2017年 秋期 応用情報技術者試験 問9
ERPパッケージのベンダ選定
G社は,化学薬品の製造・販売を営む大手の会社である。G社は,10年以上前から現在の販売管理,生産管理及び財務管理の基幹システムをそれぞれ使用している。
G社の業界は法規制に対応した特殊な手順が多いので,これらの基幹システム構築時には,その対応に苦労した。その後,システム利用部署の追加ニーズに合わせて機能拡張を繰り返してきたので,システムは複雑化し,運用・保守費用が膨らんでいた。また,システムが複雑化しているので,システムの拡張は難しくなり,システム利用部署の新たなニーズに十分に応えられない状況となっていた。このような状況下,G社の経営陣は,現在使用している基幹システムを一新することを決定した。
[プロジェクトの立ち上げ]
新システム導入のために,情報システム部門,営業部門,経理財務部門及び生産部門のトップをステアリングコミッティとするプロジェクトチームを組織した。プロジェクトマネージャには,システム部のH課長が任命され,プロジェクトメンバが,システム部とシステム利用部署から選出された。システム利用部署から選出されたプロジェクトメンバは,基幹システムを一新すれば,現在の業務プロセスを変えずに,使いやすいシステムができると期待していた。
なお,G社は全社を挙げて内部統制の整備・運用に力を入れてきたので,社員の内部統制に対する意識は高い。
ステアリングコミッティは,現状の課題を踏まえ,次の方針を決定した。
・法規制に対応した特殊な手順が多いので,化学薬品の製造・販売業界で複数の会社に採用されている,販売管理,生産管理,財務管理のシステムを統合できるERPパッケージを導入する。ERPパッケージは,法規制を遵守して確実な手順を徹底するために設定したG社の内部統制要件を満たすものを選定する。
・G社の複雑な業務をERPパッケージの標準機能に合わせて簡素化して,作業効率向上と運用・保守費用の削減を図り,G社の競争力を強化する。
①この方針の下,プロジェクトのキックオフミーティングが開催され,プロジェクトがスタートした。
[ベンダ調査]
G社では,企業は,利益追求や法令遵守だけでなく,社会に与える影響に対して相応の責任を負うべきであるという考えを,自社だけでなく,調達先の会社にも求めるaを実践している。これを含めて,ステアリングコミッティの方針を満たせるベンダの調査を開始した。
G社は,ERPパッケージに関して十分な情報をもっていなかったので,プロジェクトチームはシステム部と協力して,ERPパッケージを販売し,かつ,システムインテグレーションのサービスを提供しているベンダを調べた。候補となりそうなERPパッケージ4製品について,それぞれのベンダにbを送って,ベンダの会社情報,及び販売するERPパッケージに関する情報を提供してもらうことにした。ベンダは,会社経営上の問題がない企業に限定することにした。H課長は,届いた情報を分析して,表1にまとめた。
ベンダ | ERPパッケージ | 備考 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
G社との取引状況 | ERPパッケージ名 | 業界での採用実績 | 拡張性 | 内部統制要件 | ||
ベンダ名 | 会社概要 | |||||
K社 | 国内大手 | 取引あり | W | 複数あり | 高い | 満たしている |
L社 | 国内大手 | 取引あり | X | なし | 高い | 満たしている |
M社 | 国内中小 | 取引あり | Y | 複数あり | 高い | 満たしている |
N社 | 海外大手 | 取引なし | Z | 複数あり | 中程度 | 満たしている |
これらのベンダのうち,c社を候補先から外し,残りのベンダに,導入から運用・保守までを範囲とするRFP(提案依頼書)を送付した。ERPパッケージの標準機能を変更する方法については,プログラムの動作条件を与えるための情報で,媒介変数や引数とも呼ばれるdの設定,機能追加の目的で作成されるソフトウェアであるアドオン,及びソースコードの修正などのモディフィケーションの処理方式があり,ERPパッケージによって考え方や呼び方が異なることが分かった。導入費用に関わるので,次のベンダ評価の際に,処理方式を詳しく確認することにした。
[ベンダ評価]
提案をもらったベンダに対して,提案内容のプレゼンテーションを依頼した。プレゼンテーション後に,プロジェクトメンバのベンダ評価を取りまとめ,今回発注するベンダを選定する。H課長は上司のシステム部長から,"今回のプロジェクトの特性を考慮すると,要求仕様の理解度・充足度,体制,及びRFPの範囲を全て含んだ費用を重視する必要がある。これらを加味して評価するように。"との指示を受けた。H課長は,システム部長が挙げた評価項目に,他の項目を足して,評点を単純合計して評価する表2のベンダ評価表案を作成した。費用は,必要なハードウェアを見込んだパッケージの導入費,プロジェクトを運営するための人件費などの初期導入費用とした。しかし,システム部長から,この評価表案では,事前の指示を満たしていないので,②評価項目の費用に関する評価基準に新たな内容を加えること,及び③全体の評価方法を変えることを指示された。
評価項目 | 評価基準 | 評点(1~5の点数を入力) | |
---|---|---|---|
例 | 入力欄 | ||
理解度・充足度 | 伝えた要望を満たしているか | 5 | |
追加提案の魅力 | RFP以外で有効な提案をしているか | 3 | |
プレゼンテーションの内容 | プレゼンテーションは分かりやすかったか | 5 | |
使用性 | 画面は分かりやすいか,システムは使いやすいか | 3 | |
将来性 | 拡張性は高いか,保守は容易か | 3 | |
開発・運用体制 | e,システム運用体制は十分か | 4 | |
計画の妥当性 | 計画に漏れはないか,計画に無理はないか | 3 | |
(中略) | |||
費用 | 初期導入費用が予算に比べて,80%以下なら5,80%超90%以下なら4,90%超100%以下なら3,100%超110%以下なら2,110%超なら1 | 2 | |
評点合計 | (省略) |