録する。
【アウトソーシングの検討】
現在,社内に設置されている基幹システムのサーバは,運用・保守の費用が増加し,管理業務も煩雑になってきた。また,A社の事業拡大に伴い,新規のシステム開発案件が増加する傾向にある。そこで,A社IT部門がシステムの企画と開発に集中できるように,基幹システムをB社提供のPaaSに移行する検討を行った。検討結果は次のとおりである。
- 当該PaaSはB社の運用センタで稼働するサービスである。B社にサービス運用をアウトソースする場合は,A社IT部門が行っているサーバの運用・保守と管理業務はB社に移管され,B社からA社IT部門に対して運用代行サービスとして提供される。
- 業務アプリ保守及びインシデント管理などのサービスマネジメント業務は,引き続きA社IT部門が担当する。
A社IT部門とB社は,インシデント発生時の対応について打合せを行い,それぞれの役割を次のように設定した。
- 表2の手順"記録"における,B社の役割として,dを行うこととする。
- 表2の手順"優先度の割当て"における優先度の割当てでは,A社IT部門が行い,
割当て結果をeに伝える。
【A社とB社のSLA】
A社IT部門は,B社へのアウトソース開始後も,A社販売部門に対して,社内SLAに基づいて基幹サービスを提供する。そこで,A社IT部門は,社内SLAを支え,整合を図るため,A社とB社間のサービスレベル項目と目標値については,表1に基づいてB社と協議を行い,合意することにした。また,B社へのアウトソーシング開始後,A社とB社との間で月次で会議を開催し,サービスレベル項目の目標値達成状況を確認することにした。
A社とB社のSLAは,B社からの要請で次の二つを追加して,合意することにした。
- ①サービスレベル項目として,B社が保守を行うための計画停止予定通知日を追加する。B社はPaaSの安定運用の必要性から,PaaSのサービス停止を伴う変更作業を行う。その場合,事前に計画停止の予定通知を行うこととする。計画停止予定通知日の目標値は,A社IT部門と販売部門の合意に要する時間を考慮して,B社からA社への通知日を計画停止実施予定日の7日前までとし,必要に応じてA社とB社で協議の上,計画停止時間を確定させる。
- サービスレベル項目のうち,B社の責任ではA社と合意するB社の目標値を遵守できない項目があるので,②A社とB社のSLAの対象から除外するインシデントを決める。
なお,PaaSのリソースの増強は,A社からB社にリソース増強要求を提示して行われるものとする。その際,A社からB社への要求は,増強予定日の2週間前までに提示することも合意した。アウトソース開始時のPaaSのリソースは,A社基幹システムのキャパシティと同等のリソースを確保する。
その後,A社とB社はSLA契約を締結し,A社IT部門の業務の一部がB社にアウトソースされた。
【新商品の販売開始】
アウトソースが開始されて半年が経過した時点で,A社は,2か月後に新商品の販売を控え,A社の販売部門とIT部門で次のことが確認された。
- 新商品の販売開始後,販売量の大幅な増加が予測されている。
- 販売量の大幅な増加に伴って,基幹システムが扱うデータ量も大幅に増加する。
- 新商品の販売開始後も,社内SLAの目標値を達成する。
新商品の販売開始に対応するためには,B社でPaaSのリソースを増強する必要がある。そこで,A社IT部門は,キャパシティ管理に関わる③必要な活動を行い,B社にリソース増強要求を提出することにした。