2011年 春期 応用情報技術者試験 問3
事業継続計画(BCP)に関する問題
【A社の事業とシステムの現状】
A社は、D県に本社を構え、関西地方を中心に200店舗を超える多様な業態のレストラン、居酒屋、カフェテリアなどを展開する外食産業である。全店舗のうち、年中無休や24時間営業の店舗が7割を超えている。国内外の契約農場から食材を調達し、いち早くトレーサビリティの管理を徹底してきた。商圏ごとにある二つの調理センタは、調達、製造、物流などの機能を兼ね備えている。徹底した店舗運営管理によって低価格・高品質を実現し、外食産業全体が低迷している中でも業績は堅調である。社長は、関東地方に進出して2年間で店舗数を2倍にする構想をもっている。
A社では、複数のサブシステムで構成される情報システム(以下、A社システムという)が年中無休で連続稼働している。A社システムのサーバ機器類は、本社から車で10分程度のB社のデータセンタ(以下、B1センタという)に設置され、ハウジングサービスを受けている。図1に、A社の飲食事業スキームを実線で、A社システムを破線で表す。
また、A社システムの全面停止に備えたシステム対応状況は、次のとおりである。
① B1センタ内のサーバ機器類は、二重化されている。B1センタのバックアップセンタはない。
② 重要データを業務単位に設定し、毎日、午前0時にフルバックアップを行う。また、フルバックアップ時点から2時間ごとに、差分データのバックアップを行う。
【BCP策定プロジェクトの立上げ】
A社ではBCP策定プロジェクトを立ち上げ、総務部のX部長がプロジェクトリーダに任命された。A社のBCPの方針は、多数の店舗が一斉に、かつ、長時間にわたって営業停止となってはならないことである。したがって、調理センタでの業務が全面停止し、各店舗に加工済食材を供給できなくなってしまうことが最大の問題となる。
X部長は、それぞれの調理センタがある地域で災害が発生した場合を想定し、リソースの確保、業務の外部委託などに関する検討タスクフォースを立ち上げ、ビジネスインパクト分析(BIA)に着手した。一方で、A社システムが全面停止に至った場合のBCPについて、システム部に検討を依頼した。
【目標復旧時間(RTO)と目標復旧時点(RPO)の設定】
A社システムが全面停止しても、調理センタ内の設備、体制が正常であれば、手作業で代替して一部の業務を継続することは可能であるが、早急にシステムの復旧が求められる。業務再開までに必要な作業手順及び実行時間は、次のとおりである。最初に①を実行し、その後は②と③を並行して実行することができる。
① 緊急対策本部判断(本部の設置、BCP発動判断):20分
② 業務再開準備作業(代替業務開始準備作業を含む):70分
③ システム再開作業(①、②は順番に行わなければならない)
① システム再立上げ作業:a分
② データ復旧作業(バックアップデータからの復旧~データ再入力):50分
X部長は、システム部の検討結果を受けて、業務のRTOを100分、システムのRPOを120分と設定した。
【A社のBCPに関する報告】
更なる検討を重ねた後、X部長は、システム停止や災害が発生した場合のA社のBCPに関する報告を取りまとめた。
① B1センタ内のシステムが停止した場合、現状のシステム二重化対策によって業務のRTOを達成できる見込みなので、新たな対策は不要である。
② B1センタがある地域以外で災害が発生した場合、該当地域の店舗(最大20店舗と推定)の営業が数週間から1か月程度停止する。しかし、地域が限定されるので、
これまでどおりリスクをbする方針とし、特別な対策をとらない。
③ B1センタがある地域で災害が発生した場合、A社システムが長時間にわたって全面停止になると、A社の事業を継続できなくなってしまう。災害が発生した場合の事業停止のリスクをcする方針とし、システム対策を強化すべきである。
【バックアップセンタの設立計画】
経営会議での承認を受けたX部長は、重大な災害が発生してもA社の事業を継続させるために、B1センタのバックアップセンタの設立計画作りに着手した。
① 本社から約300km離れたE県にあるB社所有の別データセンタ(以下、B2センタという)のハウジングサービスを利用する。
② B2センタ内には、B1センタと同等性能のサーバ機器類を設置する。すべてのソフトウェアのバージョン及び設定をB1センタのものと同一に保つ。センタ間のデータ整合性確保のために、B1センタで取得したバックアップデータを、B社のネットワークサービスを利用して、速やかにB2センタに伝送する。
③ B2センタ内のバックアップシステムはコールドスタンバイとし、BCP発動後速やかにシステム立上げ作業に着手する。
④ B2センタの運用オペレーションには、B2センタから約3km離れたB社支社の従業員を特別に手配する。B社支社の従業員には、事前にB2センタで必要な運用訓練を受けさせる。B社支社の従業員は、緊急連絡を受けてB社支社や自宅などからB2センタへ移動し、システムを稼働させる。
さらに、A社では緊急対策マニュアルを改訂し、B社を含めた関係者による訓練を半年に1回の頻度で実施することを決めた。