2022年 春期 応用情報技術者試験 問10
サービスマネジメントにおけるインシデント管理と問題管理
団体Xは、職員約200名から成る公益法人で、県内の企業に対して、新規事業の創出や既存開拓の支援を行っている。団体Xの情報システム部は、団体Xの業務部門員の業務遂行に必要な業務日報機能や情報共用機能をもつ業務システム(以下、Wシステムという)を開発・保守・運用し、業務部門員(以下、利用者という)に対して、Wサービスとして提供している。
団体Xの情報システム部には、H部長の下、システムの開発・保守及び技術サポートを担当する技術課と、システムの運用を担当する運用課がある。運用課は、管理者のJ課長、運用業務のとりまとめを行うK主任及び数名のシステムの運用担当者で構成され、Wシステムの運用を行っている。また、運用課は、監視システムを使ってWシステムの稼働状況を監視している。監視システムは、Wサービスの提供に影響を与える変化を検知し、監視メッセージとして運用担当者に通知する。
情報システム部は、インシデント管理、問題管理、変更管理などのサービスマネジメント活動を行い、サービスマネジメントのそれぞれの活動に、対応手順を定めている。運用課は、インシデント管理を担当している。また、技術課は、主に、問題管理及び変更管理を担当している。
[インシデント管理の概要]
運用担当者は、監視メッセージの通知や利用者からの問合せ内容から、インシデントの発生を認識し、K主任に報告する。K主任は、運用担当者の中から解決担当者を割り当てる。解決担当者は、情報システム部で定めたインシデントの対応手順に従って、インシデントを解決し、サービスを回復する。インシデントの対応手順を表1に示す。
手順 | 概要 |
---|---|
記録・分類 | (1) インシデントの内容をインシデント管理ファイルに記録する。 (2) インシデントを、あらかじめ決められたカテゴリ(ストレージの障害など)に分類する。 |
優先度の割当て | (1) インシデントの及ぼす影響と緊急度を考慮して、インシデントに優先度を割り当てる。優先度は、情報システム部で規定する基準に基づいて"高"、"中"、"低"のいずれかが付けられる。 (2) 優先度には、優先度に対応した解決目標時間が定められている。 (優先度"高":30分、優先度"中":2時間、優先度"低":6時間) |
エスカレーション | (1) 優先度が"高"又は"中"の場合は、技術課に機能的エスカレーションを行う。優先度が"低"の場合は、解決担当者だけでインシデントの解決を試み、解決できなければ技術課に機能的エスカレーションを行う。 (2) 解決担当者は、優先度にかかわらず解決目標時間内にインシデントを解決できない可能性があると判断した場合は、運用課課長に階層的エスカレーションを行う。 |
解決 | (1) 技術課に機能的エスカレーションを行った場合は、技術課から提示される回避策を運用しインシデントを解決する。 (2) 技術課に機能的エスカレーションを行わなかった場合は、解決担当者が既知の誤り1)を調査して回避策を探し、見つけることができたときは回避策を適用してインシデントを解決する。回避策を見つけることができなかったときは、技術課に機能的エスカレーションを行う。 |
終了 | (1) 利用者に影響のあったインシデントの場合は、インシデントが解決したことを利用者に連絡し、サービスが問題なく利用できることを確認する。 (2) インシデント管理ファイルの記録を更新し終了する。 |
注 1) 既知の誤りとは、"根本原因が特定されているか、又は回避策によってサービスへの影響を低減若しくは除去する方法がある問題"のことで、問題管理ファイルに記録されている。既知の誤りは、問題管理の活動として、技術課によって記録される。
表1で、機能的エスカレーションを受け付けた技術課は、インシデントの内容を確認し、インシデントを解決するための回避策が問題管理ファイルにある場合は、その回避策を運用課に提示する。また回避策がない場合は、新たな回避策を策定し、運用課に提示する。また、表1で、階層的エスカレーションを受け付けた運用課課長は、必要な要員を割り当てるなど、インシデントの解決に向けた対策をとる。
[問題管理の概要]
インシデントの原因となる問題については、問題管理の手順を実施する。問題管理を担当する技術課は、問題をインシデントとも付けて問題管理ファイルに記録する。
問題管理の対応手順は、記録から終了までの手順で構成されている。これらの手順のうち、手順"解決"の活動内容を表2に示す。
活動 | 内容 |
---|---|
調査と診断 | (1) 問題を調査し、診断する。 (2) 問題にとも付けられたインシデントの回避策が必要な場合は、回避策を策定する。 (3) 根本原因を特定し、問題の解決策の特定に取り組む。 |
既知の誤りの記録 | (1) "根本原因が特定されているか、又は回避策によってサービスへの影響を低減若しくは除去する方法がある問題"を既知の誤りとして問題管理ファイルに記録する。 |
問題の解決 | (1) 特定された解決策を適用する。ここで、解決策が構成品目の変更を必要とする場合は、aを提出し、変更管理1)の対応手順を使って、解決する。 |
注 1) 変更管理では、変更の内容に応じた変更の開発やテストが必要であり、変更の実施に時間が掛かる場合がある。
[Wサービスにおけるインシデントの発生とインシデントの対応手順の改善]
ある日、Wシステムの業務日報機能の日報処理が、異常停止した。日報処理は業務部の勤務時間外に行われるが、このとき業務部ではまだWサービスを利用していたので、利用者に影響のあるインシデントとなった。解決担当に割り当てられたL君は、次の対応を行った。
(1) インシデントの内容をインシデント管理ファイルに記録し、インシデントをあらかじめ決められたカテゴリに分類した。
(2) 規定の基準に基づき優先度を"中"と判定し、解決目標時間は2時間となった。
(3) 機能的エスカレーションを行い、技術課のM君が対応することになった。
(4) インシデント発生から1時間経過してもM君からL君への回答がないので、L君は、M君に対応状況を確認した。M君はエスカレーションされた当該インシデントの内容を調査している途中に、他の技術課員から要請のあった技術課内の緊急性の高い業務の対応を行っていて、当該インシデントの対応にしばらく時間が掛かるとのことであった。その後、M君は、インシデントの内容を確認し、今回のインシデントは過去の同じ問題で発生した再発インシデントであることを突き止め、その回避策をL君に回答した。L君が回答を受領した時点で、インシデント発生から1時間40分が経過していた。
(5) L君は、技術課から提示された回避策の適用には少なくとも30分掛かり、解決目標時間を超過してしまうと考えたが、早くインシデントを解決することが重要と判断し、直ちに回避策を適用してインシデントを解決した。結局、インシデント発生から解決まで2時間30分掛かり、解決目標時間を超過した。
(6) L君は、インシデントの対応手順の手順"終了"を行い、その後、状況をJ課長に報告した。
インシデント対応について報告を受けたJ課長は、①L君の対応に、インシデントの対応手順に即していない問題点があることを指摘した。また、J課長は、インシデントの対応手順を修正することで、今回のインシデントは解決目標時間内に解決できた可能性があると考えた。そこでJ課長は、②表1の手順"エスカレーション"に、優先度が"高"又は"中"の場合、技術課に機能的エスカレーションを行う前に運用課で実施する手順を追加する対策を検討することとした。
また、J課長は、以前から、優先度"低"の場合において、運用課だけで解決できたインシデントが少なく、早期解決を難しくしているという課題を認識していた。そこで、運用課では、この課題を解決するために、"運用課だけで解決できるインシデントを増やしたいので対策をとってほしい"という技術課への要望をまとめ、H部長に提示するとともに技術課と協議を行うことにした。
今回のインシデント対応において、M君が技術課内の業務を優先させた点について、運用課と技術課で対策を検討した。その結果、機能的エスカレーションを行う場合は、運用課は解決目標時間を技術課に通知し、技術課は解決目標時間を念頭に、適宜運用課と情報を共有し、連携してインシデント対応を行うとの結論が得られ、運用課と技術課でbを取り交わした。
[問題管理の課題と改善策]
技術課は、今回のインシデント対応の不備と運用課との協議を踏まえ、改善活動に取り組むことにした。
まず、技術課は、問題管理ファイルの内容を調査して、問題管理の活動実態を分析することにした。その結果、回避策が策定されていたにもかかわらず、問題管理ファイルに回避策が記録されるまでタイムラグが発生しているという問題点が存在することが明らかとなった。技術課は、回避策が策定されている問題については、早急に問題管理ファイルに編れなく記録することにした。
次に、今回のインシデントが再発インシデントであったことを踏まえ、再発インシデントの発生状況を調査した。調査した結果、表2の活動"問題の解決"を行っていれば防ぐことのできた再発インシデントが過半数を占めていることが分かった。そこで、技術課は、再発インシデントが多数発生している状況を解消するために、③問題管理ファイルから早期に解決できる問題を抽出し、解決に必要なリソースを見積もった。
技術課は、情報システム部のH部長から、運用課からの要望に応えるため、技術課として改善目標を設定するように指示を受けて、改善目標を設定することとした。そして、現在の機能的エスカレーションの数や運用課が解決に要している時間などを分析して、改善目標を"回避策を策定した日に問題管理ファイルに編れなく記録する"、"現在未解決の問題の数を1年後30%削減する"と設定した。技術課は、H部長から、"これらの改善目標を達成することによって、c割合を増やすことができ、技術課の負担も軽減することができる"とのアドバイスを受け、改善目標を実現するための取組に着手した。
さらに、技術課は、問題管理として今まで実施していなかった④プロアクティブな活動を継続的に行っていくべきだと考え、改善活動を進めていくことにした。