2022年 春期 応用情報技術者試験 問4

クラウドサービスの活用

J社は,自社のデータセンタからインターネットを介して名刺管理サービスを提供している。このため,運用コストの削減を目的として,クラウドサービスの活用を検討することにした。

[非機能要件の確認]

クラウドサービス活用後も従来のサービスレベルを満たすことを基本方針として,その非機能要件のうち性能・拡張性の要件について表1のとおり整理した。

表1 性能・拡張性の要件(抜粋)
中項目小項目メトリクス(指標)
業務処理量通常時の業務量オンライン処理
・名刺登録処理 1,000件/時間,
データ送受信量 5Mバイト/トランザクション
・名刺参照処理 4,000件/時間,
データ送受信量 2Mバイト/トランザクション
バッチ処理
・BIツール連携処理 1件/日
業務量増大度オンライン処理数増大率
・1年の増大率 2.0倍
性能目標値オンラインレスポンス・名刺登録処理 10秒以内,達成率 90%
・名刺参照処理 3秒以内,達成率 95%
バッチレスポンス・BIツール連携処理 30分以内
注記 BI:Business Intelligence

[クラウドサービスの概要]

クラウドサービスの一覧を表2に示す。

表2 クラウドサービスの一覧
サービス特徴料金及び制約
FWインターネットからの不正アクセスを防ぐことを目的として,インターネットと内部ネットワークとの間に設置する。・料金
1台当たり 50円/時間
ストレージHTML,CSS,スクリプトファイルなどの静的コンテンツ,アプリケーションプログラム(以下,アプリケーションという)で利用するファイルなどを保存,送受信する。・料金(次の合計額)
1Gバイトの保存 10円/月
1Gバイトのデータ送信 10円/月
1Gバイトのデータ受信 10円/月
IaaSOS,ミドルウェア,プログラム言語,開発フレームワークなどを自由に選択できる。設定も自由に変更できるので,実行時間の長いバッチ処理なども可能である。ただし,OSやミドルウェアのメンテナンスをサービス利用者側が実施する必要がある。・料金
1台当たり 200円/時間
PaaSOS,ミドルウェア,プログラム言語,開発フレームワークはクラウドサービス側が提供する。サービス利用者は開発したアプリケーションをその実行環境に配置して利用する。配置されたアプリケーションは常時稼働し,リクエストを待ち受ける。事前の設定が必要だが,トランザクションの急激な増加に応じて,aできる。・料金
1台当たり 200円/時間
・制約
1トランザクションの最大実行時間は10分
FaaSPaaS同様,アプリケーション実行環境をサービスとして提供する。PaaSでは,受信したリクエストを解析してから処理を実行し,結果をレスポンスとして出力することまで開発する必要があるのに対して,FaaSでは,実行したい処理の部分だけをプログラム中でbとして実装すればよい。また,aは事前の設定が不要である。・料金(次の合計額)
1時間当たり 10万リクエストまで0円,次の10万リクエストごとに20円
CPU使用時間1ミリ秒ごとに 0.02円
・制約
1トランザクションの最大実行時間は10分,20分同一度も実行されない場合,応答が10秒以上掛かる場合がある。
CDNストレージ,IaaS,PaaS又はFaaSからのコンテンツをインターネットに配信する。ストレージからの静的コンテンツは,一度読み込むと,更新されるまでcして再利用される。・料金(次の合計額)
1万リクエストまで0円,次の1万リクエストごとに10円
1Gバイトのデータ送信 20円/月
注記 FW:ファイアウォール
CDN:Content Delivery Network

[システム構成の検討]

現在運用中のサービスは,OSやミドルウェアがPaaSやFaaSの実行環境のものよりも1世代古いバージョンである。アプリケーションに改修を加えずに,そのままのOSやミドルウェアを利用する場合,利用するクラウドサービスはIaaSとなる。

しかし,①運用コストを抑えるためにオンライン処理はPaaS又はFaaSを利用することを検討する。PaaS又はFaaSでのアプリケーションは,WebAPIとして実装する。

そのWebAPIは,ストレージに保存されたスクリプトファイルがdとFWを介してWebブラウザに配信され,実行されて呼び出される。

バッチ処理については,登録データ量が増加した場合,②PaaSやFaaSを利用することには問題があることから,IaaSを利用することにした。

検討したシステム構成案を図1に示す。

[PaaSとFaaSとのクラウドサービス利用料金の比較]

アプリケーションの実行環境として,PaaS又はFaaSのどちらのサービスを採用した方が利用料金が低いか,通常時の業務量の場合に掛かる料金を算出して比較する。

クラウドサービス利用料金の試算に必要な情報を表3に整理した。

表3 クラウドサービス利用料金の試算に必要な情報
項目情報
PaaS1台当たりの処理能力性能目標値を満たす1時間当たりの処理件数
・名刺登録処理 200件/台
・名刺参照処理 500件/台
FaaSでオンライン処理を実行する場合のCPU使用時間・名刺登録処理 50ミリ秒/件
・名刺参照処理 10ミリ秒/件

PaaSの場合,通常時の業務量から,オンライン処理で必要な最小必要台数を求めると,名刺登録処理では5台,名刺参照処理ではe台となる。したがって,1時間当たりの費用はf円と試算できる。

FaaSの場合,通常時の業務量から1時間当たりのリクエスト数とCPU使用時間を求め,1時間当たりの費用を試算すると,その費用はg円となる。

試算結果を比較した結果,FaaSを採用した。

[オンラインレスポンスの課題と対策]

クラウドサービスを活用したシステムの運用が始まるとすぐに,早朝や深夜にシステムを利用した際,はじめの画面は表示されるが名刺登録や名刺参照を実行すると,データが表示されるまでに10秒以上の時間を要することがある。どの課題が報告された。クラウドサービスで提供されている各サービスのログを確認したところ,hの制約が原因であることが判明した。そこで,採用したクラウドサービスを別のものには変更せずに,③ある回避策を施したことで,課題を解消することができた。

出典:令和4年度 春期 応用情報技術者試験 午後 問4